【海外子会社管理】海外子会社でよくある不正の手口14選。

海外子会社を管理するにあたって、どのような不正が起こり得るのかを理解することが重要です。

なぜなら、その不正に対して必要十分な内部統制制度を構築するなど、効果的な対策を取ることができるためです。

海外子会社に最低限必要な内部統制については以下の記事を参考にしてください。

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当記事では、海外で起きやすい不正について具体的な事例を解説したいと思います。

 

不正にはどんな種類がある?

不正調査の専門家団体である日本公認不正検査士協会が、不正の種類を網羅した、「不正の体系図」を公表しています。

 

日本公認不正検査士とは

公認不正検査士(Certified Fraud Examiner)は、不正の防止・発見・抑止の専門家であることを示す国際資格であり、組織内外で発生する不正から組織を守るための取り組みにおいて専門性を発揮する。本部は米国テキサス州。(日本公認検査士協会HPより)

 

「不正の体系図」では、不正を「汚職」「資産の不正流用」「財務諸表不正」3つのカテゴリーに分類しています。

 

出典:2018年度 職業上の不正と濫用に関する国民への報告書/公認不正検査士協会

それぞれ具体的な手法とともに見ていきたいと思います。

 

海外子会社不正―汚職の例

 汚職は、個人または組織がその地位を利用して個人や組織の利益を得ることをいい、「利益相反」「贈収賄」「違法な謝礼」「利益供与の強要」が含まれます。

具体的には、以下のような手法があります。

1.キックバック

キックバックとは、社員が外部担当者と結託して利益を共有する手法です。例えば、500円で仕入れることができる資材を600円と通常より高い価格で仕入れ、差額の100円を仕入業者と担当社員で分け合う場合です。

担当社員と仕入業者が長期間変更しないなど、監視が弱く、馴れ合いが生じる場合にキックバックのリスクが増加します。

2.社員の親族取引

会社にとって不利な条件で従業員の親族と取引する手法です。

海外子会社では、本社から出向する日本人社員が現地の事情に精通していないことも多く、取引先の選定を含む実務の多くを現地で採用するローカル社員に任せるケースが多いですが、気づかないうちに社員の親族企業と不利な条件で取引をしているという場合があります。

3.仕入先からのリベート、ディスカウントの個人利用

仕入の量や時期に応じて、仕入先からディスカウントやリベートを受け取ることがあります。仕入担当者がこのリベートやディスカウントを会社には内密で着服する手法です。

通常、リベートやディスカウントはインボイス・請求書に記載されるため、発覚を防ぐには戦法の担当者との結託が必要です。

4.役人への金銭支払

ライセンス取得や税務調査対応などの公的手続、公的なプロジェクト受注の融通等のため、政府役人に賄賂を送る手法です。

役人への支払いの中には手数料的な性質のものもあるため、該当国においてどこまでが法的・社会通念上セーフか、アウトとなるかに留意が必要です。

5.経費の精算水増し

会社経費以外の個人的な支出についても精算し、着服する手法です。海外では領収書が外国語であったり、業務の実情が把握しきれないこともあり、従業員の立替経費について正確に把握できていないケースがあります。

 

海外子会社不正―資産の不正流用の例

資産の不正流用は、会社資産を横領、窃盗する行為であり、「現金預金」「棚卸資産・その他資産」に区分されます。

「現預金」を別個に区別している理由は、「現金」が価値そのものであり不正の対象となりやすいという性質によるためです。

具体的には以下のような手法があります。

6.会社資金の横領

その名のとおり、会社のおカネを従業員が流用する行為です。特に銀行口座を管理している社員が、同時に経理を担当している場合は発覚を遅らせる仮装会計処理が容易となるので留意が必要です。

7.小切手の偽造

不当に小切手を発行する手法です。小切手の振出には権限者の署名が必要ですが、従業員が署名を偽装して預金を引き出すケースがあります。こちらも発覚を防ぐために会計上の仮装処理が必要となるため、経理、財務スタッフにより行なわれることが大半です。

8.架空従業員への給与振り込み

架空の従業員口座を設定し、従業員給与として振り込む手法です。良く使われる手口は、既に退職した従業員の給与口座を利用するものです。人事マスタの定期的な棚卸しが必要となります。

9.スクラップの売却

製造業では、大量のスクラップが生じる事があります。スクラップでも、まとまったボリュームになればそれなりの売却価値となりますが、海外子会社では、スクラップの処理まで適切に管理できていない会社も多いです。工場担当者が個人的にスクラップを売却して代金を着服するという事例もあるので、スクラップの処理手順を定め、適切に管理する必要がります。

10.サンプル品の横領

購買担当者が仕入れ先から受け取ったサンプル品を個人的に利用する手法です。金額的な重要性は低いですが、不正を行ってもいいと言う社風が蔓延しないように、サンプル品についても会社の資産という意識をもって管理する必要があります。

11. 工場消耗品の不正流用

工場の消耗品は細かい物品も多いため、購入時に資産計上せずに費用として処理していしまう場合が多いです。資産の受払管理を行っていないので窃盗されても気が付かず、会社に損失を与えてしまいます。

12. 償却済資産・遊休資産の窃盗、無断使用

既に会計上償却が終わった資産や利用していない遊休資産は、経営上あまり意識が向かないため管理が疎かになりがちです。償却済資産、遊休資産といえども売却価値はあるため、引き続き固定資産台帳上に計上し、定期的にその実在性を確認する必要があります。

 

海外子会社不正―財務諸表不正の例

財務諸表不正は、会計処理を操作することで内部、外部資料を粉飾し、虚偽の財務報告を行うものです。

財務諸表不正は、直接的に行われる場合と間接的に行われる場合があります。

例えば、経営者が財務数値を操作することで業績を良く見せて役員報酬を引き上げたり、株価を吊り上げてストック・オプションの価値を大きくすることは直接的な財務諸表不正です。

一方で、上記の「汚職」や「資産の不正流用」の発覚を隠蔽するために財務諸表を操作する場合は、副次的な不正といえます。

具体的な手法は以下のような手法があります。

13.売上・利益操作

利経常利益の増加や、利益率の改善など、利益水準を海外子会社の評価指標としている企業は多いのではないでしょうか。

この場合、海外拠点の社長のインセンティブは、「利益をできるだけ大きく見せる」という方向に働きます。

利益は「利益=売上―原価」の数式で算定されますから、利益を増やす方法は2つだけしか有りません。

売上を増やすか、原価を低くすることです。

そのため、財務諸表不正でよくある手法は、売上を増加させる方法原価を低減する方法です。

売上の過大計上

海外進出の目的が、その国・地域における市場拡大である場合、業績評価指標が「売上高の成長率」としている会社がほとんどです。

この海外拠点の社長のインセンティブは、「売上高をできるだけ大きく見せる」という方向に向くため、売上高の過大計上が行なわれるリスクが高まります。

具体的な手法としては、架空売上の計上売上の期間帰属の調整(売上を前倒し計上など)、が考えられます。

原価の過小計上

利益を過大に見せるためのもう一つの方法が、原価の過小計上です。

会計粉飾の手法でよく行なわれるのが、原価の付け替えです。

これは、建設会社やIT開発など、プロジェクト単位で収支管理を行っている会社でおこる不正で、あるプロジェクト(A)において発生した原価を、別のプロジェクト(B)の原価として付け替える方法です。

Aプロジェクトが完成して顧客に引き渡した場合、売上と原価をその会計期間に計上しなければなりません。

ここで、Aプロジェクトの原価のうち一部をまだ未完成のBプロジェクトに付け替えれば、その会計期間における利益額を大きくする事ができます。

その他には、引当金の計上額を小さく見積もることや、負債を簿外にすることで原価を圧縮し、利益を大きくすることができてしまいます。

循環取引

日本、海外問わず問題となる粉飾手法が「循環取引」です。

複数の企業の間で共謀し、商品転売や業務委託を繰り返すことで架空の売上を計上する手法です。

たとえば以下の図において、A社がB社に製品を100で販売し、B社がC社に200で販売、その後同じ製品をC社がA社に300で販売すれば、A社、B社、C社はそれぞれ100の利益を計上し、A社には300の在庫資産を計上する結果となります。

さらに300の資産をBに400で売却すればAは100の利益を得て、Bは500で売却・・・と永遠に続けることができます。

ただし、この手法は在庫資産金額が雪だるま式に膨れ上がっていくので、A社B社、C社のいずれかが最後は不良資産として減損する必要があります。

さいごに

海外子会社でよく行なわれる不正の具体的な手法について解説しました。

動機」「機会」「正当化」の3要素が揃ったときに不正が行われてしまいますが、海外子会社では、不正の3要素が揃いやすい環境にあります。

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地理的に遠いことやビジネス慣習の違いから目が届かないことも多い海外子会社でも、いったん不正が起きると会社全体のリピュテーションに影響を与えます。

必要十分な内部統制とモニタリング体制の構築を行なうことが肝要です。

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