【海外子会社管理】海外子会社に最低限必要な内部統制はこの4つ。

昨今の多発する企業不祥事の影響もあり、企業経営におけるコンプライアンスの重要性は年々高まっています。

特に海外子会社を舞台とした不正が頻発しており、海外子会社において適切な内部統制を構築することが非常に重要になっています。

海外子会社は、日本の会社とは異なる特殊な事情があり、適切な内部統制の構築と運用しコンプライアンス体制を維持することが難しい場合が多いです。

本記事では、内部統制に関する海外子会社の特殊性及び、その中で最低限構築すべき内部統制について解説したいと思います。

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海外子会社における内部統制の特殊性

海外子会社は、国内会社に比べて有効な内部統制を構築・維持することが困難となります。その理由は、主に以下のような海外子会社に特有の事情があるためです。

海外子会社における内部統制の特殊性

1.言語の壁

2.法制度、ビジネス文化の違い
3.経営資源の不足
4.価値観の違い

1.言語の壁

まず、日本から海外子会社をモニタリングする際には、言語の壁に直面します。

日本人が英語で指示を出す場合、よほど流暢でないかぎり伝えたい内容の70%程度しか表現できないと考えるべきで、さらに相手も英語が母国語でない場合は、そちらの理解も70%程度になります。
つまり、70%☓70%=49%程度しか意思疎通ができていないと考えるべきです。

言語の違いにより、指示の不十分な理解によるミスや誤解が生まれてしまうことから有効に機能する内部統制とならないケースが多いです。

2.法制度、ビジネス文化の違い

また、法制度の違いにより、求められるコンプライアンス制度も異なってきます。特に現地国の法律を十分に理解できていない場合、それを遵守することは困難となります。ところが、外国語で公表される現地の法律を適時に理解し、会社実務に落とし込むことは容易ではありません

また、特に発展途上国での事業で注意が必要なのが現地のビジネス慣行です。現地国では当然の実務でおこなわれていることが、日本を含む先進国ではコンプライアンス違反となるようなことはまだまだ多くあります。

たとえば典型的なものは賄賂などでしょう。発展途上国のなかには、賄賂が半ば手数料として当たり前のように請求される国もあります。ところが、先進国ではコンプライアンス違反としてアウトとなります。

このように、現地の法制・ビジネス慣行をよく理解し会社の内部統制に反映させる体制をいかに構築するかがポイントですが、こちらも日本本社の法制度・ビジネス文化の理解不足から容易にできることではありません。

3.経営資源の不足

海外子会社では、管理系の人材にリソースを割り振れないという場合が多いです。通常、海外に子会社を設置する主たる理由は「海外マーケットで売上をあげること」であるため、営業系、事業開発系の人材が優先されます。(事業の成長が優先である日本のベンチャー企業と同じ構図です)。

管理系人材に人員を割けないことから、通常は2名で行うべき業務の職務分離が困難であったり、作業を省力化することで必要な承認作業などの内部統制プロセスが省略されたりしてしまいます。

4.価値観の違い

そもそも日本と外国では、根本的な価値観が大きく異なっています。日本人が通常理解しているような「コンプライアンス」と、海外子会社の従業員が理解している「コンプライアンス」にズレが生じてい場合があるため注意が必要です。

例えば、「家族の利益」を企業の利益よりも優先する華僑系の価値観においては、自分の親族の会社を取引先に選定して、親族企業に有利な条件で取引をすることは、彼らの価値観からしては、企業コンプライアンス違反ではあっても道徳的には正しいことになります。

このような、海外子会社における内部統制の特殊性を考慮した上で、最低限設置すべき内部統制について考えてみたいと思います。

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海外子会社で最低限設置すべき内部統制

企業の内部統制には「発見的内部統制」と「予防的内部統制」の2種類があります。

発見的内部統制とは、不正や誤謬を事後的に発見して、是正するために組み込まれた手続きです。

一方、予防的内部統制とは、不正や誤謬が発生する潜在的リスクを予め予見し、そのリスクが発現しないように設置する手続きです。

内部統制を有効に働かせるためには、「発見的」と「予防的」の両者を組み合わせることが必要ですが、海外子会社における特殊性を考えると、どちらかというと「予防的内部統制」厚めに設置することが有効と考えます。

なぜなら予防的内部統制は、予め現地国の価値観やビジネス慣行を考慮した上で設置することで、海外子会社に特有な事情による内部統制の脆弱性を回避することができ、また一度仕組みを構築すれば(それが遵守されるかぎり)自動的に内部統制が働くため、経営資源的に費用対効果が良いためです。

数多ある企業の内部統制のうち、海外子会社が最低限設置すべき手続きは以下の5つと考えます。なお、1の現預金管理が「発見的内部統制」で、それ以外は「予防的内部統制」となります。

1.現預金管理

現預金」は、価値そのものであるため不正の対象となりやすい性質があります。

現預金に関する不正は、会社資金の物理的な窃盗預金の不正引き出しにより流用を通じて行われることが一般的です。

そのため、定期的に残高を確認する(預金は銀行残高証明書を入手、現金は実際にカウントする)ことや、定期的に預金明細等をチェックして、お金の流れを確認する必要があります。また、出金については適切な決裁権限者を設定し、銀行からの出金について、権限者のみが実行できるようにすることが有効です。

2.システムのアクセス権限

現代のビジネスにおいてITシステムに依存していない会社はないといっていいでしょう。

ほとんどの会社における会計経理や事業管理は、会計システムやERP(基幹システム)を利用してデータ管理をしています。

内部統制という観点からは、不正には隠蔽行為を伴います。そして隠蔽は、データを管理してているシステムに対して行われます

そのため、データを容易に改ざんできないように、システムへのアクセスについて適切な制限を設けることが重要となります。

システムデータの「閲覧」「登録・更新」「承認」「削除」に関するアクセス権者を設定し、担当者が権限を付与されたアクセスのみできる業務フローにする必要があります。

3.新規取引先の選定

海外子会社では、日本本社の目が届きにくいことから現地の社長が自分の親族や友人の会社と取引することで、会社の利益相反取引を行うケースがままあります。また、現地担当者が取引先にとって有利な条件で取引し、取引先からキックバックを受け取ることもよくあるケースです。

上記特殊性の「4.価値観の違い」でも記載しましたが、現地担当者にとってはそれについてあまり悪いことと考えていない場合もあります。

取引先の選定については必ず稟議・決裁を取るようにし、個々の取引条件についても目を配らせるべきです。新規取引の場合は、複数社から相見積もりをとって自社に最も最適な取引を選定するという内部統制を設置することが重要です。

4.職務の分離

職務の分離とは、一連の取引について担当者を別にすべき業務について分離することをいいます。

代表的な例は以下の職務分離があります。

職務分掌の具体例

① 作業と確認:作業者と別の人が確認、承認する
② 取引と記帳:取引を行った人と別の人が会計記帳する
③ 注文と検収:物品の注文を行った人と別の人が入荷・検収する
 

企業活動の不正や誤謬を防ぐためには、企業のあらゆる活動に「職務の分離」の概念を取り入れることが重要ですが、リソースの限られた海外子会社では最低限以下の3つを取り入れるべきです。

最低限取り入れるべき「職務の分離」

・現預金の出納担当者と会計記帳担当者の分離

・給与計算の担当者と支払担当者の分離
・購買・在庫担当者と会計記帳担当者の分離
 

1.現預金の出納担当者と会計記帳担当者の分離

実際にお金を扱う出納担当者が、会計記帳まで行うことができると、会社資金の流用とその隠蔽が容易にできてしまいます。

出納担当者が行った現預金の入出金について、会計記帳担当者という第3者によるチェックができる体制であることが必要です。

2.給与計算の担当者と支払担当者の分離

給与計算まわりも、不正が行いやすい実務です。退職した社員の人事アカウントと口座をりようした資金流用などの手口が一般的です。

こちらについても、人事担当者が行った給与計算について、支払前に出納担当者がチェックできる体制とする必要があります。

3.購買・在庫担当者と会計記帳担当者の分離

原材料や製品など、在庫まわりも換金可能性が高いため、不正の対象となりやすい項目です。

在庫は、仕入時点では購買活動、出荷時点では販売活動に関わる項目であり、在庫数値は企業の営業活動の全般に影響を与えます。そのため、会計上の在庫数値に異常は不正の兆候をあらわすため重要です。在庫担当者が会計数値を改ざんできない体制が必要です。

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以上、職務分離が必要な業務3つを紹介しました。

内部監査を実施する際には、社内規程において上記の分離が定められているか、また実際その規定どおりの運用となっているかを確認することが重要です。

具体的には、会計記帳のログを確認し、会計仕訳入力者が職務分掌規定どおりの人になっているか、や銀行預金の出金実行について権限者が行っているかを確認することが有効です。

さいごに

本記事では、海外子会社に最低限必要な内部統制、4つをを紹介しました。

企業経営には売上・利益を増大させる「攻め」も大事ですが、それと同じくらい無駄なお金が流出したり信用が毀損されないように管理する「守り」が重要となります。

海外子会社におけるコンプライアンス遵守は困難な点もありますが、費用対効果を意識した効率的な内部統制の構築・モニタリングの実施が重要ではないでしょうか。

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