【シンガポール会社設立】シンガポール法人の株主は個人とすべきか法人とすべきか。

会社を新しく設立する際に、その出資者(株式保有者)を個人とするか、法人とするか検討する必要があります。

特に日本企業がシンガポールで会社を設立する場合は、日本本社がシンガポール子会社に出資をするか、またはその日本企業のオーナーが直接シンガポール法人に出資するかで、その後の実務や税金で影響が出てきます。

当記事では、シンガポール法人の株主が個人か、法人かで影響が出る項目について概要を解説したいと思います。

実務面での影響

シンガポール法人出資者について、実務の観点からは「会計監査義務」及び「住所の公開」が重要な検討要素となります。

会計監査を受ける義務

シンガポールで事業を行う場合、一定の要件を満たす場合は毎年会計監査を受ける義務が生じます。

会計監査とは、企業が公表する財務諸表の適切性について、会社や利害関係者から独立した第三者が確認し、意見を表明する業務をいいます。

シンガポールでは、原則として全ての会社及び外国法人支店において会計監査を受ける義務があります。

ただし、規定の要件を満たした場合、「スモール・カンパニー(small company)」として、会計監査が免除されます。

監査が免除となる「スモール・カンパニー」に該当するためには、事業年度を通じて非公開会社(Private Company)である上、以下の3つのうち2つ以上を満たす必要があります。

・年間売上が10百万SGD以下
・総資産が10百万SGD以下
・決算年度末日時点でフルタイム従業員が50名以下

この判定は、親会社や子会社も含めたグループレベル(つまり連結ベース)で満たす必要があります。

グループとしての年間売上及び年間総資産は、親会社が公正妥当と認められる会計基準に準拠した連結財務諸表を作成している場合は、連結売上高及び連結総資産で判定されます。

一方、連結財務諸表を作成していない場合は、単純にグループ各社の売上、総資産を合算した数値となります。

よって、シンガポール法人の株主を日本本社とする場合、「スモール・カンパニー」の判定が日本本社を含めた連結ベースとなるため、会計監査を受けなければならない可能性が高くなります。

会計監査を受けることは、毎年の財務数値を正確に確定でき、コンプライアンス遵守、財務・利益計画が精緻・適切に行えるという大きなメリットがありますが、一方で、コストや対応時間が負担となります。

日本本社を含めるとスモール・カンパニーから外れるような規模感の会社の場合は、会計監査のメリット・デメリットを勘案してシンガポール法人の株主を法人とすべきか、個人とすべきか検討する必要があります。

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登記への住所公開

シンガポール法人の登記簿(Bizfile)の株主欄には、保有株式数、株式の種類や発行通貨のほか、株主の住所が記載されます。

以下、シンガポール登記局(ACRA)にて公表されているBizfileのサンプルです。

https://www.tis.bizfile.gov.sg/ngbtisinternet/productsamples/I003.pdf

Bizfileは、5.5シンガポールドルで購入することができ、だれでも閲覧可能な状態ですので、住所を開示したくない個人株主の場合は、シンガポール法人を日本本社保有とする必要があります。

税務面での影響

シンガポール法人出資者について、実務の観点からは「タックスヘイブン税制」、「配当課税」及び「スタートアップ免税」が重要な検討要素となります。

タックスヘイブン税制

タックスヘイブン税制とは、低税率国のタックスヘイブンを利用した租税回避に対処するため、外国子会社の所得を日本で課税する制度です。

法人税負担率が20%未満で、会社の実態が認められないペーパーカンパニーの場合、当該子会社の利益は日本本社の所得に加算して課税されます。

このタックスヘイブン税制は、法人のみならず、個人にも適用されます。タックスヘイブン税制の対象合算所得となる場合、個人所得税法上の「雑所得」区分に含まれ、総合課税で最大55%(住民税も含む)の税負担となります。

ただし個人の場合、日本からシンガポールに移住して日本の「非居住者」という税務上の地位になれば、シンガポール源泉の所得に関する税金を日本で収める必要はなく、タックスヘイブン税制についても適用外となります。

以上のように、オーナーが日本に居住したまま、経済実態が伴わないペーパーカンパニーをシンガポールに設立して投資収益を得るような場合、個人と法人で税負担が異なってくるため、検討が必要です。

配当金課税

シンガポール法人がペーパーカンパニーではなく、実態のある会社である場合その利益還流の主な方法は配当金となります。

法人の場合、日本では外国子会社配当金不算入制度により、以下の要件を満たす場合は、シンガポール法人からの配当の95%を課税対象から除外できます。

・日本の親会社が、発行済み株式等の25%以上を保有している

・その保有期間が、配当義務確定日以前6ヶ月以上継続している

一方、個人の場合は個人所得税法上の「雑所得」区分に含まれ、総合課税で最大55%(住民税も含む)の税負担となります。

なお、シンガポール側では配当所得は非課税のため、源泉徴収税はありません

シンガポール法人の個人オーナーが日本居住のまま留まる場合は、ペーパーカンパニーでも、事業会社でもその利益が日本で課税対象となってしまうため、税務メリットはあまりありません。

このような場合、シンガポール法人で実態ある経済活動を行うのであれば日本本社を株主とすることが有利となりそうです。

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スタートアップ免税

シンガポール法人税法上、シンガポールの起業促進のため、スタートアップ企業向けの免税制度 (Tax Exemption Scheme for New Start-up Companies)があります(執筆時現在)。

具体的には、設立後3賦課年度にわたり、以下の所得控除が利用できます。

最初のSGD100,000: 75%控除
次の SGD100,000: 50%控除

つまり、課税所得がSGD200,000以上の場合、SGD125,000を控除できる制度です。

このスタートアップ免税の適用要件の一つが、株主が個人、または少なくとも株主の一人が会社の10%を保有する個人であることを求めており、日本本社が100%保有する場合は適用できません。

法人が株主の場合は、通常の所得控除制度(Partial Tax Exemption)が適用、以下の所得控除額となります。

最初のSGD10,000: 75%控除
次の SGD190,000: 50%控除

つまり、課税所得がSGD200,000以上の場合、SGD102,500を控除できる制度です。上記スタートアップ免税が3年経過して失効した場合はこちらを利用することになります。

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さいごに

以上、シンガポールで法人を設立するにあたって、出資者を個人とすべきか、法人とすべきかその違いについて解説しました。

税金の多寡や会計監査負担など、シンガポール法人の運営コストにも影響が出てくるため、法人設立に当たっては専門家の意見も参考に慎重に検討することをおすすめします。


当該情報は執筆時現在に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。

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