シンガポールは法人税率17%と、低税率国となっておりますが、原則として、決算日から2ヶ月以内に法人税の申告を行う必要があります。
シンガポールの会社法人税計算は、非常にシンプルです。日本ですと事業税や住民税などの影響があったり、複雑な調整項目があったりしますが、シンガポールは原則として税率17%の法人税一本であり、税務当局としてもなるべく税務申告の負荷を減らして事業運営の効率化を進めることを目指していますので、制度はシンプルになることを志向しています。
シンガポールの会社法人税の計算概要を示すと上記表の流れになりますが、今回はミドリで囲った項目である、課税対象所得と非課税所得、また免税とすることができるタックスリベートの制度について解説したいと思います。
(シンガポール法人税の申告方法については、(図解)シンガポールにおける法人税の申告方法 を損金項目やキャピタルアロワンス、繰越欠損金については シンガポール法人税について詳しく解説。をご参照ください。)
会社を新しく設立する際に、その出資者(株式保有者)を個人とするか、法人とするか検討する必要があります。 特に日本企業がシンガポールで会社を設立する場合は、日本本社がシンガポール子会社に出資をするか、またはその日本企業のオーナーが直接[…]
課税対象となる所得
シンガポール会社法人税法上、原則として以下の所得が課税対象となります。
- シンガポールで稼得(accrued in)所得
- シンガポールに由来する(derived from)所得
- シンガポール国外を源泉とする所得で、シンガポールにて受領した(received in)所得
具体的には、以下のような所得が課税の対象となります。
- シンガポールで課税対象となる所得の例
-
- 事業所得
- 配当、利息、賃貸料など投資所得
- ロイヤルティ、プレミアムなど資産から生じる所得
- その他損益取引(revenue in nature)から生じる所得
また、上記③の所得における「受領」(received in)について、IRASは以下の通り定義しています。
- シンガポール国内への送金
- シンガポール国内での事業における負債との相殺
- 国外で購入し、シンガポール国内に持ち込んだ機器や原材料などの動産(moveable property)の支払
少しわかりずらいかもしれませんが、例えば国外の子会社や支店で稼得した所得について、シンガポール法人に送金されない限り、シンガポールでは課税所得に含まれませんが、いったん送金されシンガポールにて受領された場合は課税されるということになります。
全世界所得VS領域内所得課税方式
シンガポールにおける法人税課税は、いわゆる領域内所得課税方式に則っており、シンガポール国内に関する所得のみを課税対象とする考え方です。
これは、シンガポールがグローバル大企業や金融センターの誘致を国是としているため、外国企業がシンガポールに拠点を置く魅力を高めるためにも、法人税課税範囲を限定し、あくまでもシンガポール国内に関する所得のみを課税対象としていると考えられます。シンガポールと並ぶグローバル金融センタであり統括拠点である香港についても、同様に領域内所得課税方式がとられています。
ちなみにこの領域内所得課税方式と対をなす概念として、全世界所得課税方式という考え方があります。こちらはその名が示す通り、全世界、つまり国内のみならず国外を源泉とする所得についても、全て課税対象とする方式です。
ちなみに、日本では、海外における所得も課税対象となり、全世界所得課税方式をとっています。ただし、外国で課税された所得について日本でも課税所得に含めると、2重課税となってしまい、税の公平を害してしまいます。
そこで、日本では外国子会社の配当金については、日本の法人税申告上課税所得に合算しない「外国子会社配当益金不参入制度」や、外国で支払った税額を日本の申告上控除できる「外国税額控除」制度を設け、全世界所得方式から「領域内所得課税方式」へ一部修正されています。
*海外子会社配当益金不参入制度:日本の親会社が外国子会社から受取る配当について、95%を益金不参入(つまり課税対象外)とする制度。
*外国税額控除:国外で課税された所得については、一定の金額を限度として、その所得について国外で支払った税額について、日本の所得税から控除する制度。
国外源泉所得の免税
シンガポールにいて課税対象となる所得の3番目、「シンガポール国外を源泉とする所得で、シンガポールにて受領した(received in)所得」については、一部免税とすることができるため留意が必要です。
当該所得のうち、免税とすることができる所得は、①シンガポール居住法人が受け取った配当、②支店の事業所得及びサービス所得であり、以下の要件を全て満たす必要があります。
- シンガポール国外を源泉とする所得が免税となる要件
-
- 所得の国外源泉地国の法人税率(最高税率)が15%以上(実際の税率が15%以下でも良い)
- 所得の国外源泉地国で課税対象となっている
- 免税とすることがシンガポール居住法人にとって利益がある
法定最高税率が15%より低い国はほとんどありませんので、原則的に国外を源泉とする配当金等は免税と考えて問題ありません。なお、15%はその国における最高税率であり、実際の税率が15%以下となっていても免税となります。
一方で、例えば税率が非常に低い、または非課税であるタックスヘイブンなどからの配当については、上記の要件を満たさず、課税対象となる点留意が必要です。
キャピタルゲイン免税
シンガポールでは、原則として資産の売却益や資本取引から生じる利益(キャピタルゲイン)は非課税となっています。
詳細については、シンガポールで株式を売却した時の課税は?キャピタルゲイン詳説にて解説しています。
スタートアップ企業の免税スキーム
シンガポールにおける起業を促進するため、スタートアップ向けの免税制度(Tax Exemption Scheme for New Start-up Companies)があります。これは、設立から3賦課年度の間、所得の一部が免税となる制度です。2005年に導入され、比較的長期にわたり運用されている制度ですが、2018年度の税制改正により2020賦課年度より一部修正されているため注意が必要です。
スキームの適用要件
以下の要件を全て満たす場合は、スタートアップ免税スキームを適用することができます。ただし、投資持分会社(investment holding)や、不動産開発・投資会社(property development for sale for investment or for both)は利用することができません。
- スタートアップ免税スキームの適用要件
-
・シンガポールにおいて設立された会社であること
・適用する賦課年度においてシンガポール居住法人であること
・適用する賦課年度を通じて株主数が20名以下であること
・株主は全て個人、または1人の株主が発行済普通株式総数の少なくとも10%以上を保有していること
免税金額の計算
当該免税制度を利用した場合、免税金額は以下となります。
〜2019賦課年度 | 2020賦課年度以降 | |
---|---|---|
免税となる金額 |
最初のSGD100,000 : 全額免税 次のSGD200,000 : 50%免税 |
最初のSGD100,000 : 75%免税 次のSGD100,000 : 50%免税 |
課税所得SGD30,000 の場合の免税所得 |
SGD200,000 (最初の100,000 + 次の100,000(200,000*50%) |
SGD125,000 (最初の75,000+ 次の50,000(100,000*50%) |
上記の税額(実効税率) | SGD17,000 ( 5.6%) | SGD29,750 (9.9%) |
上記のとおり、当該制度を適用すれば税率を17%から9.9%まで下げることができます。起業したてで、資金繰りが厳しいスタートアップにとっては、ビジネスが軌道に乗るまでの間嬉しい制度ですね。
部分免税スキーム
設立から3年を超えるスタートアップ以外の企業についは部分免税スキーム(Partial Tax Exemption for Companies: PTE)を適用することができます。こちらも2018の税制改正により、2020年賦課年度より一部改正がありますので留意が必要です。
〜2019賦課年度 | 2020賦課年度以降 | |
---|---|---|
免税となる金額 |
最初のSGD10,000 : 75%免税 次のSGD290,000 : 50%免税 |
最初のSGD10,000 : 75%免税 次のSGD190,000 : 50%免税 |
課税所得SGD30,000 の場合の免税所得 |
SGD152,500 (最初の7,500 + 次の145,000(290,000*50%) |
SGD102,500 (最初の7,500+ 次の95,000(190,000*50%) |
上記の税額(実効税率) | SGD25,075 ( 8.3%) | SGD33,575 (11.1%) |
上記のとおり、ほとんどのシンガポール法人について、課税所得SGD300,000(日本円で2400百万円程度)までは実効税率が11%程度となります。シンガポールが低税率国と言われるのも納得が行きますね。なお、当該制度は、設立後3年超経過して上記スタートアップ免税スキーム対象外となった企業についてももちろん利用できます。
タックスリベート
上記の免税スキーム以外に、全てのシンガポール企業が利用できるタックスリベート(Tax Rebate: 税額控除)があります。こちらの金額は毎年シンガポール政府により政策的に決定され、税制改正においてアナウンスされます。近年のタックスリベートの推移は以下の通りとなります。
賦課年度 | 税率 | 控除限度額 |
---|---|---|
FY2016 | 50% | SGD20,000 |
FY2017 | 50% | SGD25,000 |
FY2018 | 40% | SGD15,000 |
FY2019 | 20% | SGD10,000 |
FY2020 | 25% | SGD15,000 |
以上、シンガポール法人税申告における所得の考え方と、所得免税のスキームを概観しました。特に免税スキームについては頻繁に改正される項目でもありますので、申告にあたっては最新情報を確認するようにしましょう。
当該情報は執筆時現在に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。