【シンガポール・会社設立】海外進出の際に留意すべき国際税務の論点。

海外移住にあたり、国際税務に留意することが重要です。

国際税務の論点を理解していないと、海外移住に際して予想外の税金が発生する可能性があります。

特にシンガポールは日本に比べて税率が低く、節税を目的とした移住を考える方も多いため、日本の税務当局でも日本居住の納税者との間に不公平が起きないよう、シンガポール移住や海外法人の設立を利用した節税に対して対策がとられています。

当記事では、海外進出の際に留意すべき国際税務の主要な論点3つを紹介したいと思います。

タックスヘイブン税制

まず最初に留意すべき国際税務の論点は「タックスヘイブン税制」です。

タックスヘイブン税制とは、低税率国のタックスヘイブンを利用した租税回避に対処するため、外国子会社の所得を日本で課税する制度です。

法人税負担率が20%未満で、会社の実態が認められないペーパーカンパニーの場合、当該子会社の利益は日本本社の所得に加算して課税されます。

このタックスヘイブン税制は、法人のみならず、個人にも適用されます。タックスヘイブン税制の対象合算所得となる場合、個人所得税法上の「雑所得」区分に含まれ、総合課税で最大55%(住民税も含む)の税負担となります。

タックスヘイブン税制の適用を回避するためには、個人であれば日本から離れて非居住者となり、日本の課税対象から外れる必要があります。

また、法人の場合は、会社の実態を備えること、具体的には主たる事業所をシンガポールに有することや、事業の管理、支配をシンガポール法人で行うことが必要となります。

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移転価格税制

2つ目の国際税務の論点は「移転価格税制」です。

移転価格税制とは、グループ会社間における取引を適正な価額で行うことで、公正な納税を行うことを促す制度です。

移転価格税制は、関連会社(Related Party)の間でモノやサービスのやり取りをしている場合に問題となります。

たとえば、日本とシンガポールで考えてみましょう。

日本の法人税実効税率は30%で、シンガポールの17%と比べ高くなっています。そのため、グループ会社レベルで考えた場合、日本で利益を落とすより、シンガポールで利益を計上して納税した方が、全体の納税負担が少なくなります。

ここで、グループ会社の取引であれば価格をある程度調整できてしまうため、グループ全体から見て税率の低い国に利益を落として、節税できてしまうのです。

日本本社からシンガポール子会社に業務委託を行い、シンガポールで売上を計上することで全体の税額を下げることができるため、この業務委託費は、外部業者との取引と同レベルの公正な価格(=独立企業間価格)で行わなければなりません。

一定の取引金額以上になると、各国で移転価格の文書化を求められます。

ただし、文書化の基準を下回る取引金額でも、一般的な税務調査で移転価格について指摘されるため、海外進出する際には、移転価格税制に留意して妥当な価格で取引することが必要です。

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出国税

3つ目の論点は、「出国税」です。

出国税とは、1億円以上の有価証券を持つ個人が、国外に転出する場合に、その有価証券の含み益に対して所得税が課税される制度です。

日本において有価証券の売却益は、その売却時に20%程度の税金がかかります。一方で、シンガポールでは有価証券の売却益に税金がかかりません。

そのため、売却益への課税を回避するため、日本から転出してシンガポールに移住後に有価証券を売却する事例が相次ぎました。

そこで2015年より出国税が施行され、たとえ有価証券を売却していなくても、1億円以上の有価証券を持つ個人は、国外転出時に、売却したと仮定して算定した税額を納税することとなりました。

出国税は有価証券をキャッシュに換金する前に納税を求められるため、有価証券を多額に保有する富裕層にとっては、まとまった納税資金を用意する必要があり、国外移住の障害となる場合があります。

有価証券を多額に保有している方で日本から外国に移住する場合は、資金計画など慎重に検討する必要があります。

さいごに

以上、海外進出の際に留意すべき国際税務の主要な論点3つを紹介しました。

タックスヘイブン税制や移転価格税制など、国際税務の論点の中でもかなりテクニカルで慎重に判断すべき論点となります。

海外移住や海外進出を検討している方で、これらの税制に該当しそうな場合は、国際税務の専門家へ相談いただくことが重要です。


当該情報は執筆時時点に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、弊法人作成後、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。

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