シンガポールの会計・財務アドバイザリー

【2024年度シンガポール予算案】税制改正の概要について。

2024年2月16日に、シンガポールの国家予算及び税制改正の2024年版が公表されました。

法人税、個人所得税及びその他の税制について、以下の税制改正が提案されています。

主要な改正について、概略を解説したいと思います。

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法人税(Corporate Income Tax)

法人税のリベート(法人税額控除)

最近の物価上昇の軽減を目的とし、2024賦課年度において、法人税額の50%をリベートとして税額控除されます(CIT Rebate)。この金額は、2024賦課年度の11月末を期限とする税務申告計算の中で自動的に控除されます。

また、2023年度に少なくとも1名のローカル従業員を採用している会社は、補助金としてSGD2,000のリベートを受けます(CIT Rebate Cash Grant)。こちらの金額は、2024年第3四半期(7〜9月)の間に現金が支払われます。上記のCIT Rebateの計算において、このCIT Rebate Cash Grantを控除した金額がCIT Rebateとして税務申告時に控除されます。

例えば、ローカル従業員を採用する会社の法人税額がSGD30,000であった場合、まず第3四半期にSGD2,000の現金を受取り、11月末期限の税務申告において、SGD30,000X50%-SGD2,000=SGD13,000 がCIT Rebateとして、税額控除されます。

ローカル従業員の採用判断については、CPFの拠出を行っているかで判断され、取締役を兼務する株主は含まれません。

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リノベーション及び改修に対する税額控除の強化

最近の企業コンプライアンス負担の軽減を目的として、リノベーション及び改修(Renovation and Refrubishment)に関する税額控除について、その対象となる支出の範囲や支出年度(2025〜2027賦課年度)の時期が拡張されます。

現状の法人税法14Nの規定では、リノベーション及び改修(Renovation and Refrubishment)に関する税制適格な支出について支出した年度から3連続年度において、毎年の上限をSGD300,000として定額法で損金算入することができます。

改正後は適格支出の範囲が、デザイナーや専門家費用が含まれることなど公表されていますが、さらなる詳細は今後アナウンスされるとのことです。

返金可能な投資クレジット(Refundable Investment Credit: RIC)の導入

投資先としてのシンガポールの魅力を高めるため、返金可能投資クレジット(Refundable Investmnet Credit:RIC)の導入が公表されました。

RICは、最大適格支出の50%をサポートするもので、会社法人税額と相殺されるクレジットとなるようです。

法人税額を超えて発生した利用されなかったクレジット金額はクレジット取得の条件を満たしてから4年以内に返金されるというものです。

さらなる詳細は今後アナウンスされるとのことです。

BEPSルール下での所得合算ルール(IIR)及び国内トップアップ税(DTT)の施行

シンガポールにおいて国際課税の枠組みであるBEPSの下、所得合算ルール(Income Inclusion Rule: IIR)及び国内トップアップ税(Domestic Top-up Tax)が導入されます。

2025年1月1日より始まる事業年度からグループ収益が750millionユーロを超える多国籍企業に対して、最低実効税率が15%となるまで課税されることとなります。

なお、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)とは、多国籍企業が税負担を軽減するために、利益を税率の低い国や地域に移転させる行為を指します。OECD(経済協力開発機構)はこの問題に対処するため、BEPSプロジェクトを立ち上げ、多国籍企業の税逃れを防ぐための国際的な取り組みを進めています。

「Income Inclusion Rule(所得合算ルール)」は、低税率の国や地域に利益を移転して税負担を不当に低くしている多国籍企業に対して、親会社が居住する国がその利益に対して追加の税金を課すことを可能にする規則です。

具体的には、多国籍企業の子会社や関連企業が低税率国で得た利益がある最低税率以下で課税されている場合、その子会社や関連企業が属する国以外の国(通常は親会社の居住国)が、不足している税金を上乗せして徴収することができます。

この規則の目的は、多国籍企業が税負担を避けるために利益を低税率の国へ移転することを抑制し、国際的な税務の公平性を確保することにあります。これにより、税収の確保と公平な税制の実現を目指しています。

Income Inclusion Ruleを通じて、グローバルな最低税率の適用を実現することで、税率の競争を防ぎ、各国が公平な条件で税収を得られるようにすることが期待されています。これは、国際社会が一致協力して税基盤の侵食と利益移転に対抗するための重要なステップとなります。

“Domestic top up tax”は、このIncome Inclusion Ruleに従って、多国籍企業が一定の最低税率以下で税金を支払っている場合、その不足分を居住国で上乗せされる税となります。

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その他公表された法人税に関する税制改正

上記以外で公表された法人税に関する税制改正のトピックは以下のとおりです。多国籍企業や特殊な業界が対象となります。詳細が知りたい場合は、原文をご確認ください。

・シンガポールのファンドに対する税務インセンティブの拡張

・海運会社の適格所得の計算について新しい考え方

・ファイナンス&トレジャリーセンターへの追加的軽減税率

・航空機リース・スキームへの追加的軽減税率

・開発・拡張スキームへの追加的軽減税率

・不動産開発インセンティブへの追加的軽減税率

・グローバルトレーダープログラムへの追加的軽減税率

・不動産デベロッパーの加算印紙税払戻し率の改定

個人所得税(Individual Income Tax)

2024賦課年度の個人所得税リベート

生活コストの上昇をサポートするため、2024賦課年度において、シンガポール居住者個人所得税の50%についてSGD200を上限に還付されます。

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扶養控除の被扶養者対象年収をSGD8,000に引き上げ

従来、扶養家族の年収がSGD4,000を超えない場合に配偶者、子供控除などの扶養控除を受けることができました。

この年収上限について、2025賦課年度よりSGD8,000に引き上げられます。

その他公表された個人所得税に関する税制改正

上記以外で公表された法人税に関する税制改正のトピックは以下のとおりです。主に、シンガポール市民及び永住権保持者(PR)が対象となります。詳細が知りたい場合は、原文をご確認ください。

・住宅向け固定資産税率を適用する不動産評価額の引上げ

・住宅不動産のGIRO支払スキームの拡張

・独身のシンガポール市民への加算印紙税の軽減税率

・学習コース授業料税額控除(CFR)の失効

・CPF現金トップ・アップ税額控除の廃止

その他の税金

法人税、個人所得税以外の税制変更としては、以下が公表されています。

・国外人道支援に対する税額控除スキームの導入

・著述家等へのロイヤルティ所得の軽減税率の廃止

2025年〜2028年の間に支出された国外の人道支援に対する支出を税額控除できる制度が導入されます。

また、現在認められている著述家や芸術家へのロイヤルティ所得への軽減税率が2027賦課年度以降、徐々に撤回されることが公表されています。

さいごに

2024年度の税制改正について、日本人在住者に影響がある項目は、以下のリベートがまず挙げられます。

個人所得税のリベート(50%、ただし最大SGD200)

会社法人税のリベート(50%、ただし最大SGD40,000)

金額の大小はともかく、税金が減ることは素晴らしいことですね。

その他、高まる生活費に対する個人へのサポートとして、シンガポール国民やPRに対する減税処置があります。日本人駐在員や現採民にはあまり恩恵がなさそうですね。

会社法人税関係では、シンガポールの投資先としての魅力を高めるような、シンガポールが誘致したい業界へのインセンティブが目立ちます。ここらへんの業界で働くことはメリットがありそうです。

Singapore Budget 2024 -Overview of tax changes

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