海外子会社の利益還流方法と税務上の留意点。

海外事業が軌道に乗り、海外子会社が利益を稼ぐステージとなった場合、その稼得した利益をどのように日本親会社へ還流させるか、資金の還流方法を検討する必要があります。

特に海を渡ってお金が動く場合は、実際に日本本社が手にできる金額が各国の税制や金融規制などの影響で異なってきます。

当記事では、海外子会社から日本本社への資金還流方法について見ていきたいと思います。

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資金供給の方法と資金還流方法

海外子会社から日本本社への資金還流方法として、主に「配当による還流」、「利息による還流」、「ロイヤルティまたはマネジメントフィーによる還流」が考えられます。

上記のうち「配当による還流」及び「利息による還流」は、親会社から子会社への資金供給の方法と密接に関連しています。

すなわち、子会社への資金供給を出資(資本金)とした場合、子会社からの利益は「配当」により回収することとなります。

一方、小会社への資金供給を貸付とした場合、その貸付金からの回収は、事前に定められた金利に基づいた「利息」という形で回収することとなります。

出資と貸付の比較

ここで、資金供給方法としての出資と貸付はどのような違いがあるか、簡単にまとめておきましょう。

出資の場合は、出資先会社の株主となる一方、貸付の場合は、外部の債権者というポジションとなるため、以下のような違いが生じます。

出資のメリット

  • 元本返済が不要 → 財務が安定する
  • 定期な利息払いが不要 → 利払いの資金負担がない

出資のデメリット

  • 株主として経営に参加するため、株主としての責任を負う(会社が倒産した場合は、清算。財産の分配は、債権者、従業員に劣後して最後となる。

貸付のメリット

  • 親会社は定額の返済を受けることができる。
  • 親会社は定額の利息払いを受けることができる。

貸付のデメリット

  • 子会社は資金を返済する必要があるため、財務が安定しない
  • 定期的な利息払いが必要 → 利払いの利息負担がある

出資とするか貸付とするかは、経営へのコミット度合いや、親会社以外の出資先との関係、資金が拘束される度合いを鑑みて決定することになります。

ただし子会社を海外に設立する場合は、営む事業や求められるライセンスの種類、駐在する社員の人数などによって、最低資本金の金額が定められています。

そのため、求められる最低資本金を満たす金額については最低限出資の形態で拠出した上で、追加的に必要な事業資金を、親会社からの出資とするか、または貸付とするか、場合によっては外部の金融機関などからの借入とするか、を検討する必要があります。

なお、シンガポールでは会社の設立に際して最低資本金制度は存在しないため、1シンガポールドルで設立することが可能です。

ただし、駐在員の就労ビザ(Employment visa)を申請する場合は、100,000シンガポールドル(800万円)程度の資本金を注入することが必要です。(この理由の一つとしては、シンガポールに実態のないペーパーカンパニーを設立して、外国人がシンガポールに居住してしまうことを防ぐことが考えられます。)

配当による利益還流の留意点

出資により資金供給した場合、配当により利益や資金を回収することになります。配当により海外子会社から利益を還流する際には、親会社側において「外国子会社配当益金不算入制度」、海外子会社側においては「各国の源泉所得税」に留意する必要があります。

海外子会社配当益金不算入制度

海外子会社配当益金不算入制度とは、要件を満たした海外子会社からの配当については日本の法人税計算上益金として取り扱わないことで、課税対象に含めないとする制度をいいます。

なぜこのような制度が導入されているのでしょうか。

配当は、子会社側で既に課税された利益を原資とするため、「税引後利益の還流」と言えます。一度海外子会社側で課税された剰余金の配当について、日本側でも再度法人税が課税されてしまうと、シンガポール側、日本側で2重課税となってしまいます。

そのため、日本の税法では2015年税制において、海外子会社配当益金不算入制度が施行されました。

海外子会社配当益金不算入制度とは、日本の親会社が海外子会社から受け取る配当について、その配当金の95%を益金不算入とされる制度です。ただし、当該制度を適用するためには、以下の要件を満たす海外法人でなければなりません。

  1. 日本親会社が、発行済株式等の25%以上の株式等を保有している
  2. その保有期間が配当義務確定日以前6ヶ月以上継続している

上記の要件を満たした海外子会社からの配当については、日本本社の税務申告上、益金の算入から除外できることとなっています。

配当の源泉所得税

一般的に、国をまたいでお金を支払う場合は、支払の際に予め一定金額を天引きして、各国の税務当局に納付する必要があります。

これを、源泉所得税といいます。

ただし、シンガポールでは、ワンティア・システムという考え方を採用しており、配当については原則として非課税となっています。そのため、国外に支払われる配当対する源泉所得税についても非課税となっています。

*ワンティアシステム:法人が稼得した所得を最終課税とし、その後株主に分配された配当については課税しないとする考え方。

利息による還流

貸付により資金供給した場合の資金還流方法は、利息による回収となります。この方法で留意すべき点は、親会社側では「外国税額控除」、子会社側では「源泉所得税」となります。また、支払利率を決定する際には、「移転価格税制」についても留意しなければなりません。

外国税額控除

利息による資本還流を行う場合、海外子会社が支払う利息は、課税される前の資金を原資とする「税引前利益の還流」となります。

この場合、当該利息は日本本社の法人税上益金に算入され、法人税を納付しなければなりません。

一方で、利息の場合も一般的に、国をまたいでお金を支払うことになるので、前述の源泉所得税を支払う必要があります。

当該利息は、日本本社における法人税計算において、益金算入され、源泉所得税と日本国法人税の2重課税となってしまいます。

そのため、一定の金額を限度に、外国で支払った税額を日本国の法人税額から控除すること(外国税額控除)を認めています。

なお、シンガポールにおいては法人税申告上、利息は損金算入することができますが、投資用借入などではない「所得を稼得する」ための借入から生じた利息に限定されます。過小資本税制や過大支払利子税制は適用されていないため、これ以外で特に損金算入額の上限はありません。

利息の源泉所得税

シンガポールでは、利息の支払に際して15%(ただし租税条約を適用する場合は10%)の源泉所得税を支払う必要がありますので、日本本社側において、前述の外国税額控除を利用することを検討します。

無利息(低額利息)貸付の寄附金認定

金銭の貸し借りを行う場合は通常、正常な条件で取引を行うことが求められ、適正な金利水準にて利息を授受することが求められます。

そのため、日本の本社が海外子会社に対して無利息または低利で貸付を行なっている場合は税務調査の際に適正な金利水準で算定された利息相当額について寄附金認定され、「(貸方)寄附金(借方)受取利息」という取引が認定され、受取利息部分が追徴課税されるリスクがありますため注意が必要です。

移転価格税制

移転価格税制とは、グループ会社間における取引を適正な価額で行うことで公正な納税を行うことを促す制度であり、グループ会社間の取引価格を外部第三者との取引価格と同水準である独立企業間価格(Arm’s Length Price)を用いることが求められます。

移転価格税制の下では、グループ間の貸付について外部第三者との取引水準と同等の適正水準でおこなうことが求められ、貸付利息が適正でないと判断される場合は、適正金利と実際金利の差額について、追徴課税及びペナルティを受けるリスクがあります。

シンガポールでは、実務の簡便化のため政府が指標利率(Indicative margin)を公表しています。当該指標金利に基づいて利率を決定している限りにおいて移転価格税制で問題となることはないでしょう。

前掲の「無利息貸付の寄附金認定」と「移転価格税制」により、親会社から海外子会社への貸付利息が適正でないと判断される場合、親会社側で「無利息貸付の寄附金認定」と「移転価格税制」、海外子会社側で「移転価格税制」による追徴と、2重の追徴課税を受けるリスクがありますので、利息による資金還流の方法を選択する場合はその金利水準について十分留意する必要があります。

配当と利息はどちらが有利か?

それでは、出資し配当として利益還流をする方法と、貸付をして利息として利益還流する方法では、グループ全体から見てどちらが有利となるのでしょうか。

結論から言うと、シンガポールのような日本と比較して低税率国では、配当による利益還流の方が有利となる場合が多いです。

これは、法人税計算において損金参入して税額を圧縮するという利息メリットより、源泉所得税が非課税でかつ比較的税率の高い日本の法人税法上、受取配当金を益金算入しないことによる税額圧縮の金額的インパクトの方が大きいことによります。

ただし、各社の状況により配当と利息のどちらが有利かは結論が変わってきますので、個別に要素を検討し決定する必要があります。

ロイヤルティ及びマネジメントフィーによる還流

前述の利息や配当は資金供給の方法と紐づいた利益還流の方法でしたが、それ以外の方法としては、役務サービスやノウハウ提供の対価として海外子会社から資金を回収する方法があります。主な方法としては、その提供するノウハウに対する対価であるロイヤルティ、または提供する役務提供に対する対価であるマネジメントフィーが挙げられます。

ロイヤルティ

ロイヤルティとは日本の親会社が保有する特許、ソフトウェア等の知的財産の使用許諾の対価として支払われる使用料の金額です。

ロイヤルティは通常、海外子会社が知的財産を使用して売上げた売上金額からあらかじめ定められたロイヤルティ料率を乗じることにより算定されます。

当該ロイヤルティについても、上記で説明したとおり、源泉所得税及び移転価格税制について留意する必要があります。

シンガポールにおけるロイヤルティの源泉税率は10%(租税条約を適用した優遇税率も同率)となります。

なお、ロイヤルティ料率は移転価格税制の下、独立企業間価格(Arm’s Length Price)にて決定されなければなりません。

マネジメントフィー(経営指導料)

マネジメントフィーとは、グループ会社間における役務提供の対価であり、例えば親会社が子会社の管理機能(財務、経理、人事、経営企画など)を一部代行する場合などが考えられます。

当該ロイヤルティについても、上記で説明したとおり、源泉所得税及び移転価格税制について留意する必要があります。

シンガポールにおけるロイヤルティの源泉税率は動産使用の場合と著作物利用の場合で異なり、以下のとおりとなります

「動産の使用に関するロイヤルティ」:10%(租税条約の優遇税率も同率)

「著作物に関連するロイヤルティ」:22%(租税条約の優遇税率合は10%)

また、マネジメントフィーの金額は、は移転価格税制の下、独立企業間価格(Arm’s Length Price)にて決定されなければなりません。

なお、シンガポールにおいては、実務の簡便化のため、マネジメントフィーの対象となるグループ間取引についてルーティーンサービスとして例示列挙されており、当該ルーティンサービスについては通常の業務コストに5%のマークアップを付加した取引価額を独立企業間価額であると規定しています。

親会社に還流しないという選択

最後に、海外子会社において十分な利益が上がり、余剰資金が蓄積された場合に、親会社に還流しないという選択肢もあります。

今までみてきた通り、海外子会社から日本本社へ資金を還流する際に、源泉所得税などの追加的な税負担があります。

ここで、海外子会社で事業拡大を計画している場合は、日本の本社に資金を還流せずに海外に蓄積することで、海外事業への投資資金として利用することも有用です。

特に、シンガポールのような、低税率でかつ比較的国をまたいで資金を動かしやすい国においては、中間持株会社・統括会社を設置しすることで周辺国の資金をプールし、海外事業の投資資金として資金運用することで、海外事業において資金を有効活用することができます。

以上のように海外子会社から利益還流をする方法とその税務上の留意事項について見て見ました。利益還流の方法は、海外事業における基礎的重要事項である「どのように資金供給するか」というところと深く関わっていますので、慎重に検討することが必要です。


当該情報は執筆時現在に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。


 

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