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【シンガポール・仮想通貨(暗号資産)】税金関係の解説(完全版)

シンガポールは、日本に比べ税率が低いこともあり、シンガポールで仮想通貨取引を始めようとしている人、また移住を検討している仮想通貨投資家は多いと思います。

今回は、シンガポールにおける仮想通貨の税務上の取り扱いについてみていきましょう。

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シンガポールにおける仮想通貨の課税関係まとめ

まず結論から記載すると、シンガポールにおける仮想通貨の利用に関する課税関係は以下のとおりとなります。

デジタル・トークンの種類 税務上の取り扱い
ペイメント・トークン
・無形資産として取り扱われ、ペイメント・トークンによる支払は、財の交換取引と考えられる。
・トークン使用者:損金算入可
・トークンの支払を受けた者:取引時の提供した財またはサービスの価額で課税
ユーティリティ・トークン
・トークンと引き換えに、商品やサービスを使用または享受する権利を付与するもの。
・トークン取得時は課税所得を生じさせる取引ではない(課税対象外)ため前払費用として扱う。

・トークン利用時(サービス提供享受時)に、取得価額とサービス時価の差額が課税対象。

セキュリティ・トークン
・セキュリティ(証券)の性質でキャピタルネイチャーな(資本性取引)ので原則課税対象外。
・セキュリティ・トークンがもたらすリターン(利息、配当、分配など)はその性質により課税関係を決定。キャピタルネイチャー(資本性取引)であれば課税対象外。

シンガポールにおけるICOの課税関係まとめ

仮想通貨の主要論点であるICOについても、まずは結論から。

ICOとはイニシャル・コイン・オファリング(Initial Coin Offering)の略称で、仮想通貨(暗号資産)を新規に発行することによる資金調達の手段をいいます。資金調達を目指す企業やプロジェクトが、自社の暗号資産を発行・販売し、その対価として資金の払込を受ける手法です。

ICOの課税関係は、ICOにより投資家に発行されるトークンの機能及び権利に応じて決定されます。

シンガポールにおけるICOの課税関係の原則的な考え方まとめると以下のとおりとなります。

発行するトークンの種類 税務上の取り扱い
ペイメント・トークンの発行 特性や状況に応じて課税関係を決定
ユーティリティ・トークンの発行 原則、収益の繰延
セキュリティ・トークンの発行

証券その他投資資産の発行に類似

資本取引(capital in nature)で非課税

 

シンガポールにおける仮想通貨の名称

 ここで、仮想通貨の名称についてまとめて置きたいと思います。

仮想通貨の名称について、シンガポールでは「デジタル・トークン」で統一されています。

「デジタル・トークン」はその種類に応じて「ペイメント・トークン」、「ユーティリティ・トークン」、「セキュリティ・トークン」に区分されます。

日本では「暗号資産」の名称で法律上統一されました。ただし、証券的な性質を有するものは、「電子記録移転権利」とされます。(長ったらしいので、一般的には「仮想通貨」、「暗号資産」が使われてしまっていますが。)

仮想通貨の正式名称をまとめると以下のとおりです。

  シンガポール 日本
総称 デジタル・トークン
1.決済 ペイメント・トークン 暗号資産
2.証券 セキュリティ・トークン 電子記録移転権利
3.会員権・サービス ユーティリティ・トークン 暗号資産

ペイメント・トークンの課税関係

デジタル・トークンの一種であるペイメント・トークンは、「財またはサービスの対価として利用されるデジタル上の権利」であり、決済手段として用いられるもの。支払いの手段として機能するものの、政府により発行された法定通貨ではありません。そして、ペイメント・トークンは、権利や義務を表象し、無形であることから、法人税法上は無形固定資産(intangible property)として扱われます。

この背景を踏まえて、ペイメント・トークンの税務上の取扱い及び関連する論点は以下のとおりとなります。

ペイメント・トークンの税務上の取扱い

ペイメント・トークンによる支払取引は「財の交換取引」とみなされ、取引における財及びサービスの価額は、取引時点において決定されます。

財またはサービスとの交換でペイメント・トークンを受け取った場合は、提供した財、サービスの価額で評価の上課税されます。

一方で、財またはサービスの対価として支払ったペイメント・トークンについては、通常の税務ルールに従い、取引時の価額により損金算入が認められます。

ペイメント・トークンの価値評価

課税所得計算目的のため、ペイメント・トークンの価値を評価しなければならない状況が考えられます。

例えば、サービス提供の対価として、ペイメント・トークンを受領する場合などです。この場合、サービスを提供した者は、対価として受領したペイメント・トークンの価値に基づいて課税所得を算定する必要があります。

現時点においては税務当局(IRAS)は、ペイメント・トークンの評価に関していかなる方法も提示していないため、納税者はペイメント・トークンの価値を最も良く反映すると考えられる評価方法を採用することになります。その際に以下の2つの条件を満たす必要があります。

交換レート(Exchange rate)

合理的かつ検証可能でなければならない。例えば、ペイメント・トークンを交換所(CoinbaseやBinanceなど)で利用される交換レートの平均値等。

交換レートのロジック

毎年継続して適用しなければならない。

IRASは、評価方法について納税者に問い合わせる権利があるので、納税者は、評価の合理性を説明できるためのサポーティング文書を保持する必要があります。

ペイメント・トークンの評価損益

ペイメント・トークンは、その価値が増加、または減少する可能性があります。もしペイメント・トークンの公正価値評価から生じる評価損益を財務諸表に計上した場合、当該評価損益は実現するまで非課税/損金算入不可となります。

また、ペイメント・トークンを異なる取得価格で獲得し、長期に渡って保有する場合、その処分時に売却損益が課税対象となる可能性があります。この場合、ペイメント・トークンの価値算定は、先入先出法(First in First out: FIFO)または平均法(Average method)により評価することが求められます。これはシンガポール会計基準(FRS2、SFRS(1)1-2)に対応するものとなります。

課税対象となる所得の発生場所

ペイメント・トークンによる取引の利得が課税対象となるどうかは、所得の源泉(Source of income)が生じた場所で判断します。

シンガポール税務当局(IRAS)は以下の点を考慮して決定するとしています。

・納税者の取引・事業の主要なオペレーション(the whole operation of the taxpayer’s trade or business)

・オペレーションがどこで実施されたか (where those activities are performed)

大部分のオペレーションがシンガポール内で行われている場合、当該活動から生じた所得はシンガポールに由来する所得とみなされ、シンガポールで課税対象となります。

ただし、当該検討は単一の要素で決定されるものではなく、以下の要因を総合的に勘案して決定されます。

・会社はシンガポールに(オフィスや従業員など)拠点を有するか

・主要な活動はシンガポール国内にて実行されているか(トークンをシンガポールにおける交換所で運用・維持しているか)

ユーティリティ・トークンの税務上の取り扱い

ユーティリティ・トークンは、「財またはサービス上の権利」であり、特定の消費やサービスの享受を目的とするものです。

ユーティリティ・トークン所有者は、トークンと交換に財またはサービスを得ることについて明示または、黙示の権利を有していると考えられます。

ユーティリティ・トークンは、には様々な形態があり、たとえば以下のようなものがあります。

・バウチャー(voucher):

ICO会社からサービス提供を受ける権利が付与

・キー(key):

ICO会社のプラットフォームにアクセスする権利が付与

ユーザーが、ユーティリティ・トークンを獲得した場合、獲得に支出した額は前払(Prepayment)として取り扱われます。

税務上の一般ルールによれば、このような前払費用はユーティリティ・トークンの交換で財またはサービスの提供を受けた時点において損金算入が認められることになります。

セキュリティ・トークンの税務上の取扱い

セキュリティ・トークンは、「株式権や投資を表すデジタル証券」であり、金融資産や特定の権利を表章するものです。

セキュリティ・トークンは対応する資産の所有権を付与するものであり、通常、明示または暗示された経済的、支配的な権利が付帯します。

最も一般的なタイプのセキュリティ・トークンは、負債(debt)や資本(Equity)の形式をとっています。セキュリティ・トークンは伝統的な証券をデジタルトークン化したものであるため、たとえば投資ファンドのユニットなど様々な証券や投資資産の形式を取ることができます。

セキュリティ・トークンの性質は、当該トークンに付帯する権利と義務に応じて決定されますが、トークンから生じる利得は、その性質に応じて、利息、配当または分配の形態になりえます。

セキュリティ・トークンが売却される場合、売却損益の性質が資本取引(capital in nature)となるか、損益取引(revenue in nature)を判断する必要があります。

資本取引(capital in nature)の場合、売却損益はキャピタルゲイン非課税のルールにより免税/損金算入不可となります。

一方、損益取引(revenue in nature)とみなされる場合は、キャピタル・ゲインは課税対象となる一方、売却損は損金算入することができます。

この資本取引/損益取引に該当するか否かは、セキュリティ・トークン自体の性質が資本的性質か、損益的性質かで判断されることになります。

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ICOの税務上の取り扱い

ICOとはイニシャル・コイン・オファリング(Initial Coin Offering)の略称で、仮想通貨(暗号資産)を新規に発行することによる資金調達の手段をいいます。

ICOは、新規トークンを発行することですが、一般的に、資金調達または将来の特定の財またはサービスを得るための手段として利用され、発行の際には、法定通貨やペイメント・トークンによる払込が行われるのが通常です。

ICOによる収益への課税については、投資家に発行されるトークンの権利と機能によって判断されます。

ペイメント・トークンの発行:状況や事実によって判断されます

・ユーティリティトークンの発行:通常、売上の繰延とみなされます

セキュリティートークン発行:証券の発行に類似するため、資本取引として非課税となります

ICOが成功しない場合

ICOによる資金調達でサービスプラットフォームを構築するも、ローンチまでに至らず終了する場合など、ICOが失敗するケースがあります。

ICOが失敗した場合、払込金がトークン投資家へ返還される場合と返還されない場合が考えられます。それぞれ、以下の取り扱いとなります。

返還される場合:返還金は課税対象外

返還されない場合:ICOの性質を勘案する(資本取引か損益取引か)

ICOによる調達資金がトークン投資家へ返還される場合は、資本の返還に類似するため、課税対象とはなりません。

一方で、ICOによる調達資金が返還されない場合は、通常のルールに従い、当該ICOによる収入が資本取引か収益取引かで判断されます。この判定には、ICOを行った会社の主要な事業やトークンの発行により生じる契約上の義務を総合的に勘案して判断することとしています。

創業者トークンの取扱い 

ICOによりトークンを企業の創業者に対して付与する場合があります。このようなトークンは、創業者トークン(Founder’s token)と呼ばれます。

創業者トークンに対する税務上の取り扱いは以下のとおりです。

創業者のサービス提供の報酬としてトークンを付与:

収益取引として課税対象

サービス提供の報酬ではない:

資本取引として課税対象外

創業者のサービス提供に対する報酬としてトークンが付与される場合、通常収益取引(Revenue in nature)とみなされ、当該創業者の課税対象となります。一方で、トークンがサービス提供の報酬として付与されるのでない場合は、当該トークンは資本資産とみなされ課税対象外となります。

例えば、創業者が会社設立及びICOのために金銭を提供し、会社の議決権や所有権が付帯するトークンが創業者に発行されるような場合、当該トークンは資本資産と考えらえるので、資本取引となります。

創業者トークンの課税時期

報酬として付与される創業者トークンは、発生時、つまりトークンの権利が創業者に発生した時点で課税対象となります。

モラトリアム期間がある場合

ICOによるトークン付与後、数年間の売却禁止期間(モラトリアム期間)を設ける場合があります。

このようなモラトリアム期間がある場合は、当該期間の終了日にトークンが稼得されたとみなされその時点による評価額で課税対象となります。

記録の保管

上記のとおり、シンガポールにおける仮想通貨の税務上の取り扱いについて解説してきました。課税関係を明確にするために、納税者は取引に関する以下の記録を適切に保管することが求められます。


・取引日

・売買したデジタルトークンの単位

・取引時のデジタルトークンの価額

・交換レート

・取引の目的

・顧客/サプライヤーの詳細

・ICOの詳細

・事業費用に関する領収書、請求書


エアドロップの課税関係

エアドロップ(Airdrop)は、対価なし(つまり無料)でトークンを配布する方法で、一般的にはマーケティング手段として実施されます。
新しいトークンの認知度を高めること、特に「インフルエンサー」層への認知を高めることや、新トークンプロジェクトの初期段階で流動性を向上させることを目的としています。
トークンは商品やサービスの対価として受領されない限り、それは受領者の所得とは見なされず、したがって課税されません。
一方、エアドロップが何らかのサービスの対価として、またはサービス提供が期待される場合に付与されたものである場合、それは課税対象の所得と見なされる可能性があります。

ハードフォークの課税関係

ハードフォーク(Hardfolk)とは、既存のトークンが分岐し、元のトークンと並行して動作する別の支払いトークンが作成されることをいいます。
ハードフォークは技術的な目的で行われるのが通常であり、古いバージョンの重要なセキュリティリスクの修正、新機能の追加、または特定の取引の取り消しなどに用いられます。
既存の支払いトークンの保有者は、結果として無償で別の支払いトークンを受け取る場合があります。
これは、受領者が何の対価も支払わずに追加のトークンを受け取るため、受領者にとっては偶発的な利益(ウィンドフォール)と見なされます。
偶発的利益は所得とはみなされないため、受領時点で課税されません。
ただし、受領者がペイメントトークンの取引を行っている場合、ハードフォークやエアドロップを通じて受け取ったトークンをその後処分した際の利益は、課税対象となります。
 

仮想通貨取引における消費税の取扱い

シンガポールにおける消費税は「物品・サービス税(Goods and service tax:GST)」ですが、仮想通貨取引については免税となります。

ただし、法定貨にペッグされた仮想通貨(ステーブルコイン)は通常の通貨による取引と同一とみなされるため、当該規定の対象外となります。

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仮想通貨のマイニングにおける課税関係

仮想通貨のマイニングとは「採掘」のことで、ブロックチェーンのシステム上の処理を行ない、その報酬として仮想通貨を手に入れる行為のことをいいます。

マイニングによって得られる仮想通貨は、通常ペイメント・トークンとなります。

 マイニングにより獲得したペイメント・トークンの処分によりマイナーが課税されるかどうかについては、「営利目的かどうか」(own use or for sale)により判断されます。

たとえば、自身の趣味(as a hobby)で行なう場合や、長期投資目的(long-term investment)で保有する場合は営利目的ではないため、課税対象とはならず、損金算入も認められません。

一方、マイニングにより稼得したペイメントトークンを取引目的として利用する場合(trading in nature)、その取引から生じる損益は課税対象/損金算入可能となります。

以上を踏まえて、マイニングを企業が行う場合と個人が行う場合で以下の通り規定されています。

企業によるマイニングの場合

通常企業は営利目的で設立されるため、企業が従事するマイニング活動は営利目的とみなされ課税対象となります。マイニングにかかった費用については、「事業の開始時点基準」(incurred basis from the date of commencement of business)で損金算入することができます。

「事業の開始時点基準」とは、利益を獲得するストラクチャーを構築した時点であり、通常以下のような活動時点となります。

・マイニング用資産の購入日

・マイニングしたデジタルトークン売却日

個人によるマイニングの場合

個人によるマイニング活動は通常「趣味(hobby)」とみなされます。そのため、マイニングにより稼得したペイメント・トークンの売却益は資本取引として課税対象外となります。一方で、マイニングの費用については損金算入することができません。

ただし、もし当該個人が利益を得る目的で、継続的、統合的な努力(habitual and systematic effort)を行っている場合、当該活動はもはや趣味とはいえないため、「営利目的」であるとして課税対象となります。

日本における仮想通貨の税務上の取り扱い

最後に、日本における仮想通貨の税務上の取り扱いについても言及しておきたいと思います。

日本の税法上、所得の種類は10種類に区分されますが、仮想通貨の売却益は原則、「雑所得」という項目に含めて申告する必要があります。

所得の中には、政策的に低めの税率を適用して税額算定する「分離課税項目」(退職所得や給与所得など)もありますが、この雑所得は事業所得と合計して課税される「総合課税項目」となるため、最高税率は45%(住民税を含めれば55%!)とかなり税負担が重くなってきます。

仮想通貨の取引でどんなに利益を出したとしても、利益が大きくなれば、半分近く税金で持っていかれてしまうのです。

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ちなみに、仮想通貨取引が以下のいずれかの状況を満たす事業として行うような場合は、「事業所得」に含めることが可能です。

状況 例えば…
その仮想通貨取引自体が事業と認められる場合 仮想通貨取引収入によって生計を立てていることが客観的に明らかな場合など
その仮想通貨取引が事業所得等の基因となる行為に付随したものである場合 事業 所得者が、事業用資産として仮想通貨を保有し、棚卸資産等の購入の際の決済手段として仮想通貨 を使用した場合 など

「雑所得」と「事業所得」は、どちらも必要経費を差し引いた上で総合課税となりますが、事業所得は、動産の売買や譲渡で赤字が生じた場合は相殺できる(損益通算といいます)ため、有利です。

日本における仮想通貨課税の詳細は、以下に詳しいです。

仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)
状況 所得区分 税率
取引対価として仮想通貨を受領 事業所得 通常の所得税率
トレーディングによる譲渡益 事業所得 通常の所得税率
長期投資による譲渡益 キャピタル・ゲイン 非課税

当該情報は執筆時現在に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。


 

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