【シンガポールVS香港】アジアのライバル都市はどちらが上?に関するレポート。

CBREが2023年4月付でシンガポールと香港を比較するレポート「A Tale of Two Cities: Hong Kong SAR vs. Singapore」を発表。

本報告書の発行元CBREは米国に本社を置く、世界最大手の事業用不動産のトータル・ソリューション・プロバイダー、投資顧問会社です。

本報告書は、CBREが得意とする不動産に関するデータを含む、以下の7項目の観点からアジアのライバル都市を比較するもの。

・APACでの影響
・金融業界テクノロジー業界
・ESG/グリーンビルのインセンティブ
・優秀人材のプール、魅力
・オフィス賃料
・オフィスの利用可能性

豊富な統計データに基づいた大変興味深い報告書となっています。

シンガポール及び香港はどちらもアジアの金融ハブ、ウェルスハブでありながら、それぞれ独自の特徴を有する先進都市。

ASEANのハブであるシンガポールに将来を期待する人もいれば、中国の玄関である香港が盤石であると主張する人もいると思います。

本記事では、当レポートの中から興味深いデータをいくつか紹介したいと思います。

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1.基本情報

こちらの表は、香港とシンガポールのマクロ統計が見やすくまとまっています。

国土面積、人口は香港が40%ほど大きい一方、GDPはほぼ同等で、その結果一人あたりGDPはシンガポールが大きくなっています。

法人税率はともに17%以下でタックスヘイブンに該当します。

個人所得税率の最高税率は香港15%に対しシンガポール24%で、税率だけみれば香港に分がありそうです。

消費税に該当するGST・VATも香港は非課税であるのに対しシンガポールは8%(2024年度から9%)と、香港が大きく有利となっています。

資料には記載がありませんが、資産運用を考えるにあたり重要となる資産譲渡課税(キャピタルゲイン課税)、相続税、贈与税はシンガポール、香港ともにすべて非課税となっており、どちらもに金融ハブとして国外から富を移転させやすい税制となっています。

2.経済の規模

香港の政治的緊張及びコロナ対策が締め付けられた2021年に、シンガポールの実質GDPは香港を逆転し、2022年にその差は拡大しています。

経済規模が上位5位までの産業の合計は、シンガポール、香港ともに70〜75%程度で、特定の業界に産業集積が進んでいます。

産業別では、シンガポールは製造業22%、卸売業18%で、金融・保険業は15%の3位となっています。金融立国のイメージがあるので、製造や卸売がトップ2の産業であるのは意外ではないでしょうか。

一方、香港は金融・保険業が21%で最大の産業となっています。製造業はすでに低賃金の中国本土に移転してしまい、90%の産業がサービス業となっていると報告されています。

3.地理的優位性

シンガポール、香港ともにその地理的優位性を最大限生かしていますが、当レポートでは「フライト4時間以内の経済圏」という興味深い分析をしています。

「フライト4時間以内の経済圏」で制限した場合、その経済規模は香港がシンガポールの4倍となり圧勝です。

これは、中国の主要都市である北京、上海、また韓国ソウルが含まれてくるためです。

一方、シンガポールはやはり東南アジア中心となります。

インドのバンガロールなども入ってくるため、今後インドが勃興してくると、シンガポールのハブ拠点としての重要性はますます高まっていきそうです。

4.ウェルス・マネジメント拠点

2022年時点では、中国富裕層の富を抱え込む香港がシンガポールの5倍のウェルス・マネジメント総資産を誇ります。

香港はファミリーオフィス資産への課税を0%にするなど誘致インセンティブを拡大し、2026年までには長らく世界最大の富の貯蔵庫であったスイスを超え、世界1位のウェルスハブになると予想されています。

シンガポールも、2020年から2022年でファミリーオフィスが400〜700に増加、2021年〜2026年はウェルス・マネジメント総資産を毎年10%継続的に成長させ、ウェウルスマネジメント拠点として世界の3位の規模を維持する見込みです。

5.研究開発費の支出

製造業の比率が高いシンガポールは、GDPに対する研究開発費の比率が高く、1.9%に上ります。特にハイテクやライフサイエンスなど高付加価値産業に焦点を当てて投資を進めています。

一方、香港はGDPの1%ですが、中国本土の急速な成長の恩恵を受けることが出来ます。香港はやはり製造やテックよりも金融、サービス都市としての性格が強いようです。

6.優秀な人材プール

上左図によると、2022年の金融業界の雇用は、香港が全体の7.6%(270,000人)、シンガポールは5.8%(230,000人)と報告されており、金融業界に関しては、香港における雇用数がシンガポールを引き離しています。

一方、もう一つの高付加価値産業である専門家・科学技術産業においては香港は全体の6.1%(210,000人)に対してシンガポールは7.4%(270,000人)でシンガポールが逆転しています。

7.住宅の賃貸料

Sqftあたり賃料(USD)は、香港の賃料が2019年度から8%減少しているのに対してシンガポールは44%上昇 しました。

両国の賃料は2018年には82%も香港が高かったのが2022年度は12%も縮小しており、シンガポールの賃料が急激に上昇していることが見て取れます。

香港では、コロナによる長期にわたる入国制限、駐在員の帰国の影響で減少しており、コロナ収束で賃料減少は安定すると予測されています。

さいごに

本報告書を発表したCBREが、不動産サービス会社である関係から今回のシンガポール、香港の比較には不動産賃料やエコ不動産の導入具合、不動産マーケットの規模など、不動産関係の分析も多く含まれていました。

視点が絞られているため一概に優劣を判断することは出来ません。

たとえば食事の美味しさや物価、エンターテインメントの充実度や文化発信度なども都市としての魅力して当然カウントされるべきです。

ただし、シンガポールと香港のどちらでキャリアを積むか、事業を展開するか、などの判断の参考になるデータも多く含まれていたと思います。

東南アジアを中心に、インドや中東へと広がるシンガポール、たいして中国の玄関として膨張するアジア経済の富を集積する香港。

今後どちらの都市が魅力を高めていくか、シンガポールに関わる一外国人として非常に興味深いところです。

Source: A Tale of Two Cities: Hong Kong SAR vs. Singapore

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