当記事では、会計・税務上最も重要な論点の一つである収益認識基準
FRS115「顧客との契約から生じる収益(Revenue from Contracts with Customers)」
及び当基準に関連するシンガポール法人税法上の取り扱いについて解説したいと思います。
シンガポールの会社法人税計算は、非常にシンプルです。日本ですと事業税や住民税などの影響があったり、複雑な調整項目があったりしますが、シンガポールは原則として税率17%の法人税一本であり、税務当局としてもなるべく税務申告の負荷を減らして事業[…]
FRS115「顧客との契約から生じる収益」基準とは?
FRS115は売上計上において準拠すべき基準
シンガポール会計基準115号「顧客との契約から生じる収益(Revenue from Contracts with Customers)FRS115」 は、 2017年1月1日以降適用されている企業の収益認識に関する包括的な会計基準であり、売上の会計処理を決定する際の指針となるべきものです。
FRS115が適用される以前は、収益認識が企業にとって最も重要な会計処理であるにも関わらず、収益認識に関する包括的な基準が存在していませんでした。
ますます複雑化するビジネスに対応するためにも、論理的な基礎に基づいた明確なガイダンスが求められていた経緯があり、その結果国際会計基準(IFRS) において収益認識基準(IFRS15) が策定され、シンガポールにおいてもFRS115が適用されています。
なお、世界的に最も利用されている国際会計基準(IFRS)の収益認識基準(IFRS15)とシンガポール会計基準における収益認識基準(FRS115)の考え方に差異はありません。
FRS115原則として、顧客との全ての取引に適用されますが、FRS104 「保険契約」、FRS109「金融商品」、FRS116「リース契約」が適用される場合は、各基準が優先されて適用されます。
収益認識をするための5ステップ
FRS115における収益認識の基本的な考え方は、
「約束した財またはサービスの顧客への移転を、当該財またはサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で収益を認識する」
というものです。具体的には、以下の5つのステップのべつに収益認識の金額を決定します。
ステップ2:契約における履行義務を識別
ステップ3:取引価格の算定
ステップ4:契約における履行義務に取引価格を配分
ステップ5:履行義務を充足したとき、または充足に従い収益を認識
各ステップの具体的な内容については、すでに多くのウェブサイトや書籍で解説されているため、当記事では割愛します。
FRS115に関するシンガポール法人税法上の取り扱い
シンガポール法人税における原則的な取り扱い
シンガポール税務の一般原則は、「収益への権利(entitlement to income)」原則と呼ばれます。
これは、契約に基づいて稼得する収益は、以下を満たす年度に課税対象となるというものです。
A) 収益が稼得される、すなわち納税者が法的に収益への権利を得る
B) 納税者に要求されるさらなる履行義務がない
C) 収益は返還がもとめられない
なお、会計上の利益と税務上の利益(益金)は概念的には異なりますが、両者を別個に算定・管理するのは実務上煩雑であるため、実務上は会計上の収益をそのまま実務上の収益とし、必要な調整を加えます。
IRASのガイドラインでも、FRS115にもとづいて計上される収益はほとんどのケース税務上の利益として認められることが明記されています。
シンガポール法人税におけるFRS115適用の例外
FRS115に従って計上される会計上の収益と、税務上の収益の取り扱いに差異がでるケースもあります。たとえば以下のようなケースでは、税務上定められた方法による必要があります。
FRS115に従って計上される会計上の収益と、税務上の収益に差異がある場合も、ほとんどのケースは計上タイミング(計上する賦課年度)の違いであり、最終的には収益の全額が課税対象となると考えられます。
1.すでに特定の税務上の実務がある
たとえば判例法(case law)が確立している場合や、別途法令で定めがある場合は、税務上の収益認識において、FRS115による収益認識とは別の取り扱いがなされます。
たとえば不動産開発業(property development)の場合、会計基準上は工事の進行度に従って収益を認識していきますが、税務上では工事の大部分が完了した(substantially completed)際、例えば入居許可(Temporary Occupation Permit)発行のタイミングで収益を認識します。
2.例外的な状況
状況が例外的であり、会計上の取り扱いが税務の一般原則(収益への権利, entitlement ot income)から大きく逸脱する場合は、税務上の収益認識において、FRS115による収益認識とは別の取り扱いがなされます。
例えば、販売契約の中にファイナンス的な構成要素がある場合が挙げられます。財、サービスの提供が長期間に渡って行われる場合、将来提供される金額は現在価値に割り引いて計上され、割り引かれた金額は金融費用(収益)として取り扱われます。税務上は金融費用(収益)を課税対象としないケースがあるので、この場合は会計上のFIRS115による収益認識額と税務上の収益の金額は異なってきます。
さいごに
会計、税務どちらにおいても、収益認識は企業活動の最も根幹に関わるところであり金額的重要性も大きくなります。そのため、実務においては注意深く最新で正しい取り扱いをする必要があります。
当記事は、IRAS e-Tax GuideのTax Treatment Arising from Adoption of FRS115 or SFRS(1)15 (Third edition)を元に執筆していますが、最新の情報について留意してください。
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