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【書評・レビュー】海外事業の成功要因は?「海を渡った7人の侍:大和証券シンガポールの奇跡」

新しい国で、新しい事業を展開するにはどうすればよいか?

これは海外新規事業を展開する企業が、必ずはじめに考えなければいけない問題ですが、この問いにたいする1つの挑戦とその成功を教えてくれるのが本書「海を渡った7人の侍:大和証券シンガポールの奇跡」。

著者は、ノンフィクション作家の野地秩嘉氏。人物ルポタージュや海外文化に造詣が深く、事業を開始してから約10年で、10数人の社員で「預かり資産10兆円」を実現した大和証券シンガポールの成功の軌跡を、現地の社会的、経済的背景に関する解説を織り交ぜながらストーリー仕立てで軽快な文章で綴っています。

当記事では、本書「海を渡った7人の侍:大和証券シンガポールの奇跡」で読み解く大和証券シンガポールの成功要因について、私なりの解釈を記しておきたいと思います。

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1. 顧客第一の理念を追求する

まず1番の成功要因だと感じたのは、大和証券シンガポールは利益目標よりも「お客さまのために」という理念を実現することを目標にしたこと。

売り上げや利益を第一にせず、顧客の困りごとを解決することに集中し、顧客のためになることを最優先にする姿勢が信頼を築き、長期的な成功につながっています。

例えば、大和証券シンガポールの営業員たちは顧客の子息の学校付き添いや留守宅の管理まで行い、顧客の細かなニーズに応えるサービスを提供。

プライベートバンカーとしての役割を超え、顧客の生活全般をサポートすることで、顧客との信頼関係を深めています。

これは、顧客と関わる全てのビジネスマンにとって参考になる姿勢ではないでしょうか。

2.現地の市場と文化に適応する

シンガポールは近年、マネーロンダリングに対する厳格な規制を導入し、また日本とは異なる独自の金融エコシステムがあります。

例えば、シンガポールの金融市場では、例えばマージン取引が可能であるなど、日本ではできないことが許されていると紹介されています。

大和証券はこの環境を最大限に活用し、顧客に対してより多様な投資機会を提供。

大和証券シンガポールはこれらを理解し、現地のニーズに合わせたサービスを提供することで成功しました。市場環境や文化の違いに迅速に適応することが、現地での成功に不可欠です。

自国のやり方にこだわらない、現地国に合わせた柔軟なローカライズが成功の秘訣かもしれません。

3. 日本人の強みであるチームワークを活かす

本書を読んで感じるのが、「大和証券シンガポール7人の侍」のチームワーク

証券会社の中でも畑の違う分野から才能が集まり、お互いを補完し合いながら事業を展開しているのが感じられます。

各社員の方へのインタビューも多く記載されていますが、お互いを尊敬し、信頼していることが見て取れます。

自発的なチームワークは日本人の強みでもあり、シンガポール市場での成功に貢献したと考えられます。

リーダーがいなくても瞬間的に判断し行動できる能力が、困難な状況でも迅速に対応し、成功を収めるための大きな要因となっていそうです。

さいごに

文頭のプロローグに、マレーシア出身でシンガポールに帰化した実業家のこんなセリフがあります。

強い。私は強いかもしれない。貧しさに負けずにシンガポールに来たから。だが、私だけではない。シンガポールには意志を持ってやってきた強い人間が大勢いる。シンガポールという国の強さは貧しい人間が志を持ってやってくることだ。マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピンから貧しい人間がシンガポールを目指してやってくる

この文章から、「アメリカン・ドリーム」ならず、「シンガポール・ドリーム」という言葉が思い浮かびました。

シンガポールは外国人がビジネスを始める敷居が低く東南アジア市場を取り込んで成功できる可能性があります。

建国60年程度で東南アジア、いや世界トップレベルの裕福な先進国へと登りつめたシンガポールは、外国人が成功を夢見るに足る国ではないでしょうか。

またシンガポールは、アジアの金融ハブとして世界中の富裕層がその資産とともに移住する国です。日本からも2011年の震災あたりから富裕層の移住が増えています。

本書「海を渡った7人の侍:大和証券シンガポールの奇跡」は、シンガポールの富裕層ビジネス、ウェルス・マネジメント界隈を知るのにも非常に優れたノンフィクションとなっています。

海外ビジネスにおける成功要因、また富裕層ビジネスや金融など、シンガポール事業環境について興味のある方はぜひ一読すべきビジネス書です。

ー目次ー
プロローグ それは奇跡と言っていい
第1章 始まりはバブル
第2章 冬の時代
第3章 シンガポールでの生活
第4章 ゼロからの逆転劇
第5章 チーム大和証券
第6章 移住者のメリットとは何か
第7章 3人の営業員
第8章 彼らがやること
エピローグ 「生き生きしてるんだ、やつらは」 

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