シンガポールの会計・財務アドバイザリー

【シンガポール・キャピタルゲイン課税】株式を売却した時の課税は?

シンガポールで株を売った時は税金がかからない。

そんなイメージを持っている方は多いと思います。しかし、少し気をつけなければならない点も。

今回は、株式売却にかかる課税関係について解説したいと思います。

キャピタル・ゲインは原則、課税されない

シンガポールでは、資産の売却益は非課税(キャピタルゲイン非課税)を原則しています。

そのため、投資目的で保有する株式または金融商品を売却するような資本取引から生じた売却益(capital in natureといいます)については、原則非課税となります。

キャピタルゲイン非課税の判定基準

ただし、株式保有がトレーディングのためなど、利益を獲得する目的と認められるなど損益取引(income in natureといいます)の場合は、課税対象となるため、留意が必要です。

実務上、以下の判定基準により判断されます。

株式売却益の性質の判定基準
基準 例えば..
株式の保有目的

資本取引:事業に使用する目的である

損益取引:転売目的の資産購入である

株式保有の期間

資本取引:資産を取得してから売却までの期間が比較的長期である

損益取引:短期である

株式取引の頻度

資本取引:取引が単発的に行われている

損益取引:取引が継続的または頻繁に行われている場合

株式の売却理由

資本取引:組織再編などに伴う資産売却である

損益取引:値上がり益を期待して売却する

株式を取得する際の財源

資本取引:資金源が長期借入や自己資本

損益取引:売却する資産購入時の資金源が短期借入金

この判定基準は具体的な数値基準や要件は設けられておらず、各要件を総合的に勘案することとなります。

そのため、課税対象となるのか具体的な基準がなく判断に迷う場面も。

そこで、2012年6月より迅速簡便に判断できるように以下の基準が設けられています。(効率を重視するシンガポールらしいですね。)

少なくとも20%の普通株式を24ヶ月以上保有する場合

(The divesting company had held at least 20% of the ordinary shares in the investee company for a continuous period of at least 24 months.)

この判定基準を満たす場合は、迷わずキャピタルゲイン非課税と判断することができます。一方、満たさない場合は原則に立ち戻り、上記の判定基準により判断することになります。

また、上記具体基準をよく読んでみると、「普通株式」と明記されています。

キャピタルゲイン課税の判断フロー

そこで、優先株式や複合金融商品など特殊な株式について問題となりますが、こちらは判定基準に立ち戻って判断します。例えば明らかに転売目的ではなく投資目的であると考えられる子会社の優先株式などについては、投資目的株式(capital in nature)とみなされるため、その譲渡に際して売却益は非課税となるのが通常です。

判断の流れを図示すると以下のとおりです。

2020年税制改正による変更

2020年のシンガポール税制に公表され、「対象外売却会社(Excluded divesting company)」及び「対象外被投資会社 (Excluded investee company)」という概念が導入されました。

対象外売却会社とは

「対象外売却会社(Excluded divesting company)」とは、株式を売却して売却益を得る会社が、上記の判断フローには乗れない会社をいいます。

「対象外売却会社(Excluded divesting company)」は、株式売却益が、シンガポール税法セクション26の規定に基づく所得に含まれる会社をいい、具体的には保険業者が該当するため、ほとんどの企業は該当しません。

対象外被投資会社とは

「対象外被投資会社(Excluded investee company)」は、売却対象となる会社です。

具体的には、以下が該当します。

2022年6月1日以前の株式売却

・不動産取引を事業として行っている会社
・収益の有無に関わらず、主要な事業がシンガポールにおける不動産の所有である会社

*不動産開発(property development)を事業として行なう会社は「対象外売却会社」に該当しない。

2022年6月1日以降の株式売却

・シンガポール、その他外国において)不動産取引を事業として行っている会社
・収益の有無に関わらず、主要な事業がシンガポール、その他外国における不動産の所有である会社

*不動産開発(property development)を事業として行なう会社は以下に該当する場合のみ、「対象外売却会社」に該当しない。

1.開発された不動産は、被投資会社が自社の事業運営のために利用される。

2.株式の売却以前60ヶ月にわたり、被投資会社が不動産開発活動に従事していない。
不動産事業を行っている会社、不動産開発を行っている会社は留意が必要です。

日本における株式売却益課税の取扱い

シンガポールにおいて税法上の「居住者」となる日本人は、日本においては非居住者となります。この場合、日本国内に恒久的施設(Permanent Establishment: PE)を有してない非居住者が株式等を譲渡した場合、以下のケースを除いて、日本において非課税となります。

*恒久的施設(Permanent Establishment: PE)とは、事業活動を行う拠点であり、支店や事業所など。

日本において非居住者でも課税対象となる株式等

・買集めによる株式等の譲渡

・事業譲渡類似の株式等の譲渡

・税制適格ストックオプション行使により取得した特定株式等の譲渡

・不動産関連法人の一定の株式譲渡

・日本滞在中に行う内国法人株式の株式譲渡

・日本国内のゴルフ場のゴルフ会員権(株式形態)の譲渡


上記に該当する場合は、15%の所得税(申告分離課税)が課されますが、該当しなければ日本において課税されることはありません。

国税庁HP 海外転勤中に株式を譲渡した場合

租税条約上の留意事項

日本とシンガポール間における租税条約第13条5項の規定により、株式譲渡は、原則として居住国のみで課税されることとなります。

13条5項

1から4までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者が居住者である締約国においてのみ租税を課することができる。

ちなみに、13条5項のいうところの1から4とは、1.不動産譲渡、2.事業用資産の譲渡、3.船舶、航空機の運用に係る資産の譲渡であり、株式に関連する4項は以下の規定となっています。

4 2の規定が適用される場合を除くほか、

(a) 一方の締約国内に存在する不動産を主要な財産とする法人の株式(公認の株式取引所において通常取引されるものを除く。)又は一方の締約国内に存在する不動産を主要な財産とする組合、信託若しくは遺産の持分の譲渡から生ずる収益に対しては、当該一方の締約国において租税を課することができる。

(b) 一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の株式の譲渡によって取得する収益に対しては、次のことを条件として、当該他方の締約国において租税を課することができる。

(i) 当該譲渡者が保有し又は所有する株式(当該譲渡者の特殊関係者が保有し又は所有する株式で当該譲渡者が保有し又は所有するものと合算されるものを含む。)の数が、当該課税年度中又は当該賦課年度に係る基準期間中のいかなる時点においても当該法人の株式の総数の少なくとも二十五パーセントであること。

(ii) 当該譲渡者及びその特殊関係者が当該課税年度中又は当該賦課年度に係る基準期間中に譲渡した株式の総数が、当該法人の株式の総数の少なくとも五パーセントであること。

上記規定により、上記租税条約13条1項〜4項に該当しない場合は、5項の適用により日本で課税されることはありません。

国外転出時課税

ここまで解説したように、シンガポール居住者の日本人は日本における国内株式譲渡益について、シンガポールにおいても、日本においても非課税となる可能性があります。

ただし、2015年7月1日から日本において施行された国外転出時課税に留意する必要があります。

国税庁 国外転出時課税

国外転出時課税とは、有価証券、デリバティブ等の対象資産価額合計を1億円以上保有する場合、日本から国外への出国時にその対象資産の含み益に対して所得税を申告しなければならないという制度。

この制度が適用される国外への出国時は、まだ株式を売却しておらず、そのため納税資金を別途用意しなければなりません。

以上、シンガポールにおけるキャピタルゲイン課税について解説しました。キャピタルゲイン非課税と結論づけるまでには種々判断が必要です。取引の際は税務専門家にご相談いただくことをお勧めします。

Certainty of Non-taxation of Companies’ Gains on Disposal of Equity Investments

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