海外の駐在員は、現地スタッフに比べて高収入、高待遇で赴任してきます。
多くの日本企業は、これを当然の前提としていますが、海外現地法人のローカルスタッフは、日本人駐在員についてどのように評価しているのでしょうか?
この興味深い質問に答えてくれる学術論文がありました。
早稲田大学の白木三秀教授が2012年に発表した「日本企業のグローバリゼーションと海外派遣者」という論文です。
白木教授はグローバル人的資源管理を専門とする経済学者です。
2012年の研究と、少し古いものとなっていますが、現地スタッフの評価及び駐在員が目指すべきグローバル人材象を考えるにあたり非常に有益であるため、ここで紹介したいと思います。
日本人駐在員に求められる役割
本論文では、まず、日本人駐在員に求められる役割がまとめられています。
日本人駐在員が海外法人で求められる役割は、一般的に以下のケースがとなるのではないでしょうか。
・経理財務担当、技術生産担当などの機能の専門家
つまり、現地法人のトップとして海外事業の維持・発展の責任を負う社員、ミドルマネージャとして、専門技術やノウハウを現地法人に移転する役割を担う社員です。
このような日本人駐在員に求められる能力は以下とまとめられています。
・業務遂行能力
・情報発信力
・組織責任感
・開放性
具体的な内容は下図表を参照してください。
現地スタッフの日本人駐在員への評価
本論文では、上記の日本人駐在員に求められる能力に関して「日本人上司と現地人上司に対する評価の比較」というかたちで中国、インド、東南アジアの調査結果がでています。
東南アジアの結果は以下のとおりです。
驚くべきことに、「東南アジアのスタッフは、あらゆる項目において現地人上司の方を高く評価している」という結果になっています。
トップ・マネジメントもミドル・マネジメントも日本人駐在員が現地のスタッフを上回る項目がありません。
ミドル・マネジメントでは特に評価が厳しく、その評価差がかなり大きくなっています。
この結果から、東南アジアで事業を行っている日系企業は、「現地スタッフのモチベーションの維持、人材の採用・確保について厳しい状況にあることを示唆している」と著者はいいます。
日本人駐在員への評価が低い理由
著者は日本人上司の評価がローカル上司に比べて低い理由として
「すでに操業年数の長いASEANにおいては現地人材の蓄積が進んでいる」
ことを挙げています。
東南アジアにはすでに日系企業において十分な経験を積んだ現地スタッフが多くおり、現地の商習慣や文化などに不慣れなスポットの駐在員よりもパフォーマンスが高いということです。
その他、日本人駐在員について以下の欠点を指摘しています。
・異文化理解不足
・業務スキルの不足
・働き方の意識の違い
一方、現地スタッフは、交渉力や現地における人脈の広さが日本人駐在員に有利となることは想像に難しくありません。
日本企業が行うべき方向性
すでに論文が公表された2012年の時点で、日本人駐在員の役割は
「現地人ライン・マネージャーに対する技術的・経営的サポート役」
「世界本社や本社直属のR&Dセンターとの連携役」
となっていると指摘しています。
收入や待遇は組織に対して貢献した付加価値に対応したものであるべきです。
それでは、駐在員は現地スタッフと比較して多くの付加価値を生み出すべきであり、現地スタッフにはできない付加価値を提供していくことが求められます。
そのため、日本人については、
若いうちから各種のリーダーシップ能力や異文化適応能力などのコンピテンシーを高めるべく、教育訓練計画とキャリア設計の仕組みが必要
であり、グループ全社的には
日本人の海外派遣への加重な依存から脱却し、本社での外国籍スタッフの主要部門での活用や、現地スタッフの能力をよりグローバルに活用する必要が求められる
といいます。
著者は、「能力が高く、モチベーションも高い現地スタッフの育成、確保こそが、多国籍企業の競争力の重要な源泉」と指摘します。
論文から10年近くが経ち、現地人材の層もますます厚くなってきています。また、そもそも東南アジア各国が日本に比肩する技術力を備えつつあります。
優秀な現地スタッフのモチベーション向上と雇用維持のためにも、今後、海外現地法人における適切な人材マネジメントが求められるではないでしょうか。
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