海外子会社のマネジメントがうまく行かない日系企業の現地社長は少なくないです。
この理由のひとつとして、外国人スタッフの背景とするビジネス文化が違うためです。
どちらかというと日本のビジネス文化が先進国標準からするとユニークということもあります。
そこで今回は、外国のビジネス文化を理解し、効果的にマネジメントするためのツール「カルチャーマップ」について紹介したいと思います。
文化の異なる外国人スタッフをいかにマネジメントするか。 これは海外で事業を行い、外国人スタッフをマネジメントするグローバルリーダーにとって大きなハードルではないでしょうか。 人間の行動や思考様式は、文化や宗教、教育に根ざしてい[…]
カルチャーマップとは
カルチャーマップは、名門ビジネススクールINSEADの教授で、異文化マネジメント分野の第一人者である、エリン・メイヤー氏により提案されたものです。
世界のカルチャー・ギャップが最もよくあらわれる8つの指標から文化的な違いを見出し、異文化環境を適切にマネジメントすることを目指すツールです。
文化は複雑なものであり、1つや2つの観点から文化的な違いを評価しても、片手落ちな分析しかできず、有効なマネジメントにつながりません。
そこで、エリン・メイヤー氏は、数十年に渡って複眼的に文化を考察した学術研究を元に、この8つの指標を設定しました。
カルチャーマップを構成する8つの指標
カルチャーマップを構成する8つの指標について見ていきましょう。
1.コミュニケーション(高コンテクスト VS 低コンテクスト)
「コミュニケーション」指標は、その文化が「高コンテクスト」か「低コンテクスト」かを比較します。
「低コンテクスト」とは、コミュニケーションが正確かつシンプル、明快で系統だったものとなります。言葉は額面どおりに理解され、明確化のために繰り返し強調されます。
一方、「高コンテクスト」は、洗練されているが捉えにくく、重層的なコミュニケーションとなります。明確に意見が表明されないため、発言の行間を読むことが必要になります。
2.評価(直截的 VS 婉曲的)
「評価」指標は、否定的なフィードバックを与えるときに、「直截的な表現」を好むか、「婉曲的な表現を好むか」を測定するものです。
3.説得(原理原則 VS 個別の実例)
説得の方法は、属する文化の思想、宗教、教育上の通年や考え方に深く根ざしているといいます。
説得には「原理原則を重視する方法」と「個別の応用・実例を重視する方法」があります。
例えばドイツは前者は、基本となる原理から説明する傾向にあります。近代哲学が発展したお国柄なのでなんとなく納得が行きます。
一方、米国などは後者に該当し、様々な実例から説明します。たしかにアメリカのビジネス書ではこれでもかというくらい実例が登場し、そこから帰納して結論を導くような手法がよくみられます。
4.統率(序列主義 VS 平等主義)
「統率」指標は、権力者に対する敬意や服従がどのくらい示されるかを評価するものです。
この指標は「序列主義」と「平等主義」の2項対立となります。
「序列主義」の文化においては、目上の階級には敬意を示す必要がある一方、「平等主義」の文化では、過剰な敬意は逆に違和感を与えたり、信頼を損なうことにつながるおそれがあります。
5.意思決定(合意 VS トップダウン)
「意思決定」指標は、ある文化が「コンセンサス」つまり集団の合意をどれくらい重視するかを評価するもの。
平等主義だからといって、意思決定に合意が重視されるわけではない点に注意が必要です。
例えば、米国は平等を重んじる文化ですが、意思決定はトップダウンになされます。
6.信頼(認知的 VS 情動的)
「認知的な信頼」とは頭で考える信頼、つまり仕事上の成果で信頼を勝ち取る文化です。
一方、「情動的な信頼」とは心で感じる信頼、つまりプライベートでの交流など、情動的なつながりや人間性を重視する信頼と説明されます。
7.意見の対立(対立 VS 対立回避)
意見が異なる場合に、オープンに対立を許容するか、回避するか、言い換えると対立を有益なものとみなすか、有害とするかは文化によって異なります。
8.スケジューリング(厳守 VS 寛容)
スケジュールに対して厳守が求められるか、それほど重視しないかも文化によって異なります。
この指標もビジネスを行うにあたり、異文化のミスコミュニケーションが生まれやすいところでしょう。
日本、シンガポール、米国の比較
エリン・メイヤー教授のウェブサイトから、実際に日本とシンガポール、米国の各指標を入手して比較したところ、以下の結果となりました。
日本の指標は、両端に寄る極端なビジネス文化
まず目を引くのが、日本の指標が両極端に寄っている点ではないでしょうか。
良いか悪いかは別として、外国人からみて、かなりユニークな(だけどわかってしまえば単純な)ビジネス文化と言えそうです。
シンガポールは真ん中によりがちな中庸のビジネス文化
一方で、シンガポールはあまり特徴のないビジネス文化と言えそうです。
全ての指標において日本と米国の間に収まっています。
世界中から人材を呼び込む国際都市という正確がこのような中庸の文化を生んでいるのかもしれません。
日本とシンガポールは、近似したカルチャーマップとなる
どちらかというと、日本とシンガポールの各指標は同じような傾向が見て取れます。
日本人にとって、シンガポール人はマネジメントしやすいと言えそうです。
日本とシンガポールの文化ギャップは、「意思決定」の差が大きい
日本とシンガポールの傾向は似ていますが、一つだけ大きく異なる指標があります。それは「意思決定」。
前述のとおり、「意思決定」は「合意を重視するかどうか」です。
シンガポールはどちらかというと「トップダウン」で決定する傾向にあり、「合意重視型」の日本とは大きく異なります。
実際にシンガポールでマネジメントする際は、あまり部下スタッフの意見を取り入れすぎず、トップ・マネジメントが責任をもって決断することがよいといえそうです。
カルチャーマップをマネジメントに活かすには
著者のエリンメイヤー氏は、カルチャーマップから導出された文化的なギャップをマネジメントするためにに、以下の4つのルールを守ることが大切だと強調します。
1. 課題の評価
カルチャーマップにより導出された文化ギャップという課題について、過小評価してはいけません。マネジメントにおいては、文化に合わせて異なる対応をして、調整を続ける必要があります。
2. 相対的・複合的な視点
ある国の文化が指標上のどこに位置しているかは重要ではありません。あくまでも他の文化との相対的評価において、その差異に着目すること重要であると著者は主張します。
3. 異文化の手法から良い点を見出す
文化的なギャップを逆手にとってマネジメントし、チームを強化することが必要です。ダイバーシティ経営が叫ばれて久しいですが、多様な文化的背景を持つスタッフが集まればイノベーションが創出されやすくなります。リーダーは、文化的な摩擦をうまくコントロールしてチームを活性化し、強化することが求められます。
4. 自分のポジションの調整を重ねる
チームメンバーの文化ギャップをマネジメントするとともに、リーダー自身もスタイルを絶えず調整して見直し、仕事のパートナーにもっと順応しなければならないと主張します。この際、8つの指標全てにおいて、文化に応じて柔軟に対応を調整することが求められます。
さいごに
カルチャーマップは、えてしてカオスになりがちな多文化環境におけるマネジメント指標を明確化することに成功していると感じます。
多様性を重視するダイバーシティ経営が、マネジメントの必要条件になりつつある現代において、また異なる文化的な背景を持つ海外の拠点をマネジメントする必要がある日本人にとって、このカルチャーマップは非常に有益なツールになるのではないでしょうか。