【2022年度シンガポール】税制改正の概要について。

2022年2月18月にシンガポールの国家予算及び税制改正の2022年度版が公表されました。

当記事では、2022年税制改正の主な内容について解説したいと思います。

(2021年度の税制改正はこちら参照)

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最低実効税率の導入(法人税)

2021年12月、OECDによるグローバルの国際税務の枠組みであるBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源侵食と利益移転)」において、グローバル企業の最低実効税率(Minimum Effective Tax Rate)を15%とすることが取り決められました。

これは、税率を低くしてグローバル企業を誘致しようとする、世界中で加速する減税競争に歯止めをかけるために決定されたものです。

この決定をうけ、シンガポールは会社法人税(Corporate Income Tax)の枠組みにおいて「最低実効税率(Minimum Effective tax rate)スキーム」を導入することを公表しました。

スキームの詳細については開示されておらず、今後シンガポール税務当局(IRAS)と産業界が議論をしていくとの報告にとどめています。

世界売上が1,000億円超というようなグローバル企業外対象となるため、適用される企業は多くはないでしょうが、低税率を武器に多国籍企業のアジア統括拠点を誘致してきたシンガポールがどのような制度を導入してくるか、また最低実効税率が適用されるシンガポールに国籍企業がとどまり続けるか、今後も注目されます。

個人所得税の累進税率の引き上げ

シンガポールの個人所得税(Personal Income tax)率が引き上げられました。

シンガポールの税率は日本と同じ累進課税であり、以下表の料率に従い所得税が計算されます。(累進課税とは、対象課税額が上昇するにつれて、適用される税率が上がる課税方式のこと。)

(2024賦課年度以降)

(参考:2023年賦課年度まで)

現状、320,000シンガポールドルを超える高所得に対しては一律22%となっていましたが、2024年賦課年度(2023年1月〜12月の所得申告)から、500,000シンガポールドルを超える所得については23%、1百万シンガポールドルを超える所得については24%となります。

これに合わせて、非居住者に対して一律に課税される所得税率も24%に引き上げられます。

500,000シンガポールドルを超えるような超高額所得者のみが対象となるため、ほとんどの人にとっては影響のない税率の引き上げと言えそうです。

とはいえ、日本の個人所得税率は、住民税も入れれば最高55%ですので、まだまだシンガポールの税率は低水準といえますね。

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固定資産税率の引き上げ

シンガポールでも、日本と同様に固定資産の所有について固定資産税(Property Tax)が課税されます。

シンガポールの固定資産税は「年間評価額(Annual Value)× 税率(Tax Rate)」で算定されます。年間評価額は住宅用、商業・産業用などの用途によって算定方法が異なります。たとえば住宅用不動産の場合は「見積り年間賃貸料総額(Estimated gross annual rent)」となり、賃貸マーケットにおける年間賃貸料となります。

また、固定資産税の税率は、オーナーが居住している場合と、居住していない場合で税率が異なります。オーナーが居住していない場合は投資用不動産ということになりますので、税率が高くなります。

固定資産税の累進税率は、2024年以降に以下のとおり引き上げられます。

○オーナーが居住している場合

○オーナーが居住していない場合

固定資産税の増税に起因して家賃を高く設定する大家が増えるかもしれませんので、日本人の居住者には住居コスト増につながる可能性があります。

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自動車追加登録料の引き上げ

シンガポールでは、渋滞緩和のため自動車の保有に高額の税金や登録料を課しています。

自動車登録料や消費税(7%)に加えて、自国生産を行っていないため輸入関税(20%)がかかる上に、車体価格(Open Market Value)の100%を超える自動車追加登録料(Additional Registration Fee)が上乗せされます。

この自動車追加登録料について、従来100%〜180%であった料率が100%〜220%へと引き上げられます。

(従来)

(2022年税制改正)

高級車については本体価格の2倍以上の追加コストがかかってしまうので、シンガポールで自動車を保有することがますます贅沢になります。

消費税(GST)料率の引き上げ

シンガポールの消費税に該当するGSTの料率は、従来7%でしたが、2023年1月1日より8%、2024年1月1日より9%へと引き上げられます。

シンガポール政府は、GST料率の影響を緩和するために、中所得層のシンガポール国民に対してGSTバウチャー(払い戻しリベート)を配布する仕組みについて永久に利用できること、またシンガポール国民向けの660億ドルの保証パッケージがあること、また、教育、ヘルスケア関連のサービスは補助金を支給することでGSTを吸収できることを強調します。

数年前からアナウンスされていたものなのでサプライズではないとはいうものの、やはり急速なインフレ下での消費税増税は、お財布に直撃することになりそうです。シンガポール駐在、就労コストがまた上昇することになります。

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旅行手配サービス業者に対するGSTの取り扱い

国境を超えたデジタルサービスの発達により、国内取引で生じる付加価値に課税をする消費税(GST)の判断が難しくなっています。

旅行の手配の際にExpediaなどネットサービスを利用するのは当たり前となっていますが、そこにかかるGSTについて以下の取り扱いとなります。

・サービスの顧客がシンガポールにいる場合、旅行手配サービス(travel arrangeing service)は標準税率(2022年まで7%)が課税される

・サービスの顧客がシンガポール国外にいる場合で、直接便益を受ける者がシンガポール国外にいる、またはシンガポールのGST納税登録者である場合、旅行手配サービスはゼロ料率(zero-rated)が課税される

旅行手配サービスの提供にGSTゼロ課税が適用されるか否かの判断が、サービスの顧客及び直接の受益者が属する場所に基づいて決定されることになります。

当該規定により、旅行手配サービスを供給する国内及び海外のサービス業者について、同等のGSTの取り扱いになり不平等が解消されます。

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源泉所得税免税措置の延長

2015年よりシンガポール国内で活動を行う非居住の仲裁・裁定組織(arbitrator/mediator)の所得にかかる源泉税(withholding tax)が免除されていますが、この免税措置が2023年まで延長されます。

シンガポールが狙う国際調停ハブとしての立ち位置を強化するための税務インセンティブですが、一般の事業者にはあまり関係のない制度でしょう。

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認定ロイヤリティ・インセンティブ

認定ロイヤリティ・インセンティブ(Approved Royalties Incentive: ARI)は、先端技術ノウハウに関するロイヤルティ支払にかかる源泉税を減税または免税するインセンティブです。

2023年12月までで失効する予定でしたが、2028年12月まで延長されることが公表されました。

シンガポールが取り込みたい最先端の技術やノウハウを国外から吸収して、人材の開発や事業機会の創出を目的とします。

認定外国ローン・スキーム

認定外国ローン・スキーム(Approved Foreign Loan Incentive)は、生産設備の購入原資として外国から借入れる資金に生じる支払利息にかかる源泉税について減税または免税するスキームです。

2023年12月までで失効する予定でしたが、2028年12月まで延長されることが公表されました。

シンガポールでの事業に必要な生産設備投資を促進することを目的とします。

公務目的のための情報開示

公務のデジタル化をすすめるため、シンガポール税務当局(IRAS)が以下を目的とする情報の開示が可能となるようシンガポール所得税法(ITA)及びGST法(GSTA)を改正することが公表されました。

・納税者が情報提供に同意した場合、IRASは公務員(または公的組織に関わる民間組織の権限者)に対して情報を開示する

・納税者の同意なしでも、公務を遂行する公的セクターに対して特定情報のリストを開示する。ただし、同情報は納税者の秘密保持のため、粒度の低い状態で開示される。たとえば特定情報のリストには、納税者の売上高そのものではなく、属する売上レンジが含まれることとなる。

税務機関(IRAS)やGSTを管轄するカスタム(関税)、会社法関連の登記局(ACRA)、就労管理を行う労働省(MOM)などの間で情報共有ができるようになりそうですので、正確な情報提供を心がける必要があります。

さいごに

2022年度の税制改正は、所得税、GST、固定資産税と税率の引き上げが目立ちました。特に高所得者層にとっての増税となっており、コロナで増加した歳出を増税により改善する趣旨があるかと思います。

日本人のシンガポール居住者にとっては、シンガポール滞在コストの上昇となりますが、日本含め世界的に同じ流れかと思いますので仕方のないことかと思います。

本記事は2022年2月18日に公表された国家予算案・税制改正を元に解説していますが、法案であり施行されるまでに変更がある点ご留意ください。また、ファイナスセクター、輸送セクターの税制改正については割愛しています。適宜原文をご参照ください。


当該情報は執筆時点に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、弊法人作成後、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。

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