【海外子会社管理】海外事業の成功の秘訣は粗利益の管理。その2.どれだけ売れば儲かるかを知るツール<損益分岐点分析>。

事業の存在意義は利益をあげることです。

利益をあげることで事業を継続し、社会に価値を提供することができるからです。

そのため、会社がどれだけ利益を挙げているかを把握し、今後利益をあげることができるかを予測することが、事業運営上必要不可欠です。

今回は、会社がどれだけ利益を儲けることができるかを予測するツールである、「損益分岐点分析」について解説します。

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損益分岐点とは?

損益分岐点とは、企業の業績が「利益」となるか「損失」となるか、ちょうど分岐点となる売上高です。

この損益分岐点における売上高は、総費用額をカバーしている状態であり、つまり利益がちょうどゼロとなります。

損益分岐点:総費用=売上高

次の図で損益分岐点を表す事ができます。

ポイントは、「総費用」の軸がゼロから始まっていない点です。これは、事業の経営には、売上が上がらなくても発生する費用が存在するためです。会計上はこの費用のことを「固定費」と呼びます。

損益分岐点は、別の言い方をすると「固定費を全て回収できる売上高」ということになります。

損益分岐点において固定費を全てカバーできるので、損益分岐点以降の売上高は、会社の利益になっていきます。

損益分岐点分析の手順

損益分岐点分析は、以下の手順に従い実施します。

1.売上単価の把握

2.費用を固定費と変動費に分解

3.損益分岐点の算出

4.損益分岐点に関する分析ツールの利用

それぞれ見ていきましょう。

1.売上単価の把握

損益分岐点分析では、まず販売1単位あたり、どれだけの売上があるかを把握する必要があります。

製品や商品販売のような、「1個あたり」の単価が明確なものは簡単ですが、サービス販売やネット事業の場合は、様々な形態で提供サービスを行いますので、一単位あたりの販売単価を算出するのが多少困難です。

サブスクリプションであれば、1ヶ月あたりの1契約単価、時間請求ビジネスであれば、時間単価売上が該当しますが、複雑な契約形態になっている場合は検討が必要です。

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2.費用を固定費と変動費に分解

次に、費用を固定費変動費に分解します。

固定費とは、販売量とは関係なく固定的に発生する費用です。

具体的には、人件費、家賃、固定資産のリースや減価償却費、広告費などが該当します。

変動費とは、販売量の増加に伴って比例的に増加する費用です。

具体的には、原材料費、仕入原価、販売手数料、販売輸送費、外注費用などが該当します。

このように記載すると、固定費、変動費は簡単に分類できそうですが、実際の会社をみていると、正確に損益分岐点を把握していない会社が多いです。この理由は、固定費と変動費を精緻にわけられていないことによります。

人件費や家賃など、明確に固定費として把握できるものもありますが、製品やサービスを1単位増やすと比例して増加する純粋な変動費を把握することが容易では有りません。

多くの費用が、一部固定費であり、一部変動費であるという性質を有するためです。(会計上は準固定費または準変動費といいます。)

たとえば、一定利用料までは定額だけど、それ以降は使用量に応じて請求額が増加するインターネットデータ使用料などがあります。

このような費用についても、ある程度正確に分解することが必要ですが、分解が難しい場合は固定費にバッファーをもたすことをおすすめします。

固定費額が増加するので、損益分岐点を達成するための必要販売量は多くなってしまいますが、少し厳しめの目標販売量を設定することになるので、会社運営上は保守的で安全となります。

3.損益分岐点の算出

売上単価、固定費、変動費を把握したら、損益分岐点を算出することができます。

①まず売上単価から変動費単価を控除した【限界利益】を算出します。

限界利益とは、商品を1単位販売した場合に得られる利益の限界額であり、この限界利益を元に固定費を回収していくことになります。

②次に、この限界利益を売上単価で除すことで、【限界利益率】を算定します。

限界利益率は、限界利益の収益性を表し、この率が高いほど固定費を早く回収することができます。

最後に、固定費額を限界利益率で除すことで、損益分岐点売上高を算出することができます。

4. 損益分岐点計算の例

パソコン販売店の例で見てみましょう。

A社は、1台あたり10万円のパソコンを販売しています。仕入値は4万円、家賃と人件費等の固定費が毎月50万円発生します。

販売価格:10万円
変動費:4万円
固定費:60万円

このケースでは、限界利益、限界利益率及び損益分岐点は以下のとおりとなります。

限界利益:6万円  (10万円-4万円)
限界利益率:60%   (6万円÷ 10万円)
損益分岐点:100万円  (60万円÷60%)

つまり、この会社は100万円、つまり10台のPCを売ればトントンとなることがわかります。

11台目以降は、1台あたり限界利益の6万円が利益として稼得できることになります。

その他の分析ツール

損益分岐点に関連した分析ツールがあります。いくつか紹介したいと思います。

①. 損益分岐点比率

損益分岐点比率とは、損益分岐点を実際の売上高で除した割合(%)です。

この比率を見ることで、売上の減少による業績赤字の影響を把握することができます。

つまり、損益分岐点比率が高いということは固定費の負担が重く、実際の売上高が損益分岐点ギリギリであるため、売上の減少により業績赤字となる可能性が高くなります。

よって、損益分岐点比率を計算することで企業の体力を把握することができます。

損益分岐点比率は低ければ低いほどいいということになります。

先程の例で、たとえば月400万円の実際売上があった場合、損益分岐点比率は以下のとおり計算できます。

損益分岐点比率:25%(100万円 ÷ 400万円)

損益武器点比率25%であれば、たとえ売上が半減して200万円となっても、まだ固定費60万円を十分回収できるため、かなり優良企業といえます。

②. 安全余裕率

安全余裕率とは、実際の売上高を100%とした場合、損益分岐点と実際売上高は何%の開きがあるかを示す指標です。

こちらは損益分岐点とは逆で、大きければ大きいほど良い指標です。

上記の例でいうと、以下のとおり算定できます。

安全余裕率:75%(400万円 – 100万円) ÷ 400万円

これは、売上が75%下落しても赤字にならないという採算ラインを示します。

事業の責任者は、安全余裕率を常に理解しながら販売価格の決定や原価のプランニングに取り組まなければなりません。

損益分岐点改善の処方箋

最後に、損益分岐点はどのように改善することができるか、について検討したいと思います。

損益分岐点は非常にシンプルで、2つの要素しかありません。

売上」と「費用」ですね。

そのため、損益分岐点の改善には、「売上を増やす」か「費用を削減する」の2つしかありません。

損益分岐点の改善ー1. 売上を増やす

損益分岐点を改善する1つ目の方法は「売上を増やすこと」です。

売上は「単価×販売量」ですので、単価をあげるか販売量を増やす必要があります。

また、不採算事業から撤退し、限界利益率の高いコア事業にフォーカスすることが、損益分岐点比率を改善することになります。

どちらにしろ、高度な経営上の戦略と意思決定が必要となります。

損益分岐点の改善―2. 費用を減らす

損益分岐点を改善する2つ目の方法は「費用を減らす」ことです。

損益分岐点分析においては、費用は「変動費」と「固定費」に分類したのは上記で見てきたとおりです。

同じ「費用を減らす」ことであっても「変動費」と「固定費」ではその原価削減活動は全く別の努力が必要です。

固定費を減らす

固定費には、人件費や家賃など比較的発生額の大きな種類の費用が多く、その削減は、損益分岐点の改善に早期に貢献することができます。

また、固定費は、管理部門の人件費や会社の家賃など製品製造やサービス自体には直接関係しない、間接的な費用が多いため削減しやすいといえます。

ただし、人件費を削ることや安いオフィスへ引っ越すことなどは、従業員のモチベーションを下げることに成りかねないため、間接的に事業の製品価値に影響を与えるため注意が必要です。

変動費を減らす

原材料費に代表されるように、変動費の削減は製品の魅力減少に直接影響を与えます。

そのため、変動費の削減は、売上高の減少につながっていくおそれがある点に注意が必要です。

一般的には、工程見直しによる製造効率化や、購買活動においてより安い仕入値を目指す努力などが考えられます。

さいごに

今回は、利益管理のツールである【損益分岐点】について解説しました。

損益分岐点売上高、そこから導かれる安全余裕率などを計算して、自社にとっての適切な売上水準、利益水準を認識し、適切な事業戦略を立案・運営することが重要です。

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