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<書評・レビュー>デジタル・ファイナンス革命。会計経理人材が身につけるべきスキルと役割とは?

本書「デジタルファイナンス革命」は、国際会計事務所の1角であるKPMGから2019年12月に出版された、最先端テクノロジーによる会計経理人材への影響を体系的にまとめたもの。

KPMGはいわゆる会計事務所「ビッグ4」と呼ばれるその規模から、世界中における中小企業から多国籍企業まで多くのクライアントを抱えており、そのため各企業で進行している「デジタル・ファイナンス革命」に対する膨大な知見が集まってきていると考えられます。

そのような膨大な実例から抽出された、現状の分析と近未来予測は非常に精度の高いものとなっており、AIやロボティクスが今後ビジネスに与える影響を理解するために、会計経理業務に携わっている方はもちろん、すべてのビジネスパーソンが読んでおくべき一冊となっております。

本記事では少し紹介していきたいと思います。

AI・RPAと会計経理業務の現状

1.会計経理業務の多くが自動化へ

「AIやRPAにより、会計経理人材の仕事が人の手から離れて自動化されつつある」

このように言われて久しいですが、本書によると、具体的に以下の業務について自動化が進んでいます。

・定期的な費用発生状況の調査

・買掛計上の仕訳

・売掛金の入金消込

・取引先別債権債務レポート

・チャットボットに話しかければ自動的にレポートを作成

・会計システムに自動計上できる仕組みを構築

・各種財務情報のエクセルによる集計・変換

・取引先マスタ登録・変更

 

これらの業務は会計経理業務の大部分を占めるもので、既に人の手からコンピュータに多くの仕事が移行していることが見て取れます。

たとえば与信判断

クラウド資金調達サービスの記事の記事でも具体的にAIによる与信審査について紹介しましたが、新規取引先の与信判断にAIを用いて、取引先の信用力の判断を行わせる技術開発が進んでいます。以下、本書より。

取引先の財務情報など客観的な情報に加え、人間では処理に時間がかかる膨大な取引履歴や過去のニュースを確認し、SNSなどの膨大なデータから新規取引先の信用力をAIが評価し、その結果を受けて、人間が最終判断を行うという仕組みが考えられる。

今後、銀行の融資審査などはほぼ自動化されるのではないでしょうか。この流れに対応し、融審査に携わる銀行員は、たとえば企業に対するコンサルなど付加価値の高い業務に移行する必要がありそうです。

また、仕訳伝票起票についても、銀行口座の入出金情報を元に、AIにより自動で勘定科目を判断・自動仕訳計上する仕組みはすでに実用化しています。

具体的にはFreeeやMoneyforwardといったベンチャー企業が有名ですね。

ただし、本書においては、会計経理業務の自動化について、安直にAIを適用するのではなく、まずは既存業務ビジネスプロセスの理解が重要であると警告します。

会計経理業務には、大きく分けて定型業務非定型業務がありますが、RPAを適用するにあたってはこの非定型業務を細分化していき、それぞれ細分化された業務について定型化(ルール化)できないか考えることを優先すべきとします。

現状、自動化による人員削減や高付加価値業務への転換といったリストラクチャリングまで進んでいる企業は多くないとのことですが、今後急速に進むことが危惧されます。

2.定量的情報から定性的情報へ

従来、企業は財務数値など「定量的情報」を元に経営管理をしていました。これは、「定性的情報」を経営の判断に利用するための客観的な手法が存在していなかったためです。

ところが、AI技術の発達により、定性的情報についても将来予測などに合理的・科学的に織り込むことが可能となってきました。

本書では、一例として「商品売上予測」が取り上げられています。

従来、商品の販売予測は広告費や販売POS情報などの財務情報を基礎として、気温、周辺施設イベントなど客観的に数量化できる「定量情報」でインプットを行っていました。

ところが今後は、ソーシャルの評価コメントやウェブサイト口コミなど自然言語の口コミが商品売上に与える影響など、「定性情報」までインプットすることができ、より精度の高い予測が可能となります。

適切な定性的情報を経営分析に織り込むことができる人材が必要になってくることは間違いありません。

3.クラウド経営管理システムが主流に

ソフトウェアのクラウド化についても時代の潮流あり、企業内の基幹システムはクラウド化されていくと予測しています。

これは意外に思う方も多いかもしれません。自社特有の高度な基幹システムは企業の競争優位の源泉となります。適時に有用な情報を得ることで、企業は適切な事業戦略を立案・実行することができるためです。

ところが、クラウド化により、導入コストの劇的な低減し、セキュリティの向上、さらにはアップデートを適時に行うことができるというメリットがあります。

従来は、「基幹システムを会社のビジネスに合わせる」のが一般的でしたが、今後は、「ビジネスをシステムに合わせに行く」こともある程度必要となりそうです。

ちなみに、企業に導入されている基幹システムはERPと呼ばれ、これは「企業資源計画」(Enterprise Resource Planning)の略です。名称からも読み取れるとおり、企業の「リソースを管理」することが主眼に置かれており、どちらかというと「過去から現在志向」といえそうです。

ところが、今後クラウドが主流となるであろう基幹システムはEPMと呼ばれ、「統合業績管理」(Enterprise Performance Management)の略です。EPMは「業績の管理」のためのシステムであり、従来のERPと比較してより「未来志向」であることが伺えます。本書に記載されたEPMの主な機能は以下のとおりです。

・経理管理の必要データを収取する機能

・予算管理、着地見込管理

・KPIの把握

・定型・非定型のレポート作成・分析機能

企業はいち早く低コストでEPMを導入し、適時適切な戦略を実行することがこれからの時代で勝ち抜くための前提条件となるかもしれません。

4.ブロックチェーンの活用

ブロックチェーンに関しても記述があります。こちらは巷で言われているような、

ブロックチェーンを導入すれば記帳は自動で行われ、会計不正もできない

という論調に少し釘を刺す内容となっています。

本書によれば、ブロックチェーンは「信用創造する仕組み」ではあるものの、あくまで

台帳に書き込まれた情報に対して信用つくれる

のであり、

台帳情報と実際の取引がことなることはありえる

と警鐘を鳴らします。そのため、

ブロックチェーンに書き込む前の事象や情報と、実際のモノの繋がりに対して信用を創出する仕組みではないため、ここはIoTや認証システムなどのテクノロジーで補完する

必要があると説明します。

こちらも参照:ブロックチェーン技術で「三式簿記」へ進化。複式簿記はアップデートされるか。

5.海外拠点のマネジメント

デジタル・ファイナンス革命の進行により、企業の海外拠点管理についても影響がありそうです。

本書によると、海外拠点の事業運営は、今まで各拠点に任せる傾向が強かったものの、今後AI・RPAの自動化が進むことで、

今後、グローバルで共通の業務が可能となれば、本社でタイムリーに各国の会計情報が把握でき、法令、税制、会計基準、通貨が異なる各国の会計データのプロセスを集約化、グローバルに統合された運営が可能となる

その結果、国境を超えたバーチャルな組織が実現可能となり、地域固有業務は大幅に削減、今まで地域別にせざるを得なかった業務が激減していくかもしれない。

と分析します。

国内、海外拠点問わず、企業運営に大きな影響があることがひしひしと感じられますね。

6.AI後における会計経理人材の役割

さて、上記のようなAI・RPAと会計経理業務の現状を踏まえた場合、各部門で働くプロフェッショナルの役割はどのようなものになるのでしょうか。

本書では、CFO、監査部門及び経理部門について以下のような例示が列挙されています。

CFOの役割


・CEOのビジネスパートナー

・データを企業価値向上のために有機的に結びつけて経営管理

・IT部門と連携してセキュリティの整備・運用

・地政学リスクに対して財務面から意思決定をサポート(各国の関税野法人税の影響など)


監査部門の役割


・日々オートメーションで取引を全件確認した上で内部監査部門が以上知の最終確認


経理部門の役割


・自動で提示された予測やアクションプランが最適かどうかの妥当性判断

・アクションプランを実行に移すため、組織内のあらゆる利害関係者とコラボレーション


上記の役割を果たすことで、CEOのビジネスパートナー、バリュークリエーターとなることが必要と提言しています。

経理会計部門は今後、現在のCFO、FP&A部門、経営企画部門のような機能を担わなければなりません。

こちらの記事<書評・レビュー>『CFO-最先端を行く経営管理』でも同じような趣旨でCFOの将来の機能を予測しています。

経理財務人材が求められるスキル

経理財務人材の未来のスキル

それでは、上記の役割を果たすために経理財務人材が備えるべきスキルはどのようなものでしょうか。

本書では、「1.データ活用とテクノロジースキル」、「2.行動」、「3.ファイナンス技術」のカテゴリーに分けて以下のようなスキルを列挙しています。

上記には、デジタル・テクノロジーのスキルが多く出てきます。この点、著者は、

経理財務部門は、経営情報の統合役としてデジタル・業務・プロジェクトマネジメントを包括的に理解し、各部門や外部関係者とのコラボレーションを推進できる

ことが重要であると提言します。

過去分析から予測的分析へ

従来、経理財務部門の仕事は、過去情報の取りまとめという側面が強かったことに異存はないと思います。

このような従来型の経理財務が、今後も経理財務部門の重要な業務であることは変わらないものの、今後は将来に重点をおいた業務が重要になってきます。

本書では、経理財務部門の業務における重点は「何が起こったか?」や「なぜ起こったのか?」の過去データ分析から、「今後何が起こりうるか?」、「どのようなアクションを取るべきか?」のような将来への予測的な分析業務へ移行すると予測します。

ファイナンス技術が最重要スキル

著者は「ファイナンス技術」の領域こそ、これからの経理財務部門が一番重視すべきスキルと断定しています。

新しいテクノロジーの知見やコミュニケーションではなく、一番大事なスキルが従来型「ファイナンス技術」というのは少し意外ですね。

これは、経理財務人材が以下のような「業務とシステムの橋渡し」といった役割を果たすために求められます。

・経営視点で洞察力を働かせるためにどのようなデータ分析が必要か判断

・現状のシステムのデータフローを理解した上でリクエストを出し、開発を依頼

・データサイエンティストの成果や能力を判断

人員削減によりフラット組織へ

会計経理人材には頭のイタい話ですが、著者は、

世代の組織構造においては、経理財務部門に必要となる人員は大幅に削減される

と述べています。

その上で、

今後経理財務の組織はこれまでのピラミッド型の構造ではなく、互いに高度な専門領域をもつプロフェッショナルが集まる少数精鋭のフラット組織となる。

と予測します。

会計経理人材に求められるスキルは多様化しており、全てを一人の個人が高度に発揮することはかなり困難でしょう。会計経理人材は、個々の特性にあった領域のスキルに磨きをかけ、協力しながら業務を推進していく、会計経理部門は近い将来そんな形になっていくのでしょう。

さいごに

さて、いかがでしょうか。本書は会計経理の現場に精通した公認会計士及び戦略コンサルタントによる296ページに及ぶ大著となります。ここで紹介した内容以外にも、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)に関する箴言がまとめられています。

変化の時代に適応し、活躍するためにも今読むべき名著であるのは間違いないです。

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