会計経理人財は淘汰されるのか?AIクラウド会計の自動仕訳の仕組み、その影響についての考察。

近年、クラウド会計の進化により、ますます会計人材の仕事に変化が訪れています。

今回の記事では、クラウド会計の仕組みを俯瞰した上で、将来会計人材に与える影響を検討してみたいと思います。

Freeeのクラウド会計における自動化機能は?

AIを利用したクラウド会計のトップランナーはFreee株式会社です。このFreeeの会計システムには主に以下のような自動化機能が実装されています。

1.自動仕訳の仕組み

クラウド会計の雄、Freeeが提供する会計システムでは、

「自動仕訳」

の機能が備えられています。

この「自動仕訳」機能の仕組みは、たとえば仕訳処理したい明細がある場合、その中の主要な情報、例えば「東京ガス」などの取引先名から、「ガス→水道光熱費」と推測し、水道光熱費の計上仕訳を起票するというもの。

AI(機械学習)を使ったシステムですので、あくまで過去のデータ(例えば、東京ガスの明細について、水道光熱費として処理した実績)が必要となります。

詳細はこちら→ https://corp.freee.co.jp/news/smb-ai-labo-0627-4966.html

2.月次監査機能の仕組み

同じくFreeeでは、「月次監査機能」も導入しています。

こちらは、あらかじめチェックする項目を設定することができるのに加え、

「税務のルールとの違い」、

「Freee利用者の間でよく発生する誤り」、

「過去比較での大きな変動」

等の項目を自動で抽出し、ハイライトしてくれるという機能。

従来は顧問税理士や公認会計士が行なっていたような、アドバイスの前提となる分析を自動化してしまう機能です。

詳細はこちら→https://jp.techcrunch.com/2018/05/28/freee-ai-kansa/

AIクラウド会計システムは今後どのように進化するか

会計仕訳とは、財務会計の世界におけるプログラミングのようなものだと思います。

つまり、この仕訳というプログラミングを積みかせねていくと、財務諸表ができあがります。

これは、プログラミングを記述していくと、アプリやらHPやらが出来上がる仕組みに似ています。

プログラミングで記述を誤ると、エラーが出てうまくシステムが動かないのと同様、正しい仕訳を起票しなければ、適正な財務諸表が生成されないという点も似ていますね。

さて、プログラミングの世界では、自らプログラムを書けなくても、ボタン1つで同じような成果物をつくることができるようになる方向性に向かっています。

例えば、ブログの構築は、一昔前はプログラミング言語を駆使して、サイトを構築し、HTMLやCSSで色付けや装飾をする必要がありました。

ところが現在は、Wordpressなどのブログサービスにより、実際に自分でプログラムを記述することなく、ボタン1つで色々な機能をダウンロードして構築できるようになっています。

プログラミング活動についても、複雑なシステムの構築でなければ、プログラミング言語自体を学んで自分で記述するというよりは、ライブラリに共有されている既に過去に誰かが記述した機能をインストールすればいいという流れです。

会計実務も究極的には、自ら仕訳を起票しなくても、ボタン1つで感覚的にBS、PLを作成できるようになると思われ、Freeeやマナーフォーワードなどクラウド会計システムの雄はそんな世界をめざしているはずです。

AIクラウド会計の自動化が進んだあとの会計経理人財の仕事

今後ますます会計システムが進化し、自動化が進んでいった場合の会計経理人財への影響はどのようなものでしょうか。

会計経理職社員の仕事

・AI自動仕訳の環境設定

・AI自動仕訳のレビュー

・非定型取引のマニュアル処理

・経営戦略の立案など、経営者の参謀役

会社内の経理部社員の仕事はどうなるでしょうか。

企業は画一的な会計基準に従って処理しなければいけないので、ゆくゆくは環境設定すらAIが行うことが想定されますが、まずは、AIによる自動仕訳の環境設定をする必要がありそうです。

実際の処理に関しては、クラウド会計システムが正確に会計処理ができるようになるまでは、AIが起こした自動仕訳についてダブルチェックのような形でチェックすることが必要になるでしょう。また、過去に事例がないなど、非定型取引については、経理社員がマニュアルで入力する必要がありそうです。

自動仕訳をダブルチェックするとした場合、どこまで精査するかが問題です。

1件1件チェックするのであれば、自分で入力するのとほとんど手間が変わらない一方、効率化を目指すなら、ある程度自動仕訳を信頼してチェック手続きを省略しなければなりません。

保守的な会計監査業界のことですから、しばらくは自動仕訳のチェック係として、経理社員の需要は増えるかもしれません。

しかし、クラウド会計システムの精度が向上したあかつきには、かなりの経理社員が不要になるおそれがあります。不要になった経理社員は、AIのはじき出した財務数値を元に経営戦略を立案する、そんな社長の参謀役としてのスキルが必要になるのではないでしょうか。

会計監査人の仕事

・監査戦略策定

・AIロジックの検証

・直感力により、概括的に不正など異常点を検証

既に現在でも、会計監査人は企業がITで自動処理している部分は、ITの信頼性を検証し、有効性が確認できればITの自動処理を受け入れるという実務を行なっています。

AIによる自動仕訳もおそらくそうなるのではないでしょうか。

各会計処理のチェックについては、AI自動仕訳の精度がイマイチな段階では、従来と変わらないような、サンプリングによる試査を行うことが予想されます。

また、会計監査の流れは、現在のリスクアプローチによる試査から、日次的な精査監査に向かうと予想されます。

つまり、従来のリスクアプローチ試査のようなリスクの高い領域を評価特定し、その領域に対して重点的に監査を実施する手法から、監査人がクライアントの会計情報をいつでもクラウド上閲覧できるようになり、リスク項目が生じたら自動でアラートを鳴らしてくれるような仕組みに変わっていくのではないでしょうか。

今後の会計監査人は、AIロジックを検証できるような、プログラミングやシステムに精通した人財必要になる可能性があります。

さらには、会計監査人としての「直感力」は今にも増して、重要になると思います。

「直感力」とは、いわゆる勘のようなもので、自動で出来上がった財務諸表を概括的にレビューし、全体的な違和感がないかを気づく能力です。

クラウド会計が浸透していない現在においても、このような動物的な「勘」で会計不正や誤謬を発見できるような公認会計士が一流の監査人でありますが、自動化が進む未来においてこのような人間的な感覚を有する監査人はますます重要になることでしょう。

会計・税理士事務所の仕事

・尖った専門性を武器に従事

・高いコミュニケーション能力を武器に中小企業社長の相談役

会計人材の業務自動化で、一番割りを食うのはここの領域かもしれません。

国際税務やM&Aなどにおける複雑な税務スキームはともかく、一般的な街の税理士事務所、会計事務所がやっているような記帳代行、税務申告業務は確実に淘汰されます。

AIがサポートしてくれるのなら、会計事務所にわざわざ記帳代行をお願いする必要はなくなりますので、ただでさえ安い記帳代行・税務申告業務が、さらなる価格下落圧力がかかることは間違いないです。

街の会計、税理士事務所は尖った専門性を高めて付加価値で勝負する必要がでてくるのではないでしょうか。

例えば、補助金にやたら詳しい会計事務所、とか、事業承継に特化する、などでしょうか。中小企業の社長は意外と孤独ですので、そのような人の良き相談相手になることができるような、コミュニケーション能力を売りにするのも一つの道かもしれません。

今後の会計自動化の進化の流れは?

まだまだ、クラウド会計への流れは緒に就いたばかりであり、自動化といってもかなりの部分でマニュアルでの調整が必要です。

しかし、他のテクノロジーの進化に漏れず、会計の自動化領域の進化はかなりのスピード感で進んでいます。

その理由としては、以下の3つと私は考えます。

1 データの蓄積

会計データに関しては毎日莫大な会計データが蓄積されていきます。現在の資本主義社会の中心は企業活動であり、その活動の記録が会計ですので、毎日膨大な数の会計データが蓄積されます。

今回の記事で紹介した自動仕訳にしろ、月次監査機能にしろ、過去データの蓄積が増えれば増えるほど、その有用性は増していきます。

2 潜在的な需要が大きい

資本は利益が創出するプロジェクトへ流れるのが、資本主義社会の鉄則です。

もし、自動会計システムを導入することにより、会社のコストを減らすことができるのであれば、各企業は、このようなシステムを雪崩を打って採用するようになるでしょう。

クラウド会計の導入により、経理部の人材縮小、税理士や会計士などのコスト節約につながるのであれば、企業が採用しない理由はありません。

3 ITテクノロジーとの相性がよい

会計は数字であり、ロジックです。つまり、0、1の数学的配列とロジックの集積であるITテクノロジーとの相性が非常にいいと言えます。

財務・会計領域は、数ある専門分野の中で最もITに置き換えやすい分野のひとつではないでしょうか。

さいごに

ITテクノロジーは指数関数的に進化しており、AIを利用したクラウド会計システム想像を超えたスピードで発展していく可能性があります。

現在従事している仕事の大部分が自動化されることが見込まれる以上、本当に人間が時間とエネルギーを使って行うべき業務は何かを真剣に考え、それに向けて準備をするタイミングがきているのではないでしょうか。

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