シンガポールの不動産投資信託(シンガポールリート)は、5%を超える高い利回りと比較的堅調な値動きが特徴で、高配当を目的とする投資家が検討する投資カテゴリーです。
ところが、ここ数年のインフレとそれに起因する高金利の環境にあって、シンガポールリートの株価は下降トレンドを辿っています。
個別銘柄の中には、30%〜90%程度も暴落する銘柄もでてきています。
例えばシンガポール市場上場で米国の商業用不動産にメインで投資するManulife US REITは、一株あたり株価がコロナショック後の高値である21年11月の0.72ドルから、直近0.048ドルと、93%の下落となっています。
Manulife US REITの最近の株価下落の主な要因は、アメリカ商業用不動産の空室率の上昇及び高金利による不動産評価額の下落です。
また、シンガポールを代表するオフィスビルを複数運営するOUE Commercial REITは、一株あたり株価がコロナ後の最高値21年10月の0.46ドルから直近0.225ドルと、51%の下落となっています。
OUE Commercial REITの最近の株価下落の主な要因は明確ではありませんが、シンガポールでの負債資金調達コストの上昇及び保有不動産(ホテル)のリノベーション費用負担が影響していると思われます。
こちらの記事で最近のシンガポールリートの状況についてより詳細に考察しています。
5%を超える高配当が期待でき、比較的堅調な値動きをするシンガポールリートですが、2023年は株価が軟調な展開となっています。 下チャートは、シンガポール証券取引所(SGX)の公表している、シンガポール不動産投資信託の市場全体[…]
このように、シンガポールリートに逆風下の市場環境においては、個別の銘柄を選ぶのではなく、むしろ多くの銘柄に広く分散投資出来るインデックスETFを検討する方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、数あるシンガポール上場の不動産投資信託のうち、リート市場指数に連動したインデックスETFを3つ比較してみたいと思います。
シンガポールで投資を始める際に、有力な候補となるのがシンガポールの不動産投資信託、シンガポール・リート(Singapre REIT)ではないでしょうか。 現在の世界的な株式や債券の下落相場の中、私も投資をするにあたって色々検討したい[…]
インデックスETFとは
まず、インデックスETFとは何かについてですが、インデックスファンドとETFを合わせた投資商品です。
ETFとは上場投資信託(Exchange Traded Fund)の略で、株式市場において売買できる投資信託をさします。
インデックスファンドとは、株価指数などに代表される、インデックスの運用成績に連動する投資信託やETFをいいます。
そのため、シンガポールリートのインデックスETFといえば、シンガポールリート市場全体の動きを表す指標、例えばiEdge S-REITなどシンガポール証券取引所が公表している指標との価格連動を目指す、市場で売買できる投資信託となります。
執筆時現在、シンガポールリートのインデックスETFは、以下の3つがあります。
・NikkoAM – Straits Trading Asia Ex Japan REIT ETF
・CSOP iEdge S-Reit Leaders ETF
この内、
・Lion-Philip S-REIT ETF
・CSOP iEdge S-Reit Leaders ETF
については、日本でも楽天証券で取引できるようです。
それでは、各インデックスETFについてみていきたいと思います。
NikkoAM – Straits Trading Asia Ex Japan REIT ETF
NikkoAM – Straits Trading Asia Ex Japan REIT ETFの概要
NikkoAM – Straits Trading Asia Ex Japan REIT ETFの概要は以下のとおりとなります。
投資目的 (ベンチマーク) | FTSE EPRA Nareit Asia ex Japan REITS 10% Capped Index |
銘柄数 (23 年9月) | 不明 |
投資不動産の所在国 |
シンガポール 75% 香港 10% インド 5% その他 アジア 10% |
上場日 | 2017 年 3 月 29 日 |
総経費率 | 0.55% /年 |
ファンド規模(23年9月) | 3億8,461万SGD |
ファンドNAV (23 年9月) | 0.8306 SGD |
配当利回り (23年9月16日時点) | 6.05% |
配当頻度 | 四半期 |
NikkoAM – Straits Trading Asia Ex Japan REIT ETFの指数
NikkoAM – Straits Trading Asia Ex Japan REIT ETFは「FTSE EPRA Nareit Asia ex Japan REIT 10% Capped Index 」というインデックス指数への連動を目指します。
FTSE EPRA Nareit Asia ex Japan REIT 10% Capped Index は、以下のように定義されています。
●FTSE EPRA Nareit Asia ex Japan REIT 10% Capped Index
FTSE EPRA Nareit Asia ex Japan REIT 10% Capped Index (以下「指数」) は、上場不動産に関して最も広く使用されている世界的なベンチマークの 1 つである FTSE EPRA Nareit Global Real Estate Index Series から派生したものです。
この指数は、日本を除くアジア地域の先進国および新興国の構成銘柄を時価総額別にカバーする取引可能な指数であり、国際基準により REIT として認定され、一定の取引流動性の基準を通過する企業のみを含む選定プロセスを経ています。中国、香港、インド、インドネシア、マレーシア、パキスタン、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、タイの適格な REITS のパフォーマンスを表すように設計されています。
NikkoAM – Straits Trading Asia Ex Japan REIT ETFの運営会社
NikkoAM – Straits Trading Asia Ex Japan REIT ETFの運営会社は、Nikko Asset Managementです。会社HPでは、以下のように紹介されています。
Nikko Asset Management
世界11 の国と地域で事業を展開し、運用資産総額2,192億米ドルを誇る グローバルな資産管理会社です。850 人以上の専門家からなる当社のチームは、30 の国籍と13 の言語を話しています。企業としての私たちの使命は、世界中の顧客がどこにいても、信念の高いファンド管理を通じて革新的かつ進歩的なソリューションを提供することです。( 2023 年 6 月 30 日 現在)
NikkoAM – Straits Trading Asia Ex Japan REIT ETFのポートフォリオ
23年9月におけるファンドのポートフォリオは以下のとおり公表されています。
国別では、シンガポールが74.8%でマジョリティですが、香港13%、インド5.6%はじめ、韓国、マレーシア、フィリピンなどシンガポール以外のアジアリートも組み入れている点が特徴です。
セクター別では、Retail(小売施設)とIndustrial(産業用施設)を筆頭に、オフィスやホテル、データセンターなど多様性に富んでいます。
NikkoAM – Straits Trading Asia Ex Japan REIT ETFの利回り
NikkoAM – Straits Trading Asia Ex Japan REIT ETFの株価チャートは下記のとおりです。
期間ごとのパフォーマンスは以下のとおりで、直近1年は11.82%の下落となっています。
その他のファイナンス指標としては、23年9月17日時点で、配当利回り6.05%、株価収益率(PER)10.35倍となっています。
Lion-Phillip S-Reit ETF
Lion-Phillip S-Reit ETFの概要
Lion-Phillip S-Reit ETFの概要は以下のとおりとなります。
投資目的 (ベンチマーク) | Morningstar® Singapore REIT Yield Focus Index |
銘柄数 (23 年9月) | 22 |
投資不動産の所在国 |
シンガポール 100% (ただし間接的に国外も) |
上場日 | 2017 年 10 月 29 日 |
総経費率 | 0.6% /年 |
ファンド規模(23年9月) | 3億1750万SGD |
ファンドNAV (23 年9月) | 0.8670 SGD |
配当利回り (23年9月16日時点) | 6.50% |
配当頻度 | 半年 |
Lion-Phillip S-Reit ETFの指数
Lion-Phillip S-Reit ETFは、Morningstar® Singapore REIT Yield Focus Indexというインデックス数との連動を目指します。
Morningstar® Singapore REIT Yield Focus Indexは、以下のように定義されています。
● Morningstar® Singapore REIT Yield Focus Index
モーニングスター グローバル配当利回りフォーカス インデックス ファミリーを支える独自の要素を使用して、広範な質の高い収益戦略のパフォーマンスを追跡します。指数の構成銘柄は、モーニングスター シンガポール REIT 指数(ベンチマーク)の株式のサブセット
Lion-Phillip S-Reit ETFの運営会社
Lion-Phillip S-Reit ETFの運営会社はLion Global Investorsです。会社HPでは、以下のとおり紹介されています。
Lion Global Investors
1986 年にシンガポールで設立されたライオン グローバル インベスターズは、シンガポールとマレーシアで最も古く、最も確立された生命保険グループであるグレート イースタン ホールディングスの一員です。当社は、シンガポールで資産規模で第 2 位の金融サービス グループである OCBC グループのメンバーでもあります。ライオン グローバル インベスターズは、地元の強力な家系と伝統に支えられ、グループのリソースとつながりを活用する能力と相まって、クラス最高のアジア中心のソリューションを投資家に提供できる独自の立場にあります。グレート イースタンおよび OCBC とのパートナーシップは、依然として当社の回復力と安定性の基盤となっています。当社はグループとして、顧客の資産を長期的に管理し、世代を超えて顧客の富が増大するよう支援するという理念を受け入れています。
2023年6月30日現在、当社の運用資産(AUM)は688億シンガポールドル(508億米ドル)となっています。
Lion-Phillip S-Reit ETFのポートフォリオ
23年9月におけるファンドのポートフォリオは以下のとおり公表されています。
セクター別では産業施設(Industrial)が40%で最大、小売(Retail)21%、オフィス12.5%と続きますが、Nikko AMと同様、各セクターにまんべんなく投資することができます。
国別では、シンガポールリート100%となります。
Lion-Phillip S-Reit ETFの利回り
NikkoAM – Straits Trading Asia Ex Japan REIT ETFの株価チャートは下記のとおりです。
期間ごとのパフォーマンスは以下のとおりで、直近1年の下落が大きいです。
その他のファイナンス指標としては、23年9月17日時点で、配当利回り5.81%、株価収益率(PER)-倍となっています。
CSOP iEdge S-Reit Leaders ETF
CSOP iEdge S-Reit Leaders ETFの概要
CSOP iEdge S-Reit Leaders ETFの概要は以下のとおりとなります。
投資目的 (ベンチマーク) | iEdge S-REIT Leaders Index |
銘柄数 (23 年9月) | 25 |
投資不動産の所在国 |
シンガポール 100% (ただし間接的に国外も) |
上場日 | 2021 年 11 月 18 日 |
総経費率 | 0.6% /年 (最大0.8%) |
ファンド規模(23年9月) | 72百万SGD |
ファンドNAV (23 年9月) | 0.83 SGD |
配当利回り (23年9月16日時点) | 5.66% |
配当頻度 | 半年 |
SOP iEdge S-Reit Leaders ETFの指数
CSOP iEdge S-Reit Leaders ETFは、iEdge S-REIT Leaders Index というインデックス指数との連動を目指します。
iEdge S-REIT Leaders Indexは、以下のとおり定義されています。
● iEdge S-REIT Leaders Index
iEdge S-REIT Leaders Index は、シンガポールで最も資本が大きく活発に取引されている REIT のパフォーマンス ベンチマークを提供します。この指数は2020年9月に再発売され、先物契約の開始を含むS-REIT市場の商品化のための基礎市場を形成しました。この指数は、より広範な 35 構成要素からなる iEdge S-REIT 指数のうち、最も活発に取引されている 25 の構成要素で構成されています。これは、これまでの 2023 年において、iEdge S-REIT 指数の売買高の 98% が、iEdge S-REIT リーダーズ指数の構成銘柄 25 銘柄によって提供されたことを意味します。
CSOP iEdge S-Reit Leaders ETFの運営会社
CSOP iEdge S-Reit Leaders ETFはCSOP Asset Management Limitedです。会社HPでは、以下のとおり紹介されています。
CSOP Asset Management Limited
2008 年、CSOP アセット マネジメント リミテッド (「CSOP」) が香港に設立され、規制対象の中国の資産運用会社によって設立された初のオフショア事業体となりました。中国の玄関口として 10 年以上の発展を経て、CSOP は現在その事業をシンガポールに拡大し、中国への投資をシンガポールとその地域の投資家に近づけています。
リーダーシップ
CSOPは市場最大の人民元適格機関投資家(「RQFII」)運用会社であり、2019年6月末時点で461億人民元という最大の付与枠を保有している。さらに、CSOPはアジア市場のETFリーダーでもあり、革新的な投資信託で知られる。多様なカテゴリーの大型ETF商品。
香港、シンガポール、中国本土に拠点を置く70名以上の専門家を擁し、2019年6月30日時点で58億米ドル以上を運用するCSOPは、RQFII商品におけるリーダーシップを確固たるものとし、主要なETFプロバイダーの1つとして支配的な地位を維持しています。香港で。CSOP の中核となる ETF ビジネスに加えて、CSOP の積極的な投資能力は、当社の幅広いアクティブ ソリューションにも反映されています。
CSOP iEdge S-Reit Leaders ETFのポートフォリオ
23年9月におけるファンドのポートフォリオは以下のとおり公表されています。
国別では、シンガポールリート100%となります。
CSOP iEdge S-Reit Leaders ETFの利回り
CSOP iEdge S-Reit Leaders ETFの株価チャートは下記のとおりです。
ファンドの上場から2年程度しか経っていませんが、直近1年のパフォーマンスが良くないため、上場来のパフォーマンスは-9.81%となっています。
その他のファイナンス指標としては、23年9月17日時点で、配当利回り5.66%、株価収益率(PER)10.18倍となっています。
3つのシンガポールリート・インデックスETFの比較
それでは、上記の3つのインデックスETFはどのような違いがあるのでしょうか。
あらためて、3つのシンガポールリート・インデックスETFの概要は以下の表のとおりです。
NikkoAM – Straits Trading Asia Ex Japan REIT ETF | Lion-Phillip S-Reit ETF | CSOP iEdge S-Reit Leaders ETF | |
投資目的 (ベンチマーク) | FTSE EPRA Nareit Asia ex Japan REITS 10% Capped Index | Morningstar® Singapore REIT Yield Focus Index | iEdge S-REIT Leaders Index |
銘柄数 (23 年9月) | 不明 | 22 | 25 |
投資不動産の所在国 |
シンガポール 75% 香港 10% インド 5% その他 アジア 10% |
シンガポール 100% (ただし間接的に国外も) |
シンガポール 100% (ただし間接的に国外も) |
上場日 | 2017 年 3 月 29 日 | 2017 年 10 月 29 日 | 2021 年 11 月 18 日 |
総経費率 | 0.55% /年 | 0.6% /年 |
0.6% /年 (最大0.8%) |
ファンド規模 (23年9月) | 3億8,461万SGD | 3億1750万SGD | 72百万SGD |
ファンドNAV (23 年9月) | 0.8306 SGD | 0.8670 SGD | 0.83 SGD |
配当利回り (23年9月16日) | 6.05% | 6.50% | 5.66% |
配当頻度 | 四半期 | 半年 | 半年 |
Nikko AM、Lion-philipがほぼ同時期に上場しており、ファンド規模も3億数千万SGDと、Nikko AMが多少サイズが大きいものの同水準の規模感となっています。
一方のCSOPは、21年11月上場と比較的新しいシンガポールリート・インデックスETFであり、ファンド規模も小さくまだ1億SGDに到達していません。
直近の配当利回りはNikko AM、Lion-philipが6%を超えている一方、CSOPは5.66%と多少見劣りするものとなっています。
配当頻度については、Lion-philip、CSOPが半年に一度であるのに対し、Nikko AMは四半期に一度となっており、インカムゲインを期待する投資家にはプラスかもしれません。
各インデックスリートの組入比率について、比較表にすると次のとおりとなります。
各インデックスREITの組入比率 (%) | Nikko AM | Lion Philip | CSOP |
Capitaland Ascendas REIT | 10.5 | 9.5 | 10.6 |
Mapletree Logistics REIT | 7.1 | 9.2 | 10.5 |
Capitaland Integrated Commercial REIT | 10.3 | 9.3 | 10.3 |
Mapletree Industrial REIT | 5.5 | 8.5 | 9.7 |
Mapletree Pan Asia Commercial REIT | 4.8 | 5.7 | 9.2 |
Frasers Logistics REIT | 4.4 | 8.6 | 8.5 |
Keppel DC REIT | 3.6 | 8.7 | 6.3 |
Suntec REIT | 3.5 | 7.3 | 5.6 |
Keppel REIT | トップ10圏外 | 4.9 | 5.3 |
Frasers Centerpoint REIT | トップ10圏外 | 8.1 | 4.7 |
Link Real Estate | 9 | 組入なし | 組入なし |
Embassy office park REIT | 3.9 | 組入なし | 組入なし |
Top10 合計 | 62.6 | 79.8 | 80.7 |
興味深いことに、多少の組入比率の誤差はあるものの、Lion PhipとCSOPの組入銘柄のトップ10は同じ銘柄で、各ETFとも全体の80%を占めています。
Nikko AMは、トップ10に香港最大のリートであるLink Real Estateが9%、インド初のリートであるEmbassy office park REITが3.9%組入られており、トップ10合計でも全体の62%と割合が低く、より多様な銘柄へ分散投資されていることが見て取れます。
さいごに投資対象国ですが、Lion-philip、CSOPがシンガポールリート100%の組入であるのに対して、Nikko AMはシンガポール以外に25 %程度が香港やインドなど他のアジア国リートを組み入れられています。
ただし、Lion-philip、CSOPがシンガポールリート100%といっても、そのシンガポールリートの構成する不動産はシンガポールだけとは限らない点注意が必要です。
たとえば、Lion-philip、CSOPのどちらでも組入比率が10%超で最大のCapitaland Ascendas REITは、投資資産面積比でシンガポール62%、米国12%、オーストラリア 15%、欧州11%となっています。
そのため、Lion-philip、CSOPへの投資でも、シンガポールリートへの投資を通じて間接的にシンガポール以外の国に所在する不動産へ投資することになります。
さいごに
以上、シンガポールリートのインデックスリート3つを比較してみました。
個別のリートに投資するのではなく、より安全なインデックスETFに投資する方の検討の手助けになれば幸いです。