【シンガポール・リート】投資の注意点。23年は4重苦のリスクか?

5%を超える高配当が期待でき、比較的堅調な値動きをするシンガポールリートですが、2023年は株価が軟調な展開となっています。

下チャートは、シンガポール証券取引所(SGX)の公表している、シンガポール不動産投資信託の市場全体のインデックス(iEdge S-REIT Index)です。

(Source: SGX HP iEdge S-REIT Index 23年9月17日時点)

2020年3月のコロナ暴落から回復したものの、2021年8月ごろから下降トレンドを辿っていることが見て取れます。

執筆時現在のシンガポール・リートは向かい風となっており、4重苦とも言える状況。

4重苦とは、具体的に以下の4つの問題。

1.インフレによる運営費増
2.高金利による財務コスト増
3.ギアリング比率の上昇
4.空室リスク

当記事では、シンガポールリートの直面する4つの問題について俯瞰したいと思います。

シンガポールリートの概要については、以下の記事をご参照ください。

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1. インフレによる運営費増

まずひとつ目の逆風は、シンガポールで高止まりするインフレです。

(Source: MAS Recent Economic Development 23 2Q)

シンガポールの23年第2四半期のコアインフレ率は前年比4.6%と、22年前半の7%からは落ち着いたものの、依然高いインフレ率となっています。

リートの運営において、水道光熱費や人件費を支払う必要があるので、インフレによる影響を受けてコスト増となります。

一方のリートの収入は、各不動産からの賃貸収入ですが、こちらは通常2〜3年の複数年契約となっており、インフレが急ピッチで進む状況では、賃料の値上げが追いつかず「収入は一定、コストは増額」の状況となりリートの業績にネガティブに影響します。

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2. 高金利によるファイナンスコスト増

次に、高インフレと相関してリートに問題となるリスクは、高止まりする金利です。

シンガポールの金利水準は、2023年7月時点での国債金利は4.09%と高い水準となっています。

シンガポールは名目実効為替レートを調整することを金融政策としており、一般的な先進国のように直接的に政策金利のターゲット目標を決めません。

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そのため、シンガポールの金利水準は米国金利に影響を大きく受けることになり、米国金利の高止まりを背景にシンガポール金利も高くなっています。

リートの事業構造は、外部から借入金を調達して不動産に投資し、その収益から借入金の利息を控除して残余利益を投資家に分配するというものですから、金利の上昇は借入コストの上昇を意味し、投資家に分配する利益の減少につながります。

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3.ギアリング比率の上昇

金利が高まる状況においては、ギアリング比率に注意を払う必要があります。

ギアリング比率とは、「リートの負債÷リートの資産」の比率であり、リート資産に対する外部負債の割合を示す比率です。

シンガポールで税制優遇など受けられる適格リートと認められるには、ギアリング比率が50%を下回る必要があります。リート運営者は、資産に対して負債が過度に大きくならないようにファイナンスに留意します。

一方で、ギアリング比率の分母である「リート資産」のバリュエーションは、簡単に説明するとリート資産が将来もたらす将来キャッシュ・フローを期待収益率で割り引いた現在価値の総額として算定されます。

そして、期待利回りの構成要素として金利が用いられており、金利の上昇により期待収益率は上昇し、現在価値が小さくなることでリート資産の評価額は低下します。

つまり、金利上昇局面においてはリート資産の価値下落により、負債の占める割合の上昇≒ギアリング比率の上昇となり、50%を超えるような水準となる場合は、資産のたたき売りなど資産のリストラクチャリングが必要になります。

実際、シンガポール上場のリートで米国の商業用不動産に投資するManulife US REIT などは、資産評価額下落によるギアリング比率の上昇を嫌気して、リートの一口あたり株価は2020年1月の高値1.06ドルから直近0.048ドルまで95%の下落となっています。

(Source: Yahoo finance 23年9月17日時点

リート投資においては、各銘柄のギアリング比率について常に注意しなければなりません。

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4.空室リスク

最後に、リートの空室リスクを考慮する必要があります。

たとえば、オフィスなど商業用不動産については、コロナ禍を経てリモートワークが一般化し、多くの企業は従業員がオフィスにもどってきてはいるものの、一部企業ではリモートワークが定着しています。

このような状況から、オフィスを縮小する企業が相次いでおり、商業用不動産向けのリートなどでは、空室率の上昇がリスク視されています。

幸い、国土の狭いシンガポールではオフィス出社の負担がそんなに重くないためか、リモートワークから通常の出社に戻る企業が多いようです。

シンガポール不動産の空室率は、コロナ後の緩やかな悪化から23年には改善に向かっており、コロナ前と比較して大きな悪化は見られません。

(Source: JTC 2023 2H Quarterly Market Report)

空室はリート収入の直接的な減少につながるため、今後留意していく必要があります。

さいごに

今回紹介した4つのリスクは、主にインフレ率上昇、金利上昇に起因するものです。

インフレ・高金利環境が反転すれば、リートにとって追い風になる可能性があります。

そのような視点をもって、今後もシンガポールリートをウォッチしていきたいと思います。

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