【シンガポール・リート銘柄】Ascendas India Trustについて考察。

シンガポールREIT(不動産投資信託)は、高い配当利回り比較的堅調な値動きが特徴でおすすめです。

特にシンガポール在住者は、売却益や配当金が非課税のため、高い投資リターンを期待でき、投資を検討する方も多いのではないでしょうか。

シンガポールリートの種類、メリットやリスク、リートの選び方については以下の記事にて解説しています。

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当記事では、インドに特化したリートのひとつASCENDAS INDIA Trust (SGX:CY6U)について紹介したいと思います。

Ascendas India Trust (SGX:CY6U)は2007年より運用されるインドの事業用不動産に投資するビジネス・トラストであり、アジアにおける最初のインド不動産信託です。

Ascendas India Trustの投資先は、2022年1Qの報告時点においてインドのITパーク、ロジスティック施設及びデータセンターとなっています。

Ascendas India Trust は、その名が示すとおり厳密にはシンガポール・リートではなくビジネス・トラスト(事業信託)ですが、たとえば、配当政策として少なくとも分配可能利益の90%を配当することを明記するなど、自主的にシンガポール・リートの規制に準拠しています。

Ascendas India Trustの株価推移は以下のとおりとなります。

それでは、以前の記事で紹介した「シンガポール・リートを選ぶ際のポイント」8項目に沿ってそれぞれ分析していきたいと思います。

1. 物件のポートフォリオ

リートがどのような不動産を保有するか、Ascendas India Trustの物件ポートフォリオについて確認してみましょう。

Ascendas India Trustは、2022年1Q時点でインドの主要都市であるバンガロール、チェンナイ、ハイデラバード、プネー、ムンバイのITパークにおいて計38棟のビル及び7箇所の倉庫施設を保有します。

テナントの業種別では、IT産業の成長著しいインドを象徴するように、IT業界が大半を占めます。

(Source: 1H FY2022 Results Presentation)

保有面積は2007年の設立以来、右肩上がりで増加しており、インドの成長に伴いAscendas India Trustも拡大していることがみてとれます。

(Source:1H FY2022 Results Presentation)

2. スポンサー

スポンサーとは、リートの資産を運用する会社(資産運用会社)の大株主です。

Ascendas India Trustのスポンサーは、Ascendas Land International Pte Ltdです。

Ascendasはシンガポールを代表するアジア最大級の不動産会社CapitaLandのグループで、その上にはシンガポール国営ファンド、テマセクHDとなっていますので信頼できるスポンサーといえます。

3.  一口当たり分配金(DPU)と配当利回り

2022年のAscendas India Trustの年間一口あたり分配金(DPU)は0.0788ドル、株価は1.16となっていますので、直近の年間配当利回りは7%程度となっています。

最近2年の推移では5.7% 〜8.1%程度となっており、5%程度の高利回り銘柄が多いシンガポール・リートの中でも、魅力的な配当利回りではないでしょうか。

(Source: Investing.com)

なお、以下は、一口あたり分配金(DPU)と為替レートインデックス(インド・ルピー対シンガポールドル)の推移ですが、この図によると2007年の設立以来、インドルピー安が一貫して進んでいることが見て取れます。

一方、それにもかかわらずシンガポールドル建てのDPUが増加傾向にあるのは、インドルピーベースのTrust収益が順調に増加しているためと推測されます。

(Source:1H FY2022 Results Presentation)

4. テナントの状況

Ascendas India Trustの直近のテナント状況は以下のとおりです。

(Source:1H FY2022 Results Presentation)

上位10社で44%を専有しており、その内訳は世界を代表するテック企業であるインドのTata Consultancyやアマゾン、メーカーのルノー日産やアプライド・マテリアルなどが並びます。

入居率 (Occupancy rate)

2022年1Q時点において、 Ascendas India Trustの入居率は90%と報告されており、2021年12月の87%より上昇しています。

報告書によると、関連する地域の市場平均より概ね上回っており、良好な入居率といえそうです。

(Source:1H FY2022 Results Presentation)

加重平均リース満了期間 (Weighted Average Lease Expiry)

Ascendas India Trust の2022年度1Qにおける加重平均リース満了期間は3.7年です。通常、事業の賃貸契約は3年〜で、3年を下回ると現状のテナント契約を更新できていないと考えられ、リートの将来の収益性の低下につながります。

加重平均リース期間は5年超が望ましく、3.7年は少し短期といえそうです。

ただし、報告書には、2022年に期限を迎えるリース(全体の12%)のうち84%が高い確率で契約更新されると記載されています。

(Source:1H FY2022 Results Presentation)

5. ギアリング比率

リートのギアリング比率とは、「リートの負債/ リート資産」の比率であり、リート資産の取得に対する外部負債の割合を表すものです。Average leverage (平均レバレッジ)とも呼ばれます。

(Source:1H FY2022 Results Presentation)

2022年1Q におけるAscendas India Trustのギアリング比率は35%です。シンガポール金融庁(MAS)によるギアリグ比率規制の50%を大きく下回り、健全な水準と言えます。

また、Ascendas India Trustは、負債総額に対する固定金利負債の割合を79%と報告しており、利上げの影響は大きく受けない底堅い財務体質を有しているといえそうです。

一方、シンガポールドル建ての負債比率が38%、インドルピー建ての負債比率が62%であり、インドルピーの為替変動の影響で利払額に影響がでそうです。

さらに気になるのは、負債資本比率(Total Debt to Equity)比率が84.84%に達している点です。これは資本に対する負債の割合を示す指標で、値が高いほど多くの借入を行っていることを表します。

短期的な負債返済に対する安全性を示す指標である流動比率(Current Ratio)も0.71と1を下回っています。

流動比率は「流動資産÷流動負債」で計算され、1を上回っていれば現預金や売掛金など短期的な資産で短期負債を返済できることを表します。

一方1を下回る場合は、短期資産で短期負債を返済できないため財務安全性に懸念があることを示します。

6. 財務コスト

リートの財務コストは主に物件取得の借入金に対する支払利息です。財務コストについてはインテレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)で確認することができます。ICRとは、「収益/支払利息」で算定することができ、数値が高いほど財務コストが低く安全性が高いことを示します。

Ascendas India Trust の2022年度1QにおけるICRは3.4倍です。

シンガポールのメガバンクDBS銀行の2022年3月の記事によると、シンガポール・リートの平均ICRは4.9倍程度と報告されており、平均的なシンガポールリートより財務的な安全性が低いといえます。

金利コスト1%の上昇で、一口当たり分配金(DPU)は△2.2%の減少と予測する記事もあり、今後の借入金利の推移に留意が必要です。

7. 株価純資産倍率 (PBR)

株価純資産倍率(Price Book-value Ratio: PBR)は、REIT株価(一口当たり投資額)を一口当たりの純資産価値(Net Asset Value: NAV)で割った値です。

PBRが1より大きい場合は、REITが純資産額に比べて大きく評価されている一方、1を下回る場合は評価が低いことを示します。

(Source: Investing.com)

執筆時現在のAscendas India TrustのPBRは0.95で、Industry平均0.71より高い数値ですが、割安水準です。

執筆時時点における他のシンガポールREITのIndustry平均は1を超えており、Ascendas India TrustはシンガポールREITとは別のIndustryとして区分されているのかもしれません。

8.成長戦略

最後に、Ascendas India TrustのDPUが今後も増加していく可能性があるか、Ascendas India Trustの成長戦略について確認したいと思います。

Ascendas India Trustの事業資産規模は、設立以来年率10%で拡大しており、順調に成長しています。

(Source:1H FY2022 Results Presentation)

今後の成長戦略としては、引き続きインド主要ビジネス都市のITパーク、物流施設、データセンターへの拡大を予定しています。

(Source:1H FY2022 Results Presentation)

さいごに

インドは、人口数で2027年に中国を抜き世界1位となることが予想されています。また、平均年齢の中央地が28.4歳と中国より10歳以上若く、豊富な生産人口を抱えます。ITビジネスでも潜在性が高く、中国の次はインドが大国として台頭するという点は多くの人が考えるところです。

足元では、金利上昇局面での財務コストの増加インドルピー安によるシンガポールドル建てのDPU下落への懸念などから、株価は軟調となっていますが、PER7.1倍、想定利回りは6.5%程度とかなり割安になっています。

このようなことから、潜在性の高いインドのITパークに集中的に投資をするAscendas India Trustは、中長期的に魅力的な投資対象ではないでしょうか。


 なお当記事は、投資を推奨するものではなく、あくまでも参考情報として提供するものです。投資は自己責任となりますので、何卒よろしくお願い致します。

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