【アセアン事業戦略】中国のアセアン進出の現状と、日本はいかにアセアンで成功を収めることができるか?

アセアン各国における中国のプレゼンスは凄まじい勢いで増大しています。

私の在住するシンガポールでも、以前は日本企業の独壇場であった家電売り場に中国製品が溢れ、建設現場でも中国企業の看板が目立ちます。

アセアンで一体何が起きているか、それを明快に解説してくれる本が「チャイナ・アセアンの衝撃」です。

2021年2月に出版された本書は、戦略コンサルティング会社のデロイト・トーマツコンサルティングのディレクター邉見伸弘氏による著書。

さすがコンサルタントということで、豊富なエビデンス分析資料を元に説得力ある主張が展開されています。

他国の経済の様子は、現地にいないとなかなかわからないものですが、本書を読めばかなり詳細に掴むことができます。

当記事では、本書の主張を簡潔に紹介、中国のアセアン進出に対し、日本がいかに成功を収める事ができるか論考したいと思います。

関連記事

アジアにおける日本のプレゼンス低下に歯止めがかかりません。 2010年に中国のGDPが日本を超え、2020年には一人あたりGDP(購買力平価換算)が韓国に抜かれてしまいました。 東南アジア諸国の経済も急速に発展しており、今まで[…]

中国・アセアン地域の連携の現状

今、アセアンでは中国経済の膨張によりASEAN経済がのみこまれつつあり「大中華経済圏」とでもいうものがアジアに出現しています。

コロナ後においても、中国とASEANの結びつきはさらに強く、強まっていくと予想されます。

米国を中心とした西側自由主義諸国の包囲網により中国は追い詰められていると考える向きもありますが、著者は、「米中対立が進むほど、中国とASEANは近接してしまう」と考えます。

それは、米中の対立は自由主義と共産主義というイデオロギーの対立であるものの、そもそもASEAN諸国の多くは自由民主主義国家ではないため、民主主義陣営として中国に対応するよりかは、中国経済との共存共栄をめざすほうが合理的だからです。

一方、急激に影響力が大きくなる中国に対する警戒感から、ASEAN諸国は日本に対してバランサーとしての役割を期待しているという統計データが掲載されています。

「中国ーASEAN」の関係にうまく乗り、競争環境に勝ち残ることができるかが、日本企業の将来を左右すると筆者は主張します。

それでは、日本企業はいかにこの状況に対応するべきでしょうか。

日本企業がASEAN市場で成功するための視点

まず前提として、問題は日本企業が、「自分たちが変化を知らないことを知らない」と警鐘を鳴らします。

たしかに、日本人一般として、アジアの状況は急激に変化しているにも関わらず、アジアへの認識は、まだ日本がASEANをリードしていた10年以上前のままとなっている人も多い印象を私個人も感じます。

海外進出している多くの企業(の日本本社)は、たくさんのデータや情報を集めてASEANをわかった気になっているような気がします。しかし、実際のASEANの勢いは、実際にその現地国に居住して肌で感じなければわかりません。

筆者は、現在の「日本企業の経済敗戦は、情報戦の問題であり、現状認識の欠如こそ、マイナス要因として大きいのではないか」と主張しています。

そのうえで、次の3点を意識することを勧めています。

1.楽観的な思い込みを捨てること

これは、心構え的なものになりますが、「ASEANは日本の友好地域である」という楽観を捨て、数ある交流国の1つにすぎないこと、むしろASEANは中国寄りになっていることを意識しなければなりません。

対ASEANに対する中国の取り組み、入り込みは凄まじく、本書でも数多くの具体例が紹介されています。

製品販売についても、良い製品やサービスをASEANに持っていけば買ってくれるという考え方を改めて、各国の市場に即した効果的なマーケティングを実施していかなければなりません。

2.新興国参入という視点からの脱皮

日本企業がASEAN市場で成功するための視点2つ目として、著者は「新興国参入という視点からの脱皮」をあげます。

ASEANの多くは既に新興国とはいえず、技術やサービスについて日本企業より進んでいるというケースもではじめています。日本企業がASEAN企業から学ばなければならないことも多くなってきているのではないでしょうか。

また、「所得」という観点からも、ASEANの人々は日本人よりも豊かになりつつあります。

例えば本書で紹介されていた例が「ジャカルタの中心部」の一人あたりGDP

ジャカルタ中心部は92万人規模ですが、その一人あたりGDPは既に5万ドルであり、に大阪を超えているといいます。さらに、保守的に試算しても、2030年には12万ドルを超え、シンガポールと並んで10万ドル市場が誕生していく見込みであると筆者は予測します。そのころの東京は6万ドル弱と推定されており、ASEANの繁栄と日本の没落はかなり進むことが予想されています。

中国についてはいわずもがな、すでに多くの中国人が日本人よりも裕福になっています。

このことから考えると、中国やASEANを従前のとおり生産や輸出の拠点として捉える考え方はもはや通用せず、販売市場として考えなければなりません。

3.(国単位ではなく)都市群でモノを見るということ

3つ目は、「都市群でモノを見る」ということ。

中国は10億人からなる大市場であり、またASEANというくくりでは大きすぎるため、都市レベルまで分解し、どの都市において挑戦するかを決定しなければなりません。

著者は本書で、「どの都市群にどのスペシャリティを持って臨み、挑戦し、攻勢をかけていくか。旬を見極めた判断が求められる。日本の活路はそこにある」と説明します。

日本には人口1000万人以上の巨大都市群が東京圏と近畿圏の2つしかりませんが、中国は現在で既に15都市、2030年には30都市群になると予測しています。また、ASEANでも現在2つ(インドネシアのジャカルタ、フィリピンのマニラ)、そして2030年には5つとなる想定です。

本書では、この大都市が競争ではなく相互補完的な関係となっていることを多くの事例で紹介しています。都市間の競争、相互補完関係を見極める、都市を点から面で捉え直すことが、今後日本企業がアジアで勝負する際に重要となってきます。

なお、ここでシンガポールの都市輸出モデルが一例として挙げられていました。

シンガポールのような都市国家では、輸出刷るような資源も十分な製品もない一方で、都市モデルというソフトを輸出することに成功しています。

都市モデルは、形だけ真似てもうまく行かず、全体としてのエコシステムの確率が必要です。著者は、シンガポールの都市輸出モデルのエッセンスは、「都市デザイン・オペレーションとファイナスをパックにした」ことにあるといいます。

ただし、成功した都市モデルを国家的な商品とするその宿命として、シンガポールは自国を常に最先端にアップデートし、先頭を走り続ける必要があります。

シンガポールで事業を行う日本企業や日本人個人は、「シンガポールが常に最先端を走り続けなければならないという宿命を背負っている」ことを念頭にビジネスを考えると良いかもしれません。

関連記事

本記事では、シンガポールの強さの秘密と日系企業の事業戦略について、書籍「イノベーション大国―次世代への布石」から紹介したいと思います。 「イノベーション大国―次世代への布石」は2017年に日系BP総合研究所から出版されたビジネス書で、 […]

 

中国―ASEAN経済で日本が成功するために必要なことは?

さいごに、本書で紹介されている「中国-ASEAN経済」で日本が成功するために必要なことについて簡単に紹介したいと思います。

1.鳥の目、魚の眼、虫の目

こちらは著者のオリジナルな考え方かと思いますが、「鳥の目」「魚の眼」「虫の目」をもつことが重要と主張します。

「鳥の目」とは、国を超えて事業産業全体を見る視点です。先述のとおり、中国-ASEANでは、国家単位というよりかは、都市間の連携など、国を超えた視点が必要になります。鳥瞰的に全体を理解する力が必要になります。

2つ目は、時代の流れを見る「魚の眼」。魚眼は複眼であり、一つの事象に対して多様な視点から見ることができます。

価値感や目的などの関係性に着目し、都市群をグルーピングして様々な観点から中国・ASEANをみることが必要です。

最後に、「虫の目」。これは、ミクロな視点で現地の課題やその理由など、「現地の文脈(コンテクスト)」を把握する力です。

海外で成功するには、現地の文脈に合わせたローカライズが必要ですが、そのためにはこの「虫の目」を持って現地を観察する必要があります。

本書では、1章をとって具体例を交えてかなり詳細に解説されています。

2.華僑に学ぶ

「中国-ASEAN経済」で日本が成功するために必要なこととして、「華僑に学ぶ」ことを挙げています。

華僑とは、中国本土から海外に移住した中華民族及びその子孫を言います。

貧しい中国を抜け出して、海外の見知らぬ土地に移住し、無一文から努力と才覚で経済を実質的に支配するまでになった華僑から学ぶことは多々あることは間違いありません。

著者は、華僑が成功した秘訣は、

「情報力」☓「意思決定力」☓「スペシャリティ」

にあると主張します。

こちらも本書で1章を割いて詳細に説明されているため、そちらをご参照ください。

ちなみに個人的な見解としては、文化的に中国に近しい国も多いASEAN各国で、その国家創成期から根を張り続けている華僑企業を、今から日本企業が真似することは難しいのでは、とは思います。

それでも、本書で指摘するような「情報力」☓「意思決定力」☓「スペシャリティ」は必須で、華僑企業から学ぶことは多いはず。

なお、当ブログでも以前「華僑の成功した理由」を取り上げましたが、そこでは

1.勤勉性
2.ネットワーク力

をあげました。ビジネスとはいえ、最後は人同士が行うもの。究極的には、人と人の信頼関係、ネットワーク力が大事であると考えます。

関連記事

東南アジアでビジネスを行うための成功の秘訣はなんだろう? これは、東南アジアで事業を行うすべての日本人が気になる点かと思います。 今回は、「日本人が誤解している東南アジア近現代史」を参考に、東南アジアで事業を成功させるために意識しなければ[…]

 

さいごに

中国経済の膨張とASEAN諸国との結びつきの強化、アジア都市間競争の激化。2020年代のアジアにおいて日本企業を待ち受けるハードルは低くはなさそうです。

本書での一貫した主張は「情報の重要性」だと思います。

ASEANの現状を理解し、適切な企業戦略を立てるためにも、豊富な事例と分析を盛り込んだ情報が満載の本書は必読の書であると感じました。

最新情報をチェックしよう!