東南アジアでビジネスを行うための成功の秘訣はなんだろう?
これは、東南アジアで事業を行うすべての日本人が気になる点かと思います。
今回は、「日本人が誤解している東南アジア近現代史」を参考に、東南アジアで事業を成功させるために意識しなければならない心構えについて探っていきたいと思います。
「日本人が誤解している東南アジア近現代史」の著者である川島博之氏は、開発経済学者であり、以前は東京大学で准教授の職にあった研究者。現在はベトナムのビングループ主席経済顧問などに就いており、学問、実務の両面から東南アジアに精通した方です。
本書は、東南アジア各国の近現代史を概略し、特に日本人が誤解している点について解説しています。
東南アジアの歴史的文脈を理解し、アジア各国で事業をする際に正しい振る舞い、正しい事業戦略の立案する上で知っておかなければならない点について探ってみたいと思います。
その国の歴史を知ること
まず筆者が強調するのは、「歴史に学ぶ謙虚さ」。
本書では、ベトナム戦争で米国が破れた事例を取り上げています。
ベトナム戦争時に国務長官だったロバート・マクナマラは、ハーバード大学でMBAを取得し、自動車会社のフォードのCEOとして、同社を立て直した天才経営者でした。国務長官のあとは世界銀行の総裁にも就任しており、当代きっての知性であったといえます。
それにも関わらず、なぜこのような天才的な国務長官が主導するベトナム戦争において、米国は後塵を拝す事になったのでしょうか。
著者は、
MBAに代表されるお金儲けの技術だけでは東南アジアビジネスを成功させることはできない。歴史に学ぶ謙虚さが必要になる。
といいます。ロバート・マクナマラはじめとする米国関係者は、その隔絶した国力を背景に、ろくにベトナムの研究をすることなく、戦争に突入していきました。
もともとベトナムは千年の歴史にわたって、中国からの侵略を跳ね返していた独立心あふれる国民性です。19世紀後半からはフランスの植民地となっていたものの、1945年に独立を勝ち取っていました。
このような「抵抗の精神」をDNAに刻んだベトナムの侵略は容易ではないことは自明でしたが、アメリカは安易に戦争へと突入してしまった、著者はそう分析します。
日本との関連では、やはり第2次世界大戦の記憶は避けて通れません。
以下本文より抜粋。
第2次世界大戦以降の日本と東南アジアの関係史を網羅している。日本ではほとんど忘れられているが、アジアの各国では未だ記憶の底にとどめていることを忘れてはならない。〜
あの戦争(第2次世界大戦)でも日本は東南アジアで失敗を繰り返した。どうも日本人は東南アジアに関わることが苦手なようだ。その第一の原因は、東南アジアを未開の先住民が住むところとして、心の底でバカにしているからだろう。日本人はヨーロッパやアメリカまた中国については、それなりに研究して情報を集めるが、東南アジアとなると情報の収集を怠る。それが失敗の本質だと思う。この本を書こうと思った理由でもある。
戦時中の占領初期に、日本軍はシンガポールに住む数千人の華僑を虐殺しています。この点については、以下のとおり警告します。
華僑は商売人であるから、過去の事件を蒸し返すことはない。ただ、何かの時に話題になったら、この事件について正確な知識を語る必要がある。そうすれば相手はあなたに好感を持つことになろう。何も知らないと答えても華僑が怒ることはないが、心中で馬鹿にされると思う。そうなれば、ビジネスに差し支えるだろう。
東南アジアでビジネスを行うには、多くの情報を収集し、謙虚に歴史に学ばなければなりません。
華僑が成功した理由に学ぶ
1.勤勉性
東南アジアでのビジネスを語るとき、華僑の存在を無視することはできません。というより、華僑こそが東南アジアビジネスである、とすら言えます。
インドネシアでは人口のたった2%に過ぎない華僑が、経済の90%以上を支配するに至っており、ベトナムを除く他の東南アジア各国も同様の状況となっています。
それでは、部外者である華僑が東南アジアで成功することの理由はどこにあるのでしょうか。まずひとつ目に、華僑の勤勉性があると分析します。
以下、本書より抜粋。
インドネシア経済の90%を押さえてしまった華僑の強みについて考えてみたい。華僑の強みは中国本土の経済発展とは直接の関係はない。何度も述べるが、華僑は商売人であり共産主義者ではないし共産党のシンパでもない。彼らの強さの源泉はその勤勉性にある。それが南国的であり、あまり勤勉でなかった東南アジアでは強みになったようだ。移住してしばらくすると、東南アジアのどの国でもその地の経済を動かすようになってしまった。
2.ネットワーク
そして、2つ目の理由は、華僑のネットワークです。以下、本文より
異郷において頼れるものはない。そんな境遇が彼らの結束を強めた。同郷人の絆は特に大切にしている。彼らは商売が上手であり、異なる国に渡った同郷人のネットワークを利用して貿易を行っている。
華僑の情報源はマスコミではなく、各地に張り巡らせたネットワークである。そのためにマスコミを介すよりも、よりリアルな情報を手に入れることができる。それに基づいて家族、親戚、同郷の友達を多くの地域に分散させて商売を行う。これが彼らのやり方である。それはヨーロッパにおけるユダヤ人と同じような手法である。
東南アジアの華僑は、その居住する国において国籍を有しているものの、国が最終的に自分たちを守ることはないと考えています。そのため、国よりも家族や親類、同郷の人を大事にする。現代のようなインターネットの時代でも、究極的には人と人の信頼関係が大事になるということです。
日本人が東南アジアでビジネスを行う上でも、日本人同胞のネットワークを大事にすることは非常に重要なのではないでしょうか。
なお、著者は、日本人が東南アジアでビジネスを行う場合には、経済を支配する華僑の協力を得ることが必要であるものの、華僑社会のネットワークに入れてもらうことはできないという点を心得て置く必要があると注意します。やはり華僑は同じ華僑のネットワークしか心の底からは信頼しないということでしょう。
さいごに
本書では、各国の近現代史を解説するほか、人口動態、農業、エネルギー、交通手段、貿易等の観点から東南アジア各国の現状を分析しており、非常に参考になるため、一読の価値があります。
また、今後日本経済が発展するためには、東南アジアを無視することはできません。本書でも、
これまで、日本は東南アジアへの投資で大きな役割を果たしてきたが、今後、世界が東南アジアに注目する中で、より一層、投資を増やしていく必要があろう。経済が急速に発展し、距離的にも近く、また中国や韓国とは異なり、概ね親日的である東南アジアは投資の対象として好適である。東南アジアへの投資は少子高齢化に悩む日本にとって希望の星とも言えるものになっている。
と述べています。また、日本で活躍できていない個人についても、東南アジアで活路を見出すことを勧めます。
就職氷河期や下流中年などと言ってないで、東南アジアにやってきて一旗あげらた良いではないか。日本人は勤勉だから、華僑のように東南アジアで成功するチャンスはいくらでもある。〜華僑は裸一貫でアジアに渡ってきて、虐殺に遭遇するリスクをおかしながら富を築いたのである。
東南アジアの歴史を学び、華僑の知恵を生かして、東南アジアで挑戦する。
そんなことを考えてみてはいかがでしょうか。