シンガポールリート(不動産投資信託)は5%を超える高い配当利回りが魅力的で、シンガポール在住者によく検討される投資対象となっています。
このブログではシンガポールリートについて何度か解説記事を出していますが、シンガポールリートについて、「23年度は4重苦のリスクか?」で分析してから1年が経過しました。
引き続き軟調な展開とはなっていますが、あらためて24年度のシンガポールリートの状況と今後の見通しについて検討して見たいと思います。
5%を超える高配当が期待でき、比較的堅調な値動きをするシンガポールリートですが、2023年は株価が軟調な展開となっています。 下チャートは、シンガポール証券取引所(SGX)の公表している、シンガポール不動産投資信託の市場全体[…]
シンガポールリート全体の配当利回り
2024年11月時点で、シンガポールリート全体の配当利回りは6%程度です。
安全資産であるシンガポール国債の利回りが3%程度で、そのスプレッド差は+3%と、他の先進国リートと比べても魅力的な配当水準にあるといえます。
国 | 配当利回り | 国債利回り | スプレッド |
---|---|---|---|
シンガポール | 6% | 3% | +3% |
米国 | 3.5% | 4.2% | ▲0.7% |
日本 | 3% | 1% | +2% |
香港 | 5% | 3% | +2% |
ユーロ圏 | 4% | 2% | +2% |
(source: グローバルリートマンスリー)
シンガポールリート銘柄ごとのファンダメンタルズ
シンガポールリートの経済的指標(ファンダメンタルズ)はどうでしょうか。
REIT Savvyのデータベースにて、2024年11月時点のシンガポールリートのファンダメンタルズを確認することができます。
下図のとおり、多くのシンガポールリートで配当利回り(Yield)が6%を超えています。
また、「株価/一株あたり資産」で計算され、リート資産に対する株価の割合を表すPrice/NAVも1倍を下回っている銘柄も多くなっています。これはシンガポールリートの時価総額がリート資産評価額より割安となっていることを示唆します。
さらに、「外部負債÷リート資産」を表すギアリング比率(%)も、ほとんどの銘柄でシンガポールの規制対象となる50%を下回っており安全圏で推移しています。
将来リート資産の評価減や配当の減少などでファンダメンタルズが悪化する可能性はありますが、いくつかの銘柄を除けばシンガポールリートのファンダメンタルズに問題はなさそうです。
シンガポールリートのリスク
シンガポールリートには、主に以下の5つのリスクがあります。
2.高金利による財務コスト増
3.ギアリング比率の上昇
4.空室リスク
5.賃貸料の水準
6.不動産価額
それぞれ見ていきたいと思います。
1.インフレによる運営費増
2024年11月時点の直近の消費者物価指数(インフレ率)は前年比+1.4%まで下落しました。
毎月25日、シンガポール金融庁(MAS: Monetary Authority of Singapore)はシンガポールのインフレ率、消費者物価指数(CPI)を発表しています。 当記事では、毎月の消費者物価指数(CPI)を定[…]
2022年前半は+7%、2023年中頃では+4.6%とかなり高いインフレが続いていましたが、2024年度に順調にインフレ率は抑制されました。
引き続き人件費の高騰など事業コスト上昇のリスクはくすぶりますが、ひとまずインフレによる運営費増のリスクは低下しているのではないでしょうか。
2.高金利による財務コスト増
シンガポールリートは外部資金を調達して不動産を購入していますが、外部資金には利息を支払わなければなりません。
シンガポール金利の水準となるシンガポール10年国債利回りは現在2.7%と、近年で最も高い水準にあった2022年の3.6%から低下しています。
なお、シンガポール10年国債利回りは、米国の10年債利回りと連動するような形で推移しています。
米国の10年債利回りは現在4.17%で、トランプ大統領当選後に上昇基調になっていましたが、足元では落ち着いています。
現時点では、2025年にかけて金利は低下することが見込まれており、市場のコンセンサスでは、2025年末までに3.5%〜3.75%の水準まで低下すると予測されています。
インフレ再燃などの再度利上げをしなければならないイベントが起きない限り、高止まりしていた金利は引き続き低下していき、これはシンガポールリートにとって追い風になると考えられます。
3.ギアリング比率の上昇
上述のファンダメンタルの項で言及したとおり、現状では多くのシンガポールリートでギアリング比率は30%〜40%台前半となっています。
2024年11月にシンガポール金融庁からシンガポールに上場するリートのギアリング比率を50%、リート利益に対する支払利息の倍率を1.5倍以上とする新しい規制が導入しており、財務レバレッジという観点からのシンガポールリートの安全性はより高まると考えられます。
シンガポール金融庁(MAS)は、2024年11月28日にREIT(不動産投資信託)市場の健全性向上を目的とした新たなレバレッジ要件と開示強化策を発表しました。 これにより、投資家保護を強化しつつ、REITが運用上の柔軟性を維持しなが[…]
4.空室リスク
シンガポールリートは、シンガポールだけではなくアジアを中心に世界中の不動産を運用していますが、主要な投資市場はやはり本国のシンガポールです。
直近のシンガポールの商業用不動産の不動産占有率は全体で89%となっており、ここ5年概ね同程度の水準で推移しています。
多目的工場(占有率91.6%)や倉庫(同91.1%)は高い占有率となっていますが、ビジネスパーク(同78.8%)が少し低くなっており、シンガポールでのオフィスは供給過多かもしれません。
とはいえシンガポールは米国とは違って、リモートワークはあまり定着しておらず会社は働く場所が必要です。この事が商業用不動産の高い占有率の主な理由となっていると考えられます。
ただし、2025年は商業用不動産の供給が多く、占有率には引き続き留意していく必要がありそうです。
5.賃貸料の水準
賃料収入が低下する場合、シンガポールリートの配当利回りの低下が見込まれてリート価格が下落します。
シンガポールの商業用不動産の賃料は2020年から右肩上がりとなっており、足元では不動産賃貸収入に問題はなさそうです。
ただし、占有率の低いビジネスパークでは2023年は前年比で横ばい、2024年に下落基調となっており、このセクターについては注意が必要そうです。
6.不動産価額
シンガポールの不動産価額が下落する場合でも、賃貸収入の水準が変わらなければ取り急ぎはリート株価に影響はあまり出ないです。
ただし、不動産価額が下落すると「外部調達負債÷リート資産」で算定されるギアリング比率の分母が小さくなることから、ギアリング比率が上昇してしまいます。
ギアリング比率が50%を超過する事態となると、シンガポールの規制要求を満たすためにリストラクチャリングをする必要が出てくる可能性があり、リート価格は一般的に下落します。
シンガポールの商業用不動産価額は2020年から右肩上がりとなっており、また2024年は取引量も前年に比べて大きく増加しており、この点は問題がなさそうです。
なお、不動産評価額の現在価値算定には金利水準が影響し、金利が高くなると割引率の上昇から現在価値が下落するため、不動産評価額を検討する場合は金利の水準も重要となります。
さいごに
2024年12月時点におけるシンガポールリートの状況について分析してみました。
引き続きシンガポールリートについてウォッチしていきたいと思います。
シンガポールで投資を始める際に、有力な候補となるのがシンガポールの不動産投資信託、シンガポール・リート(Singapre REIT)ではないでしょうか。 現在の世界的な株式や債券の下落相場の中、私も投資をするにあたって色々検討したい[…]