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【書評・レビュー】「CFO-最先端を行く経営管理」未来の会計人をめざせ。

『CFO-最先端を行く経営管理』とは

会計・経理や財務で働く仕事人のキャリア目標としてCFO(Chief Financial Officer)があります。最終的にはCFOに成りたいと思っている会計・経理職員は多いのではないでしょうか。

「本書CFO-最先端を行く経営管理」は大手外資系企業でCFOを歴任した昆雅彦氏、大矢俊樹氏、石橋善一郎氏による著書です。

3氏の経歴は以下の通りです。経歴が華やかすぎて書ききれませんので代表的なものだけ。

昆雅彦氏

スリーエムジャパン株式会社CEO(前CFO)、大学教授、MBA、USCPA 等

大矢俊樹氏

グリー株式会社CFO、ヤフー前CFO、公認会計士 等

石橋善一郎氏

大学教授、インテル株式会社前CFO、MBA、USCPA、 等

本書では、CFO及びその支援組織であるFP&A(Financial Planning and analysis)の役割・スキルセットなどが詳説され、さらには、今後のCFO、会計・経理、財務職員のキャリア戦略を解説した内容となっています。

今後会計・経理や財務を専門とする仕事人に非常に有益な示唆を与えるものとなっているため、本記事では少しだけ紹介したいと思います。

CFOの役割

「CFO」という言葉自体は一般に浸透した感がありますが、実際にどのような役割を担っているか理解している方は少ないのではないでしょうか。

どちらかというと、

「経理・財務の親玉」

的な存在で、会社の数値に関する最高責任者、そんなイメージが強いと思います。

ところがCFOの役割はそのような狭いものではなく、より高次で重要な役割を担っています。

本書で挙げられているCFOの役割は、①企業価値向上機能、②会計・リスク管理機能、③ファイナンス・トレジャリー機能、④組織管理・企業文化マネジメント機能です。

1.企業価値向上機能

CFOの役割として最も重要であるのがこの企業価値向上機能です。

CFOは企業価値の向上に対して、会計数値的な財務資本や知的資産、さらには数値では表せない人的資産など非財務資本を掌握、利用して企業価値を最大限高める役割を担います。

具体的には、CFOは以下のような役割を求められます。

・外部環境分析、戦略設定のプロセス関与

・戦略の実行状況モニタリングの仕組み構築

・価値の創造、イノベーションを推進

・企業価値の測定

 

2.会計・リスク管理機

CFOの機能として、もっともしっくりくるのが会計・リスク管理機能です。

会社のガバナンスを整え、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進する責任を負います。

具体的には以下のような業務が該当します。

・会計報告

・内部監査

・リスク管理

・DX推進(RPA活用、管理会計制度の構築)

今後はDX推進の機能が非常に重要になっていくのではないでしょうか。

3.ファイナンス・トレジャリー機能

こちらは経営企画・財務部門的な機能です。以下のような具体的な項目が該当します。

・資本コスト経営

・キャシュマネジメント

・財務リスク管理

・税務戦略

日本の特に中小企業で、各プロジェクトの資本コストを意識して戦略的意思決定をしているところはまだまだ多くないのではないでしょうか。

今後はCFOが主導して、資本コストに基づいた投資意思決定をおこなっていくことが会社の企業価値向上のためには必要となります。

4.組織管理・企業文化マネジメント機能

最後に、CFOの重要な役割として、組織の文化マネジメントが挙げられています。

企業文化の構築というと企業の最高経営責任者であるCEOの役割のように思われますが、「経営者の思い」である企業理念の形式知化や行動規範の策定について、CFOが重要な役割を果たさなければならないことを主張します。

FP&Aの役割

次に本書でテーマとなっているのが、FP&Aです。

日本ではあまり馴染みのない欧米型FP&A(Financial Planning and Analysis) の機能や役割について詳細に解説しています。

日本の会社においては経営企画部に近いものですが、FP&Aは、欧米流により洗練された

「数値管理を基礎とした戦略実行のサポート部門」

のような役割を担います。

本書を読むと、FP&Aは企業価値の向上という観点から、今後日本の会社においても設置が進み、メジャーな部門になることが容易に予想できます。

本書で述べられているFP&Aの主な役割は、以下が挙げられています。

・計画・予算・予測作成、業績報告通じて意思決定プロセスに貢献

・プロセスの実行に貢献。環境変化に適応させて効率的に実行

・財務業績に影響を与える要因の情報を収集、コミュニケーション

・データや関連事実を分析、洞察を伝達

FP&Aは財務数値を基礎とした事業の計画、予算の策定及びそのモニタリングを担いますが、あくまで各事業部長の「ビジネスパートナー」たるべしといいます。

えてして管理部門は、意思決定の支援者で傍観者になりがちですが、本当に価値あるFP&Aになるためには、「当事者」となる必要があります。

会計・経理、CFO業務の未来と今後求められる役割

本書で最も興味深かったのは、今後の会計・経理業務やCFOの役割の未来像です。

このブログでも何度か記事にしていますが、会計・経理業務についてはAI化の波が不可避です。

こちらの<書評> 『プロフェッショナルの未来』専門家が生き残るための現状把握と未来戦略のための処方箋。でも、従来型専門家が生き残るためには、変革が必要であることを解説しています。

今後、CFOはじめ、会計・経理、財務や内部監査に従事する社員は「会計ビックバン2.0」に備え、そのスキルセットや意識を変えていかなければならないといいます。

そもそも「会計ビックバン(1.0)」は、会計基準の世界的な変革に合わせ、2000年初頭に日本で導入された「連結会計」、「時価会計」などの会計実務を大きく変える一連の理論導入を指します。

「会計ビックバン2.0」とは、これに続く会計業界の大変動で、会計業界に対するAI化の新しい波を指す造語となっています。「会計ビックバン2.0」によりデータ処理を主軸においていた経理・財務部門の業務全体は根本から覆されてしまう、と警鐘を鳴らします。

主要な定型レポートは自動組成されます。

情報処理技術にAI技術が加わると、会計基準適用判断までもが、経理・財務部門をとおさずに実行されてしまいます。

内部監査業務もシステム設計の中に包括されて行くことが確実です。

このような近い未来の中、CFO、経理・財務部門に求められるべき役割やスキルは大きく変化すると予測されます

従来の会計基準の知識や簿記、セクセルスキルといったいわゆる「形式知」は重要性がなくなっていき、情報が少ない「暗黙知」の領域をどれだけカバーできるかが重要といいます。

暗黙知については、奇しくも、かの落合陽一氏が近著「働き方5.0」で重要性を述べています。

<書評・レビュー>「働き方5.0-これからの世界をつくる仲間たちへ」。今読むべきAI時代のキャリア戦略。

本書では、

形式知 = <見える世界>

暗黙知 = <見えない世界>

と対比させ、これからの経理・財務部門の人財は、どちらの世界で勝負するかを決める必要があると説明します。

暗黙知=<見えない世界>で勝負するには、

幅広い見識や好奇心など、規則やルールで確定されている枠組みを超えて物事を見る洞察力

が必要とされ、従来の経理・財務部門の人財が苦手な領域となります。

一方、形式知=<見える世界>は、ますますデジタル化・自動化が進んでいくため、従来の会計基準や簿記知識、エクセル技術では立ちゆくことができず、この世界で勝負するには

データ・アナリティクスのスキル

が必須であるといいます。

本書では、具体的にCFO、経理部門員、財務部門員、内部監査部門員、FP&A部門員が今後持つべき知識、スキルについて例示列挙していますが、ここではCFO、経理部門員、財務部門員のスキルを紹介したいと思います。

CFOが今後身につけていくべきスキル

・会計知識などのテクニカル・スキル

・影響力などのヒューマン・スキル

・問題解決力、状況把握力など概念化能力であるコンセプチュアル・スキルが中心となる

経理部門員が持つべき知識、スキル

会計規則と法規に関する深い知識

会計基準の動向を探るアンテナ

IOTに関する知識と自社に適用できる機能の選択

データ・アナリティクス

デジタルツール導入による効率化、PMスキル

財務実績・会計処理に関する伝達の内外へのコミュニケーション

外部会計報告の知識と作成能力

非財務情報の知識とKPIの策定

財務部員が持つべき知識、スキル

資金調達、金融商品の知識

与信レベルの向上スキル

最適な資本構成の実現に向けた調達・運用を行うための会計知識

金融、金利、為替、株式市場などの専門知識

資金管理最適化の税務戦略能策定・実行

マクロ経済や金融市場情報の収集

金融市場や経済状況に影響を及ぼす政治的動向への関心

与信上のリスク把握、交渉

自社の戦略に沿った取引先とのコミュニケーション・交渉

さいごに

以上、「CFO 最先端を行く経営管理」について、少しだけ紹介しました。

本書では、アカデミックな経営理論を基礎として解説されており、また著者の外資系企業におけるCFO経験が普段に紹介されています。

今後CFOを目指すプロフェッショナルや、会計、経理・財務・内部監査に従事する職業人が進むべきキャリアを考える上で有益な内容となっています。すべての会計、経理・財務・内部監査におすすめ、というか今読むべき重要な専門書であることは間違いありません。

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