士業や専門家・コンサルタントは、豊富で深い専門知識を武器に、クライアントの問題を解決することで世の中に貢献しています。
ところが、どんなに素晴らしい専門知識やコンサルティングスキルを有していても、クライアントがいなければ始まりません。
クライアントを取ってくる、いわゆる「営業力」は、専門家のスキルとは別の才能である点異論はないのではないでしょうか。
せっかくクライアントに高い付加価値サービスを提供できるのに、営業力が足りないがために世の中にくすぶっているのは、非常にもったいない。
そこで、士業・専門家の営業力について科学し、営業戦略について考えててみたいと思います。
士業・専門家の営業力に関する方程式
まずは結論からいうと、士業・専門家の営業力は以下の方程式で表すことができるのではないでしょうか。
すべての士業・専門家は、この要素のバランスをとって、クライアントを獲得しているといえます。
ひとつずつ見ていきましょう。
1.品質
まず最も基本的な要素となるのが「品質」です。
これが一定水準満たされていないと、そもそも士業・専門家として仕事が成り立ちません。
「品質」はさらに以下の要素に分解できます。
士業・専門家の提供するサービスは、特定の事項に対して、クライアントが期待する業務を完遂することです。
特定の業務について、なかなかクライアントが期待する以上の付加価値を提供するのは難しい。そもそも見積り・受注の段階で成果物についてある程度合意し、その成果物に対してフィーが設定されるためです。
合意された成果物を提供するのが当然で、そこに品質が満たない場合はクライアントの満足度は下がります。
そのため、「作業の質」に関しては、通常「減点評価」になります。
一方、「スピード」については、「加点評価」となります。
クライアントの期待する納期を短縮することができれば、付加価値を高めることができますからね。
以上より、「品質」に関しては、「作業の質」を一定水準に保った上で、「スピード」において付加価値を出すのが、営業力の向上において近道となりそうです。
2.サービスの幅
サービスの幅は、そのまま、士業・専門家が提供できる業務の範囲のことです。
クライアントにとっては、特定の業務だけに詳しい専門家よりも、幅広い話題に対応できる士業・専門家の方が心強いのは間違いありません。
例えば、相続税の相談を受けた税理士が、周辺業務である不動産譲渡や所有権移転の手続きの業務ができる司法書士的な相談・対応までできればクライアントにとって非常に使い勝手がいいですね。
複数の専門領域をカバーするのは大変ですが、士業・専門家としての付加価値は高まります。
3.価格
「価格」要素は、提供する業務の価格水準です。
クライアントが士業・専門家にはじめて業務を依頼する場面において、クライアントは「品質」についてはあまり心配しない可能性が高い。
なぜなら、士業・専門家が資格をもったプロフェッショナルであるためです。
となると、いくつか士業・専門家を比較する際に一番大きな要因は「価格」になりがちです。
競合が多く、特に難しくない専門業務においては、「価格」で差別化する戦略を取らざるを得ません。
ただし注意が必要なのは、「価格」が安すぎるとクライアントは「品質」について心配する点。安ければいいというわけではなく、ここのバランスに注意をしなければなりません。
4.コミュニケーション
士業・専門家の中には「コミュニケーション力」に不安があったために、専門職というキャリアを選んだというケースは多いです。
そのため「コミュニケーション力」の要素で戦える士業・専門家は有利です。
ただし、「コミュニケーション」といっても、「クライアントと仲良く慣れる」、とか「喋りがうまい」とかそういうレベルのコミュニケーション能力は大して重要ではないように思われます。
士業・専門家に求められる「コミュニケーション能力」とは、「顧客が気づいていない潜在的なニーズを汲み取る」力です。
どちらかというとプレゼンやおしゃべりのような「外向きのコミュニケーション能力」ではなく、クライアントの話をじっくり聞いて「顧客が気づいていない潜在的なニーズを汲み取る」ような「内向きのコミュニケーション能力」ではないかと思います。
「営業」というテーマではよく引き合いに出される話ですが、「ドリルと穴」の関係を忘れてはいけません。
ドリルを買うクライアントは、別にドリルがほしいわけではなく、穴を開けたいだけ。
士業・専門家の業務についても、たとえば「税金の計算」の依頼を受けた場合でも、その真意は、「会社の税金をできるだけ少なくし、経営状態を改善すること」ではないでしょうか。
この真意に気づくことができれば、「経営戦略サポート」や「事業計画策定」などの別の高付加価値業務を獲得することができるかもしれません。
士業・専門家の営業戦略
営業力をあげてクライアントや仕事を獲得
するための要素を分解し、検討してみました。
では、これらの要素から考えた士業・専門家の営業戦略はどのようなものが考えられるでしょうか。
次のマトリクス図でまとめてみました。
縦軸は「提供サービスの幅」。上に行くほど広い業務を担当できます。
横軸は「提供業務の難易度」。右に行くほど難易度が上がります。
このマトリクス図において、士業・専門家のポジションと取るべき戦略は以下のようになります。
「難易度 高 ✕ サービス幅 狭」:ニッチ専門家戦略
「難易度 低 ✕ サービス幅 広」:コミュニケーション・リーダー戦略
「難易度 低 ✕ サービス幅 狭」:コスト・リーダー戦略
「難易度 高 ✕ サービス幅 広」:高度プロフェッショナル戦略
このエリアで戦える士業・専門家は、複数の専門領域において難易度の高い業務を提供できる高度プロフェッショナルでしょう。
「営業力の方程式」では、「品質」と「サービスの幅」のところで非常に高いポイントを取ることができるため、たとえ「コミュニケーション力」に問題があったり、「価格」が高かったとしてもなんら問題ありません。
この領域が、士業・専門家の最終目標となります。
個人で独立して業務をしている高度プロフェッショナルも少ないながらおりますが、別に個人ですべてを行う必要はなく、たとえば会計事務所であればBIG4などの大手ファームに所属する会計士などは、様々な専門家をファーム内から調達できるため、このエリアで戦っているといえるのではないでしょうか。
「難易度 高 ✕ サービス幅 狭」:ニッチ専門家戦略
このエリアで戦える士業・専門家は、特定の専門領域において、ぶっちぎりの知識と経験を有する、ニッチ専門家でしょう。
「営業力の方程式」では、「サービスの幅」のポイントが低くなってしまうため、「コミュニケーション力」と「品質」をできるだけ高める戦略となります。
独立開業した専門家は、まずはここの領域を狙っていき、徐々にその専門領域を拡大して、「高度プロフェッショナル」領域へと移行すべきです。
「難易度 低 ✕ サービス幅 広」:コミュニケーション・リーダー戦略
このエリアで戦える士業・専門家は、コミュニケーション能力をフル稼働してクライアントから様々なニーズを引き出し、幅広いサービスラインで対応していく、コミュニケーションリーダー専門家でしょう。
「営業力の方程式」では、「サービスの幅」のポイントが低くなる上、難易度の高い業務を高品質で提供する事はできないため、低難易度の業務を幅広く取っていく必要があります。そのためには「コミュニケーション力」をいかして、顧客のニーズを次々と引き出していくことが有効です。
「難易度 低 ✕ サービス幅 狭」:コスト・リーダー戦略
このエリアで戦う士業・専門家は、比較的簡単な業務を狭い分野で提供することしかできないです。その場合はどうしても価格での競争となるため、できるだけ低価格で提供できるように差別化するコスト・リーダーを目指さなければなりません。
コミュニケーション能力を生かしたところで、提供できるサービス領域も狭いため限界があります。この領域で戦わざるを得ない士業・専門家は、「価格」で付加価値を出す必要があります。対応できる領域で「価格」を下げるべく、固定費の削減、システムを活用化することやテンプレート化などの「自動化」が必須です。
難易度の高い高付加価値業務を提供する士業・専門家は、そもそも低価格な単純業務に参入してこないので、価格競争力が出れば勝負はできます。
ただし、この領域は近い将来に「AI・システム」に次々と置き換わっていくため、できるだけ早いタイミングで、「コミュニケーション・リーダー」領域または、「ニッチ専門家」領域へと移行しなければなりません。
スキルが足りないビジネスパーソンのキャリア戦略についてはこちらでも考察していますので、参考にしてください。
スキルの乏しいビジネスパーソンのキャリア戦略。ランチェスター戦略でのしあがれ。
さいごに
今回は士業・専門家の営業戦略について検討してみました。
テクノロジーの急速な進化により、従来型のプロフェッショナル・専門家は対応に迫られています。
今後、<書評> 『プロフェッショナルの未来』専門家が生き残るための現状把握と未来戦略のための処方箋。
今後も士業・専門家として、クライアントに対して付加価値のある業務を提供するために、戦略的にポジショングを行い、営業をしていく重要性は高まっていきそうです。