ビジネスの世界で生きていると、「すごいプロフェッショナル」を見かけます。
英語もできて専門的な資格や実務経験もあり、さらにはプレゼンがすごくうまくコミュニケーションも如才ない。
こんな、ソフトスキルからハードスキルまで兼ね揃えたビジネスプロフェッショナルにも、結構な頻度で遭遇します。
自分サイドの味方であれば心強い限りですが、コンペティターの側にいたり、転職活動中のライバルだったりすると、自信がくじかれて打ちひしがれる。
そんな経験をしたことのある人も多いのではないでしょうか。
そんな猛者たちが跋扈する「ビジネスジャングル」で、特段に光るものを持たないビジネスパーソンが、今後活躍するにはどうすればいいでしょうか。
今回は、ビジネス社会における「持たざるもののキャリア戦略」として、ランチェスター戦略の観点から考察したいと思います。
ランチェスター戦略とは
ランチェスター戦略は、第一次世界大戦の時代にイギリスのエンジニアであったF.W.ランチェスターによって見いだされた競争戦略。
戦闘機の開発に従事していたランチェスターは、いかに敵機に打ち勝つかを研究し、その結果導き出された法則が「ランチェスター戦略」です。
ランチェスター戦略はその後、第二次世界大戦において連合国側で採用され戦勝に寄与、また戦後はビジネス戦略として昇華されます。
ちなみにビジネス戦略として体系化したのは日本人コンサルタントである田岡信夫と言われており、日系企業が1970年代以降採用することで、日系企業の世界におけるプレゼンスが高まっていったと言われています。
このような成功の歴史に彩られた「ランチェスター戦略」は、時代を問わない普遍性があり、現代においても無視できない理論であるはずです。
それでは、具体的にランチェスター戦略とはどのようなものでしょうか。
ランチェスター第1原則
ランチェスター理論はすごくシンプルで、2つの基本原則からなります。第1原則と第2原則です。
これらの違いは、その戦いが「局地戦」であるか、「広域戦」かの違いによります。ランチェスター第1戦略は、局地戦を対象とします。
1対1のタイマン勝負、狭い領域における戦闘では「第1原則」が適用され、以下の公式で表されます。
ランチェスター第1原則
戦力 = 武器の性能 ✕ 兵力数
非常にシンプルです。局地戦で勝つには、武器の性能を高めるか、兵力数を増やすしかありません。
ランチェスター第2原則
それでは、第2原則の方はどうでしょう。第2原則は、広域戦を想定します。
広い範囲における戦闘で、一回の使用で多数の敵へ攻撃できる近代兵器を使用するような場合には、「第2原則」が適用されます。
ランチェスター第2原則
戦力 = 武器の性能 ✕ 兵力数2
第1原則との違いは、兵力数が2乗となっている点。近代兵器を用いれば、1回の使用でより多くの敵を攻撃できます。そのため兵力数が増大すれば累乗的に的に損害を与えることができるということです。
ランチェスター戦略のビジネスへの応用
このランチェスター第一1原則、第2原則を実際のビジネスに応用した場合、どのようなことが言えるでしょうか。
まず、社員を多く抱えて兵力数の大きい大企業は、「第1原則」でも「第2原則」でも優位にすすめることができます。ただし、兵力数が相乗効果となる「第2原則」に持ち込むことでより優位に立つことができます。
一方、中小企業は兵力数に限りがあります。そのため、なるべく「第1原則」に持ち込み、兵器(ビジネスの世界では、製品力やサービス力、従業員のスキル)を最大限に高めて局地戦で戦えば勝算があります。
大企業は中小企業と争う場合は、その兵力差を生かして、中小企業が高めた兵器の能力にキャッチアップ(模倣)することで、伸びてきた中小企業を個別に潰すことが可能となりますので、「第1原則」を採用する中小企業は、大企業の模倣を困難とするくらい差別化し、圧倒的な地位を得る必要があります。
ビジネスパーソンのキャリア戦略への応用
このランチェスター戦略は、企業戦略のみならず個々のビジネスパーソンのキャリア戦略にも応用できるのではないでしょうか。
兵力数 = スキルの数
と置き換えて見ましょう。
スキルの豊富なビジネスパーソンの戦略
スキルの豊富なビジネスパーソンは、「第2原則」に従うのが有利です。広域戦、つまり幅広い業種・業界、職種分野でその豊富なスキルを活かすべく、総合系コンサルタント、戦略コンサルタント、一般事業会社でも経営企画やマネジメント(CFO、CEOなど)を目指すべきです。
スキルの乏しいビジネスパーソンの戦略
一方、スキルの乏しいビジネスパーソンの場合は、広域戦では戦ってはいけません。「第1原則」に従い、局地戦、つまり限られた職務分野、専門領域、業界で勝負すべき。
専門コンサルティング、事業会社の専門職、特定スキルを売りとしたフリーランサーなどです。
この際、なるべく「1点集中」をめざし、かぎられた職務領域、業界において武器性能を磨くべき。ただし、この際に、スキルの豊富なビジネスパーソンに模倣されないよう、「ぶっちぎりの第一人者」を目指さなければなりません。
はじめは、かなりの局地戦に絞ったほうが良いでしょう。たとえば、会計経理領域であれば、「連結会計」だけは誰にも負けない、だとか「ECコマースの税務」の第一人者など、範囲をできる明確にすべきです。
一つの分野でスキルをマスターすれば、その習得方法は他のスキルを習得する際に応用可能です。また、他の業界に転用できるはずです。
これからは、「個の時代」になります。終身雇用制度は崩壊し、事業会社においてもスキルの足りない社員を抱えておくことはできなくなります。
個々人が、明確でエッジのたったスキルを獲得しなければなりません。今後のビジネス社会を生き抜くためにも、ランチェスター戦略を念頭に入れて、スキルを磨いて行きたいところです。