シンガポールリート(不動産投資信託)は、5%を超える高い配当利回りが魅力で、シンガポール在住者によく検討される投資対象です。
シンガポールリートとは?
多くの投資家から集めたお金で、オフィスビル、ショッピングモール、物流施設、データセンターなどを保有し、その 家賃収入を投資家に分配する 金融商品です。株式と同じように、シンガポール証券取引所(SGX)で売買できます。
- 利回りが高い理由: 利益の90%以上を分配すれば法人税がかからない仕組みのため、ほとんどの利益が投資家に回ります。
- 市場の規模: 約40銘柄が上場する、日本を除くアジアで最大のリート市場です。
- 国外の不動産も持つ: 本国シンガポールに加え、オーストラリア、日本、中国、欧米などの物件を持つ銘柄も多くあります。
- 分配金の税金: 個人が受け取る分配金は、シンガポールでは非課税です(日本の居住者は日本で課税されます)。
【参考】シンガポールリートはNISAで買える?
現地で分配金に源泉税がかからないシンガポールリートは、NISAとの相性がとてもいい投資先です。NISA成長投資枠で買えるETF・投資信託の一覧や、買い方・手数料の比較は、次の記事にまとめました。
このブログでは、「23年度は4重苦のリスクか?」、そして「2024年度のSingapore REITの状況と今後の見通し」と、シンガポールリートの分析を続けてきました。
2024年版の記事では、「インフレの鎮静化と金利低下が、シンガポールリートの追い風になる」との見通しをお伝えしました。実際、2025年には米国が利下げを進め、シンガポールの金利も大きく低下しました。
ところが2026年に入り、中東での戦争をきっかけに原油価格が高騰。米国は2026年9月、約3年ぶりの利上げに踏み切りました。シンガポールリートを取り巻く環境は、再び大きく揺れ動いています。
本記事では、2024年版と同じ観点から、2026年9月時点のシンガポールリートの状況と今後の見通しを改めて分析します。
シンガポールリート全体の配当利回り
2026年9月時点で、シンガポールリート全体の予想配当利回りは5.8%程度です(Lion-Philip S-REIT ETFの予想分配利回り)。
安全資産であるシンガポール10年国債の利回りは2.38%(2026年9月4日)で、スプレッドは約+3.4%。2024年版の記事でお伝えした水準(配当利回り6%、国債3%、スプレッド+3%)と比べても、引き続き魅力的な配当水準にあるといえます。
| 時点 | シンガポールリートの配当利回り | 10年国債利回り | スプレッド |
|---|---|---|---|
| 2024年11月 | 約6% | 約3% | 約+3% |
| 2026年9月 | 約5.8% | 2.38% | 約+3.4% |
出所:2026年9月はBeansprout(2026年9月9日)、2024年11月は前回記事(グローバルリートマンスリー)
株価は低迷。株式市場全体から大きく出遅れ
一方で、リート価格は冴えない動きが続いています。
2026年9月4日時点で、シンガポールリート指数(FTSE ST All-Share REIT Index)は年初来で−8.2%。同じ期間に、シンガポール株全体を表すストレーツ・タイムズ指数(STI)は+24.6%と大きく上昇しており、その差は30ポイント以上に広がっています(Beansprout)。
出遅れの最大の理由は、金利の見通しが「利下げ」から「利上げ」へと180度変わったことです。
2026年前半、市場は「米国の次の一手は利下げ」とみていましたが、中東での戦争で原油価格が高騰し、米国は9月に利上げに踏み切りました。金利に敏感なリートは、この変化の影響を最も強く受けています。
その結果、利回りの面から見たシンガポールリートの割安感は高まっています。予想分配利回り5.8%は長期平均の5.1%を上回り、株価純資産倍率(P/B)も1.0倍と、長期平均の1.16倍を下回る水準です。
シンガポールリート銘柄ごとのファンダメンタルズ
では、シンガポールリートの経済的指標(ファンダメンタルズ)はどうでしょうか。2026年1〜6月期(一部は4〜6月期)の決算から、主要銘柄の数字を整理しました。
| 銘柄 | 主なセクター | 1口あたり分配金(前年比) | ギアリング比率 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| OUE REIT | オフィス・ホテル | +28.6% | 41.5% | ホテル収入の回復、借入コスト減 |
| Suntec REIT | オフィス・商業施設 | +24.8% | 43.0% | オフィス稼働率100%。ギアリングはセクター上位 |
| Keppel DC REIT | データセンター | +11.3% | 34.0% | 借入コスト2.6%と業界最低水準 |
| CDL Hospitality Trust | ホテル | +8.6% | 35.3% | 支払利息が約3割減 |
| CapitaLand Integrated Commercial Trust | 商業施設・オフィス | +7.1% | — | 商業施設の稼働率97.7% |
| CapitaLand India Trust | インドのオフィス・DC | +1.0% | 38.0% | ルピー安の影響。インドルピー建てでは+13.0% |
| Mapletree Logistics Trust | 物流 | +0.2% | 40.5% | 中国は引き続き軟調 |
| CapitaLand Ascendas REIT | 産業・物流 | +0.1% | 39.7% | 増資で1口あたりは横ばい |
| CapitaLand Ascott Trust | サービスアパート | 横ばい | 37.7% | 一時的な要因を除くと減少 |
| Keppel REIT | オフィス | −4.0% | 40.0% | 増資による希薄化。賃料改定は+12.8% |
| Mapletree Industrial Trust | 産業・データセンター | −4.9% | 37.5% | 北米の空室、米ドル安 |
| Daiwa House Logistics Trust | 日本の物流 | −18.8% | 40.1% | 円安(対シンガポールドルで9.6%下落) |
出所:各社決算を分析したBeansprout(2026年9月9日)。「—」は同資料に記載なし。
ポイント1:株価とは裏腹に、業績は堅調
株価の低迷とは対照的に、多くのリートで分配金は前年比プラスとなり、中には2桁増の銘柄もあります。特に好調なのは、シンガポール国内のオフィス、データセンター、物流、労働者・学生向け住居といった、需要がしっかりしているセクターです。
ポイント2:海外資産の比率で明暗が分かれる
一方で、日本、中国、北米の資産比率が高いリートは苦戦しています。円安、北米のテナント退去、中国の賃料下落など、それぞれの国の事情が業績を押し下げました。「どこの不動産を持っているか」で、成績が大きく分かれるのが2026年の特徴です。
ポイント3:ギアリング比率は安全圏
外部負債÷リート資産で表すギアリング比率は、多くの銘柄で30%台〜40%台前半にとどまり、規制上限の50%を下回っています。いくつかの銘柄を除けば、財務面で大きな問題はなさそうです。
シンガポールリートのリスク
2024年版と同じく、シンガポールリートの主な6つのリスクを見ていきます。
- インフレによる運営費増
- 高金利による財務コスト増
- ギアリング比率の上昇
- 空室リスク
- 賃貸料の水準
- 不動産価額
1.インフレによる運営費増
2024年版の記事の時点では、シンガポールのインフレ率は前年比+1.4%まで下がり、「インフレによる運営費増のリスクは低下している」とお伝えしました。
しかし2026年は、中東での戦争による原油高で、再びインフレ圧力が高まっています。
2026年8月のコアインフレ率は前年比+2.2%と約2年ぶりの高さ、総合インフレ率は+2.3%でした。7月には規制料金である電気料金も引き上げられています(AsiaOne)。
シンガポール金融管理局(MAS)は、コアインフレ率が2027年半ばごろまで高止まりすると見込んでいます。水準自体は2022年(+7%程度)ほどではありませんが、電気代や人件費など、リートの運営費を押し上げる要因には引き続き注意が必要です。
2.高金利による財務コスト増
2024年版の見通しは、2025年まではその通りになった
2024年版の記事では、「2025年末までに米国の政策金利は3.5〜3.75%の水準まで低下する」という市場予想をご紹介しました。
実際、米国は2025年に3会合連続で利下げし、政策金利はちょうど3.50〜3.75%まで下がりました。シンガポールの短期金利の指標である3か月物SORAも、2026年初めには1%前後まで低下し、リートの借入コストの低下を後押ししました。
2026年は流れが逆転
ところが2026年、中東での戦争による原油高でインフレが再燃し、米国は2026年9月16日に約3年ぶりの利上げ(3.75〜4.00%)に踏み切りました。
市場では年内の追加利上げも意識されています。
これを受けて金利は上昇に転じています。
| 指標 | 水準(2026年9月上旬) | 変化 |
|---|---|---|
| 米国10年国債利回り | 4.78% | 上昇基調 |
| シンガポール10年国債利回り | 2.38% | 1年前から+0.53% |
| 3か月物SORA | 約1.2% | 5月末の約1.0%から上昇 |
出所:Beansprout
シンガポールの国債利回りは、2024年版でもお伝えしたとおり、米国の10年債利回りと連動するように動きます。
SORA(シンガポール短期金利)がさらに上がれば、借り換えのタイミングでリートの支払利息が増え、分配金を押し下げる要因になります。
ただし、多くのリートは近年、長めの期間で借入コストを固定しており、すぐに影響が出るわけではありません。
Keppel DC REITの借入コストは2.6%、CDL Hospitality Trustは2.8%と、低い水準を維持している銘柄も多くあります。
3.ギアリング比率の上昇
前述のとおり、多くのシンガポールリートのギアリング比率は30%台〜40%台前半にとどまっています。
2024年11月にMASが導入した新しい規制では、ギアリング比率の上限を50%に一本化し、利息の支払い能力を示すインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)を1.5倍以上とすることが求められています。
財務レバレッジという観点からのシンガポールリートの安全性は、引き続き高いと考えられます。
なお、Suntec REIT(43.0%)など、40%台前半の銘柄は、金利上昇局面では借り換えコストの増加に注意が必要です。
ギアリング比率については、以下の記事を参照してください。
4.空室リスク
シンガポールの商業用不動産の稼働状況は、セクターによって差はあるものの、全体として堅調です。
| セクター | 空室率・稼働率(2026年4〜6月期) | 状況 |
|---|---|---|
| オフィス(中心部の最上級ビル) | 空室率3.3%(過去最低) | 非常にタイト |
| オフィス(全島) | 空室率11.0% | 新規ビル完成で小幅上昇 |
| 商業施設 | 空室率6.5% | 小幅上昇 |
| 工場(単一テナント/複数テナント) | 稼働率89.3%/90.5% | 堅調 |
| 倉庫 | 稼働率89.4% | 堅調 |
| ビジネスパーク | 稼働率77.9% | 前期比+1.2ポイント改善も、依然低め |
出所:URA、JTC、CBREのデータをまとめたBeansprout
2024年版で「供給過多かもしれない」と注意したビジネスパークは、稼働率が78%前後と依然として低めですが、改善の兆しも見られます。
オフィスは、2026年の大型の新規供給がShaw Towerのみで、2027年も供給は平均を下回る見込みです。金融機関やAI企業の需要も強く、貸し手に有利な市場が続くとみられています。
5.賃貸料の水準
賃料は、多くのセクターで上昇が続いています。
- 工業用不動産:JTCの全産業用不動産の賃料指数は、2026年4〜6月期に前期比+0.5%と23四半期連続の上昇。1996年以来の高水準に達しています。
- オフィス:中心部の最上級オフィスの賃料は1平方フィートあたり月12.50シンガポールドルと、6四半期連続の上昇。調査会社コリアーズは2026年の賃料上昇率の予想を4〜6%に引き上げました。
- 商業施設:URAの賃料指数は前期比+0.6%と、1〜3月期の下落から持ち直しました。
一方、2024年版で「下落基調で注意が必要」とお伝えしたビジネスパークの賃料は、2026年4〜6月期も前期比−0.1%と、このセクターだけ弱い状態が続いています。
6.不動産価額
不動産価額が下落すると、ギアリング比率の分母(リート資産)が小さくなり、ギアリング比率が上昇してしまいます。
現時点では、シンガポールの不動産価額に大きな問題は見られません。JTCの全産業用不動産の価格指数は前年比+3.8%と上昇が続いています。
また、Keppel REITが東京のビルを評価額より9.7%高く売却する予定など、評価額を上回る価格での資産売却も相次いでおり、帳簿上の不動産価値が実際の取引価格でも裏付けられている形です。
ただし、2024年版でもお伝えしたとおり、不動産の評価額は金利水準の影響を受けます。金利が上がると、将来の賃料収入を現在価値に割り引く際の割引率が上がり、評価額は下がります。
2026年後半にかけて金利上昇が続く場合、年末の不動産再評価で評価額が下がる可能性には注意が必要です。
さいごに
2026年9月時点におけるシンガポールリートの状況を、2024年版と同じ観点から分析してみました。
| リスク | 2024年12月時点 | 2026年9月時点 |
|---|---|---|
| 1.インフレ | 低下(+1.4%) | 再燃の兆し(コア+2.2%、2年ぶりの高さ) |
| 2.金利 | 低下が見込まれる | 上昇に転じる(米国が約3年ぶりに利上げ) |
| 3.ギアリング比率 | 安全圏 | 安全圏(多くが30%台〜40%台前半) |
| 4.空室 | ビジネスパークに注意 | 全体に堅調。オフィス中心部は過去最低の空室率 |
| 5.賃料 | 上昇基調 | 上昇継続(工業用は23四半期連続) |
| 6.不動産価額 | 問題なし | 現時点では問題なし。金利上昇による評価減に注意 |
整理すると、不動産そのもの(空室、賃料、資産価値)は2024年よりむしろ強くなっている一方、金利とインフレという「外部環境」が逆風に変わった、というのが2026年のシンガポールリートの姿です。
株価が低迷した結果、配当利回りは長期平均を上回り、株価純資産倍率も1倍前後と、割安感は高まっています。ただし、金利の先行きが不透明な中で、すべてのリートが一斉に回復するとは考えにくい状況です。
今後は、高い利回りだけに注目するのではなく、
- シンガポール国内の需要がしっかりしたセクター(オフィス、データセンター、物流など)か
- 分配金を伸ばせる材料(賃料改定、資産の入れ替え、借入コストの管理)があるか
- 海外資産の為替リスクをどう管理しているか
といった点で、銘柄を選別していくことがより重要になりそうです。
引き続き、シンガポールリートについてウォッチしていきたいと思います。
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄への投資を勧めるものではありません。記載のデータは2026年9月時点の公開情報に基づきます。投資判断はご自身の責任で行ってください。