【書評・レビュー 】海外移住の希望とリスク。「流出する日本人ー海外移住の光と影」。

最近の円安や日本経済停滞の閉塞感から、海外移住を検討する方も増えているのではないでしょうか。

「海外移住」とひとくちに言っても、そこには個々人特有の事情や、様々なリスクがあります。

このような「日本人の海外移住のあれこれ」について多角的に探究された書籍が、本書「流出する日本人ー海外移住の光と影」

著者は23年間、4ヵ国で生活した経験を持ち、30年以上にわたり移住研究を行うメルボルン大学准教授の大石奈々氏。

自身の実際の海外経験と豊富な知識をもって、本書では日本人の海外移住の背景、動機、そして影響について深く掘り下げています。

本書によると、古くは8世紀に中国に30年間滞在した遣唐使、阿倍仲麻呂から始まる日本人の海外移住。

当記事では、「流出する日本人ー海外移住の光と影」から、3つの海外移住理由3つの海外移住リスクについて、わたしの滞在国であるシンガポールでの感想も含めて検討してみたいと思います。

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海外移住の理由

本書では、日本人の海外移住の理由として、主に

1.生活の質と自己実現

2.教育と子育ての環境

3.安全保障とリスク回避

を挙げています。それぞれについて簡単に見ていきたいと思います。

海外移住の理由.1ー 生活の質と自己実現

多くの日本人移住者は、自由なライフスタイルや自己実現を求めて移住を決断しています。

日本の長時間労働や閉鎖的な職場文化から解放され、より良いワーク・ライフ・バランスを実現できる環境を求める人々が増えています。

多くの日本人は高い給料を求めて海外移住するわけではなく、むしろ、ワーク・ライフ・バランスの向上が移住の主要な要因です。

また、富裕層については、税制の優遇を求めて移住を選択することも少なくありません。

たしかに、わたしの居住するシンガポールでは相続税や贈与税、キャピタルゲイン課税はなく、所得税や法人税も日本に比べてかなり低率となっており、有利な税制は富裕層や起業家にとって移住の最も重要な理由の一つとなっています。

海外移住の理由.2ー 教育と子育て環境

子育て世代の移住者にとって、子どもの将来の選択肢を広げるための教育環境は重要な要素です。

日本の教育システムに対する不満や、より自由で多様な教育を求める親たちが、移住の大きな動機となっています。

例えば、「つめこみ教育」や「協調性を求められすぎること」への懸念から、海外での教育を選択する親が増えています。

シンガポールも、英語・中国語教育が可能なうえ、インター校も充実。国際ランキングの上位に位置する大学も複数あり、教育目的で移住する日本人もあとを絶ちません。

海外移住の理由.3ー 安全保障とリスク回避

東日本大震災以降では、日本の長期的な経済リスクや安全保障上の懸念が、移住の大きな動機となっているとのこと。

また、日本の財政破綻少子高齢化の進展による年金制度の持続性への懸念が、移住志向に大きく影響していることも明らかにされています。

なお、本書では移住先を選定する際には、以下の基準が重視されると紹介されています。

言語: 英語圏の国が好まれる。

治安: 安全な環境が求められる。

気候と自然環境: 快適な気候や自然環境が重視される。

物価: 生活費や家賃が重要な検討材料となる。

ネットワーク: 移住先に既存のネットワークがあると、移住がスムーズ

移住先は海外であればどこでもいいというわけではなく、やはり安全・便利な環境が求められます。

海外移住のリスク

本書では、海外移住のリスクとして、主に

・経済的リスク

・適応リスク

・法的、滞在リスク

を挙げています。それぞれについて簡単に見ていきたいと思います。

海外移住の経済的リスク

まず、海外移住に際して物価や家賃の高騰が挙げられます。

具体的な例として、米国のデータでは、日本人移住者の世帯年収がアジア人の中央値を大幅に下回っていることが紹介されており、日本人移住者が移住先で必ずしも裕福な生活を送っているわけではないことがわかります。

また、就労ビザや永住ビザが取れた高所得者の技術者も1割〜2割は日本に帰国しており、その理由の99%が物価・家賃であるという逸話も紹介されています。

特に昨今の円安の影響で、現地で外貨を稼ぐのでないかぎり、移住先で経済的に不利となっています。

適応リスク

永住するつもりで海外移住するも、日本の素晴らしさを改めて認識して帰国を決断する人、国際結婚が破綻して帰国するなど、現地に適応できずに海外移住を断念する人々もいます。

若いうちは良いにしろ、高い医療費の問題もあり、人生の最終ステージをどこで過ごすのかの決断も迫られる点も忘れてはなりません。

海外移住の法的・滞在リスク

また、ビザや永住権の取得と更新に関する法的リスクが挙げられています。

たとえば、シンガポールで永住権を取得しても、再入国許可が通常5年ごとに審査・更新が必要となります。

就労ビザのルールも頻繁に更新され、そもそも海外滞在資格の安定性に関するリスクは小さくないと言えます。

さいごに

本書では、日本人の移住における「ディアスポラ戦略」について紹介されています。

ディアスポラとは、もともとは古代ユダヤ人が祖国を追われて流浪の民となった「離散」を語源とする言葉です。

このような流浪の民は、異国の地で自国の文化にも異国の文化にもどちらにも属さない、「文化の狭間」を生きることで、創造力を発揮し新しい文化を創出してきました。

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ユダヤのほか、香港、シンガポール、アメリカなども多民族を引き付けるディアスポラ国家と言えます。

著者は、このディアスポラを日本人移住の戦略とすべき提言をしています。

つまり、海外に住む自国民やその子孫が、祖国との強い絆を保ちながら、その知識や経験を活用して祖国の経済的・社会的成長に貢献することが重要。

たしかに、中国本土から東南アジア、ひいては世界中に拡がる華僑の如く、日本人が世界中に散らばって日本に貢献するようになれば、日本は国際国家としてさらに発展しそうですね。

以上、「流出する日本人ー海外移住の光と影」は、日本人の海外移住の実態を多角的に分析し、移住を検討している人々にとって非常に参考になる内容です。

海外移住を検討する際には、必ず事前に読んでおくべき一冊としておすすめです。

流出する日本人ー海外移住の光と影

-目次-

序章 日本人の海外移住の歴史

第1章 日本の人口減少と世界の移民政策ー移住を巡る構造変化

第2章 若者たちの海外移住ーワーキングホリデーの光と影

第3章 「自己実現」と「生きやすさ」を求めて

第4章 日本が抱えるリスクと不確実性

第5章 移住先の選択−文化から税制

第6章 海外移住の影ー永住のハードルと移住後のリスク

第7章 日本の未来と政策の選択肢ー誰もが住み続けたい日本へ

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