【海外子会社管理】海外事業の秘訣は粗利益の管理。その3.海外事業に影響をあたえる留意事項。

海外事業の運営にあたり思うように利益が出ない。こういった会社が多いように思われます。

海外事業で利益がでない理由として、本国における事業と異なる要因が影響している場合があります。

今回は、粗利益について海外事業特有の留意点について検討してみたいと思います。

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為替の影響

海外事業で避けて通れない論点として、為替の影響があります。為替は取引の段階に応じて、3つに区分できます。

① 取引時の為替

② 外貨建債権債務の決済時の為替

③ 期末時の外貨建資産負債の為替換算

それぞれについて、みていきましょう。

① 取引時の為替変動の影響

商品の仕入や販売を外国通貨で行い、会計上外貨換算が必要な場合は、為替変動の影響が損益として認識されます。

たとえば会計記帳を日本円で行っている会社が、米ドルで取引した場合などです。

仕入時、販売時の為替変動の影響は売上高、売上原価に直接含まれるため、粗利益率に影響を与えます。

以下の例で見てみましょう。

例:400ドルで仕入れたものを1,000ドルで販売した。

売上高:USD1,000

仕入高:USD 400

利益:USD 600

この場合の粗利益率は60%(600÷1,000)ですね。

一方、以下の円レートで換算された金額で会計記帳されます。

仕入時のレート:120円/USD

売上時のレート:100円/USD

この取引を円建てに換算した場合の、各金額は以下のとおりです。

売上高:100,000円

仕入高:48,000円

利益:52,000円

この場合の利益率は52%(52,000÷100,000)となります。

同じ取引にも係わらず為替の影響で利益率が8%減少してしまいました。

② 外貨債権債務決済時の為替変動の影響

外国通貨で取引をした場合、取引時に現金で回収または支払を行なわなければ、外貨建て債権債務を有することになります。

会計上は掛取引といい、取引先との契約に従って1ヶ月〜3ヶ月程度で決済日を迎える場合が多いです。

この取引時点と決済時点の間に為替相場が変動する場合は、当該為替の変動は為替差損益として認識されます。

たとえば、①の例について以下の為替レート変動があったとしましょう。

売上時のレート:100円/USD

決済時のレート:80円/USD

①の例では、売上時にUSD1,000(取引時のレート100円/USDのため、100,000円)の債権を保有します。

その後、決済時のレートが80円/USDとなった場合、実際に受け取れる日本円は80,000円であり、20,000円の為替損失を被ることになります。

1000 × (100 ― 80)= 20,000円

ただし、外貨建債権債務の決済により生じる為替差損益は金融取引により生じるものであるため、損益計算書(PL)上は営業外損益として認識され、営業取引から生じる利益である粗利益には影響を与えません。

③ 期末時の外貨建資産の換算替えの影響

期末までに決済が行なわれない外貨建債権債務、外貨建口座の預金などを保有する場合は、会計基準上、決算時の為替レートにより換算替えすることが求められます。

この場合も②と同様に営業取引ではなく金融取引から生じる為替差損益であるため、損益計算書(PL)上は営業外損益として認識され、営業取引から生じる利益である粗利益には影響を与えません。

為替の影響への対応

為替の変動は、外国通貨で取引をする企業の損益に大きな影響を及ぼします。

もちろん、日本の企業が日本国内において外国通貨建てで取引をした場合でも同じ影響を受けます。

ただし、海外子会社は外国通貨建てで決算を行っている場合が多いですし、外国間の取引が頻発するため、為替の影響を受けることが多いです。

このような為替の変動については、適切な仕入プランニングの実施や、場合によっては為替リスクをヘッジする金融商品の購入など、適切に為替の影響をコントロールする必要があります。

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消費税の影響

多くの国において消費税が導入されており、商品を仕入れた時に消費税を支払う必要があります。

たとえば、シンガポールでは7%の消費税(GST:Goods and service tax)が導入されています。

この消費税が粗利益に影響を与える場合があります。

消費税の仕組みは、モノやサービスの価格に対して、決められた料率により上乗せで課税されるというものです。

商品を仕入れたときに仕入代金に上乗せして消費税を支払い、販売時に販売代金に上乗せして消費税を回収します。

この回収した税金から支払った税金を差し引いた金額を納税します。

この仕組において、GST登録事業者登録をおこなった場合は、徴収したGST税額(仮受税額:input tax)から仕入時に支払った税額(仮払税額:output tax)を控除できるため、粗利益への影響はありません

ところが、GST登録していない事業者は、仕入時に支払ったGSTが払いっぱなしになってしまうため、支払ったGSTがコストとなってしまいます。

シンガポールでは、1百万シンガポールドルの課税売上がある場合は、GST登録が義務となります。

それ以外の会社でも任意で登録することができ、任意登録した場合は、支払時に支払ったGSTについて申告の際に還付を受けることができます。

GSTを任意登録する場合は、取引の都度適切に会計処理した上で、四半期ごとに当局に対して申告・納付する必要があり、事務作業が増加する上、一定額の銀行保証が求められるなど、ハードルがあります

消費税のある国でビジネスする場合は、粗利益への影響を十分検討する必要があります。

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関税の影響

もう1つ、粗利益へ影響を与える税金として関税(Excise duty)があります。

関税は、諸外国から入ってくるモノに対して自国の産業、事業者を保護するために課せられます。関税が課せられると輸入品の仕入価額が高くなるため、自国商品の価格競争力がアップするためです。

また、タバコや貴金属、自動車などの高級品に課税されます。

関税は、商品区分ごとに税率が規定されているので、事業を行う国の関税料率を確認する必要があります。

Duties & Dutiable Goods All dutiable goods imported into or …

移転価格の留意点

海外子会社が日本本社またはその他のグループ会社と取引する場合は、移転価格税制に留意しなければなりません。

移転価格税制とは、グループ会社間における取引を適正な価額で行うことで、公正な納税を行うことを促す制度のことで、つまりはグループ会社間の取引を適正な価格で行い、各国で計上する利益(及びそれにより算出される納税額)を適正に算定すべきとする制度です。

グループ会社間ですと、価格を自由に調整できてしまうため、税率の低い国で利益を多く計上するよう価格を設定するインセンティブが働きます。

ところが、これでは各国税務当局は税金をとりっぱぐれてしまいます。そのため、取引価格が適正な価格(独立企業間価格といいます)で行なわれるべく企業に求め、適切に行なわれているか調査します(移転価格税務調査)。

近年では、グローバル化の進展に伴い国際的な脱税、税逃れが多くなっており、各国税務当局は特に移転価格税制に力を入れています。

各国の企業は、その国の規制に従い移転価格税制のための文書化や税務調査への対応が求められています。

海外事業においては、移転価格税制に配慮して粗利益を検討する必要があります。

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さいごに

海外事業の運営について重要な会計指標である「粗利益」について解説しました。

利益を継続的に必要十分に稼ぎ出すことが、海外事業の成功には欠かせません。

自社の海外事業において粗利益に影響を与える要因を十分に把握し、コントロールしましょう。

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