【シンガポール・リート銘柄】OUE Commercial REITについて考察。

シンガポールREIT(不動産投資信託)は、高い配当利回り比較的堅調な値動きが特徴でおすすめです。

特にシンガポール在住者は、売却益や配当金が非課税のため、高い投資リターンを期待でき、投資を検討する方も多いのではないでしょうか。

シンガポールリートの種類、メリットやリスク、リートの選び方については以下の記事にて解説しています。

当記事では、主にシンガポールのオフィスビル及びホテルに投資するリートのひとつ OUE Commercial REIT (SGX:TS0U)について紹介したいと思います。

OUE Commercial REIT Reit (SGX:TS0U)は、主にシンガポールの商業施設に投資する不動産投資信託です。シンガポールの街を歩いていると、OUEのロゴを冠したビルを多く目撃するように、OUEは、シンガポールを代表する不動産投資信託です。

OUE Commercial REIT Reitの株価推移は以下のとおりとなります。

それでは、以前の記事で紹介した「シンガポール・リートを選ぶ際のポイント」8項目に沿ってそれぞれ分析していきたいと思います。

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1. 物件のポートフォリオ

リートがどのような不動産を保有するか、OUE Commercial Reitの物件ポートフォリオについて確認してみましょう。

(Source:OUE C-REIT 1H 2022 Presentation )

OUE Commercial Reitは、2022年1Q時点でシンガポール、中国の2カ国に、計7物件を保有します。

その内訳は以下のとおりで、One Raffles PlaceやHiltonホテル、チャンギ空港のCrowne Plazaなど、シンガポールを代表する不動産を保有・運営します。

主要な収入は、オフィスビルで56%となっており、ホテル事業の27.8%、小売モールの16.2%が続きます。

2. スポンサー

スポンサーとは、リートの資産を運用する会社(資産運用会社)の大株主です。

OUE Commercial REITのスポンサーは、OUE Limited. です。 OUEはOverseas Union Enterpriseの略であり、アジアの不動産開発、投資、管理会社です。

SGX上場のREITでは、OUE Commercial REITのほか、子会社のOUE Lippo Healthcare Limitedを通じて、First REITを運営し、日本を含めたアジアのヘルスケア施設へ投資しています。

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3.  一口当たり分配金(DPU)と配当利回り

執筆時現在のOUE Commercial Reitの年間一口あたり分配金(DPU)は0.0245ドル、株価は0.32ドルとなっていますので、直近の年間配当利回りは7.6%程度となっています。

最近1年の推移では6.05% 〜6.36%程度となっており、高配当銘柄が多いシンガポールリートのの中でも魅力的な配当利回りではないでしょうか。

(Source: Investing.com OUEC 16th Oct 2022)

ただし、高配当なままで放置されているということは、将来の業績低下からの配当減額が見込まれている可能性がある点は注意です。

実際に、直近の株価収益率(Price Earning Ratio: PER)41.49倍と、業界平均の13.16倍に比べてかなり高くなっています。

株価収益率(Price Earning Ratio: PER)は、「現在の株価÷一株あたり利益」で算定され、現在OUE Commercial REITは、一株あたりの利益に対して、REIT株価が41.49倍になっていることを表します。

配当利回りが6%超となっているのに、株価が割高であるというからくりは、OUE Commercial Reitが、稼ぎ出している利益以上に配当金を支払っているためと推測されます。

これは、配当性向(Payout Ratio)が319.7%という異常値になってる点から読み解けます。

(Source: Investing.com OUEC 16th Oct 2022)

配当性向(Payout Ratio)とは、「配当支払額÷当期利益」で算定され、OUE Commercial Reitは、一株が稼ぎ出した利益の3倍超の金額を配当として分配していることになります。

稼いだ利益以上の金額を投資家に分配し続けることはできませんので、現状の業績が続くようだと一口当たり分配金が減額され、配当利回りが低下することになります。

4. テナントの状況

OUE Commercial Reitの直近のテナント状況は以下のとおりです。

ホスピタリティ区分が27%と最大となっていますが、これはHiltonホテル及びチャンギ空港のCrown Plazaホテルが該当します。ホスピタリティについで、銀行・ファイナンス(17.1%)、会計・コンサルティング(11.1%)など、金融やプロフェッショナルサービス企業が続きます。

(Source:OUE C-REIT 1H 2022 Presentation )

入居率 (Occupancy rate)

シンガポール及び上海のオフィスビルの入居率87.7%〜96.2%となっています。シンガポールは平均で92.9%であり前四半期から2.1%回復しています。一方で、上海はロックダウンの影響でLippo Plazaの入居率が減少したと報告されています。

(Source:OUE C-REIT 1H 2022 Presentation )

ホスピタリティ区分(ホテル)の入居率は公表されていませんが、RevPAR(客室あたり単価)が2022年1Qから2倍(113ドル⇒226ドル)と増加しており、空室が解消されて部屋単価を上げることができていることが見て取れます。レポートでもRevPARの増加理由として、ヒルトンホテルのリブランド化に加えて観光客の増加を挙げています。

(Source:OUE C-REIT 1H 2022 Presentation )

加重平均リース満了期間 (Weighted Average Lease Expiry)

OUE Commercial REIT のうち、オフィスビル及びの2022年度1Qにおける加重平均リース満了期間は2.5年です。通常、事業の賃貸契約は3年〜で、3年を下回ると現状のテナント契約を更新できていないと考えられ、リートの将来の収益性の低下につながります。

加重平均リース期間は5年超が望ましく、2.5年はリース満了まで短く、現在の条件で更新できない場合は利回りが低下するリスクがあるといえそうです。

(Source:OUE C-REIT 1H 2022 Presentation )

一方、ホスピタリティ事業のホテルマスターリース契約は、ヒルトンホテルは2028年まで、その後同一条件で15年延長、Crown Plazaも2028年まで、その後同一条件で10年延長可能となっています。

収入の30%弱を占めるホスピタリティ事業では、しばらく安定的な収益が見込めます。

5. ギアリング比率

リートのギアリング比率とは、「リートの負債/ リート資産」の比率であり、リート資産の取得に対する外部負債の割合を表すものです。Average leverage (平均レバレッジ)とも呼ばれます。

2022年1Q におけるOUE Commercial Reitのギアリング比率は39.1%です。

シンガポール金融庁(MAS)によるギアリグ比率規制の50%を大きく下回り、健全な水準と言えます。

また、OUE Commercial Reitは、固定金利でヘッジされている負債の割合を76.3%と報告しており、利上げの影響は大きく受けない底堅い財務体質を有しているといえそうです。

(Source:OUE C-REIT 1H 2022 Presentation )

6. 財務コスト

リートの財務コストは主に物件取得の借入金に対する支払利息です。財務コストについてはインテレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)で確認することができます。ICRとは、「収益/支払利息」で算定することができ、数値が高いほど財務コストが低く安全性が高いことを示します。

OUE Commercial REIT の2022年度1QにおけるICRは3倍です(上表参照)。

シンガポールのメガバンクDBS銀行の2022年3月の記事によると、シンガポール・リートの平均ICRは4.9倍程度と報告されており、平均よりも収益に占める支払利息の比率が高いといえます。

7. 株価純資産倍率 (PBR)

株価純資産倍率(Price Book-value Ratio: PBR)は、REIT株価(一口当たり投資額)を一口当たりの純資産価値(Net Asset Value: NAV)で割った値です。

PBRが1より大きい場合は、REITが純資産額に比べて大きく評価されている一方、1を下回る場合は評価が低いことを示します。

執筆時現在のOUE Commercial REITのPBRは0.57で、Industry平均0.99より低い数値で割安水準といえます。

(Source: Investing.com OUEC 16th Oct 2022)

8.成長戦略

最後に、OUE Commercial REITのDPUが今後も増加していく可能性があるか、OUE Commercial REITの成長戦略について確認したいと思います。

OUE Commercial REITのプレゼンテーション資料に今後の見通しが記載されているため、簡単に紹介したいと思います。

シンガポール・オフィス事業

・2021年後半から持ち直しており、特にリーガルやノンバンクのファイナンスセクターのスタートアップの進出、既存顧客の契約更新が見込まれる。

・テクノロジーセクターの需要減少リスクがあるものの、シンガポールの中心地域のオフィスは、オフィス回帰傾向やシンガポール経済の見通しから比較的堅調と予想される。

シンガポール・ホスピタリティ事業

・2022年上半期の海外からのシンガポール旅行者は前年の12倍の1.5百万人に増加している。

・シンガポール観光局によると、2022年の旅行者は4〜6百万人と予想され、コロナ前の水準に戻る。

シンガポール・小売モール事業

・ショッピング街であるオーチャードロードの主要な小売業の賃貸、安定的な需要があり、賃料もSGD34.20sqfで安定的であり、インフレで賃料が上昇するが見込まれるのは2023年のみである。

・小売の売上はコロナ規制の緩和により増加傾向となっているものの、今後の経済見通しや、事業費用、労働力の不足など不確実性が多く、小売業者は多少消極的となる。

上海・オフィス事業

・2022年の第2四半期は、上海ロックダウンの影響で需要が減退、リース契約もかなり落ち込んだ。

・2022年の後半では、需要が回復するものの、2021年度を下回る水準になると予想される。

・Lippo Plazaの優先事項はテナントの引き止めと入居率の維持である。

さいごに

OUE Commercial REITは、シンガポール国内の有名なオフィスビルやホテルを有し、経済の拡大が続く中国上海の不動産を保有する魅力的なリートであると言えます。

ただし、「7.株価純資産倍率(PBR)」で解説したとおり、純資産総額と株価の指標であるOUE Commercial Reitは割安と見える一方、「2.一口あたり分配金と配当利回り」で分析した利益水準指標(PER)からは現状かなり割高と判断されます。

将来、REITの利益が増加するかどうかを見極めるべく、シンガポール国内のオフィスやホテル需要、上海の状況を踏まえて慎重に検討することが求められます。


 なお当記事は、投資を推奨するものではなく、あくまでも参考情報として提供するものです。投資は自己責任となりますので、何卒よろしくお願い致します。

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