高い配当利回りや比較的堅調な値動きが特徴のシンガポールREIT(不動産投資信託)。投資を検討する方も多いのではないでしょうか。
特にシンガポール在住者は、売却益や配当金が非課税のため、高い投資リターンを期待できます。
シンガポールリートの種類、メリットやリスク、リートの選び方については以下の記事にて解説しています。
シンガポールで投資を始める際に、有力な候補となるのがシンガポールの不動産投資信託、シンガポール・リート(Singapre REIT)ではないでしょうか。 現在の世界的な株式や債券の下落相場の中、私も投資をするにあたって色々検討したい[…]
当記事では、ヘルスケア施設に特化したリートのひとつFirst REIT (SGX:AW9U)について紹介したいと思います。
First Reit (SGX:AW9U)は、インドネシアの病院を中心に、日本、シンガポールの介護施設に投資するヘルスケア施設に特化したリートです。
2022年3月末時点での時価総額は百万SGDと報告されています。
他のシンガポールのヘルスケア・リート であるParkway Life REITについては時価総額がFirst Reitの2倍規模であり、また他のセクターReitと比べても比較的小規模なリートといえそうです。
ただし、小規模であるからこそ特定の物件に特化したリートであるといえ、注目に値するのではないでしょうか。
FIrst Reitの株価推移は以下のとおり。
FIST REITの決算アップデート
こちらの記事で決算情報のアップデートを行っています。
【シンガポール・リート銘柄】First REITについて考察。 - シンガポールビジネス虎の巻【シンガポール・リート銘柄…
1. 物件のポートフォリオ
リートがどのような不動産を保有するか、First Reitの物件ポートフォリオについて確認してみましょう。
First Reitは、2022年1Q末時点でインドネシア、日本、シンガポールの3カ国に、計31物件投資します。
その内訳は以下のとおり。
- インドネシアの病院:12件
- インドネシアの病院複合施設:4件
- 日本の介護施設:12件
- シンガポールの介護施設:3件
特筆すべきは日本への進出ではないでしょうか。
従来はインドネシアへの投資が中心でしたが、2022年3月に日本の介護施設を12件取得しており、先進国の不動産というより安定したポートフォリオの組成を目指していると思われます。
2. スポンサー
スポンサーとは、リートの資産を運用する会社(資産運用会社)の大株主です。
First REITの主なスポンサーは、インドネシアの財閥Lippoグループで、ヘルスケア大手のOUE Lippo Healthcareと、インドネシア最大の上場不動産会社 PTLippoKarawaciです。
また、主な投資物件はインドネシアの最大手総合病院グループSiloamに運営されています。
3. 一口当たり分配金(DPU)と配当利回り
執筆時現在のFirst Reitの年間一口あたり分配金(DPU)は0.026、前年同期比で1.1%増です。
株価は0.28となっていますので、直近の年間配当利回りは9.36%程度となっています。
シンガポールリートの平均利回りが5%程度であり、9.36%はかなり魅力的ですが、リターンが大きい場合は、リスクも大きくなっている可能性があるため注意が必要です。
下表はFirst Reit、及び同ヘルスケア・リートのParkway Life ReitのDPU推移です。
First Reitは、2020年及び2021年にDPUを大きく減少させていますが、これはコロナパンデミックを受けてFirst REITがテナントとの間で賃貸契約のリストラクチャリングを実施したことに起因します。
一方のParkway Life ReitのDPUは、7年間増加、毎年2.9%で成長しており、こちらと比較するとFirst REITの苦戦がわかります。
今後First Reitが安定的にDPUを伸ばしていくことができるかがポイントではないでしょうか。
4. テナントの状況
First Reitの直近のテナント状況は以下のとおりです。
入居率 (Occupancy rate)
First REITのHPによると、リートの入居率は100%となっています。
ヘルスケア施設の物件ですので、物件運営者(民間病院など)から定額の賃貸料を受け入れるビジネスモデルで、空き室などあっても賃貸収入に影響がないということでしょう。
ただし、前述のMPU減少に見たとおり、賃貸借契約の更改により定額賃貸料自体が下がることで収入が減少するリスクがある点に注意が必要です。
加重平均リース満了期間 (Weighted Average Lease Expiry)
First REIT の2022年度1Qにおける加重平均リース満了期間は13年程度です。通常、事業の賃貸契約は3年〜で、3年を下回ると現状のテナント契約を更新できていないと考えられ、リートの将来の収益性の低下につながります。
10年以上のリース契約が確定しているため、長期に渡って収益が見込める点は大きな評価ポイントかと思います。
5. ギアリング比率
リートのギアリング比率とは、「リートの負債/ リート資産」の比率であり、リート資産の取得に対する外部負債の割合を表すものです。Average leverage (平均レバレッジ)とも呼ばれます。
2022年1Q におけるFirst Reitのギアリング比率は35.7%です。
2022年度に日本の介護施設12施設を取得したことにより、ギアリング比率は33.6%から上昇していますが、シンガポール金融庁(MAS)の規制する比率50%を下回っており、依然として健全な水準といえます。
6. 財務コスト
リートの財務コストは主に物件取得の借入金に対する支払利息です。財務コストについてはインテレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)で確認することができます。ICRとは、「収益/支払利息」で算定することができ、数値が高いほど財務コストが低く安全性が高いことを示します。
First REIT の2022年度1QにおけるICRは5.7倍です。
シンガポールのメガバンクDBS銀行の2022年3月の記事によると、シンガポール・リートの平均ICRは4.9倍程度と報告されており、平均より健全な財務コスト水準といえます。
https://www.dbs.com.sg/corporate/aics/templatedata/article/generic/data/en/GR032022/220304insightssingaporereits.xml#::text=3.5%25%20(1%25%20hike%20in,MAS)%20and%20possibly%20loan%20covenants.
7. 株価純資産倍率 (PBR)
株価純資産倍率(Price Book-value Ratio: PBR)は、REIT株価(一口当たり投資額)を一口当たりの純資産価値(Net Asset Value: NAV)で割った値です。
PBRが1より大きい場合は、REITが純資産額に比べて大きく評価されている一方、1を下回る場合は評価が低いことを示します。
執筆時現在のFirst REITのPBRは0.69で、Industry平均1.02より低い数値で割安水準といえます。
8.成長戦略
最後に、First REITのDPUが今後も増加していく可能性があるか、First REITの成長戦略について確認したいと思います。
2022年1Qの四半期決算報告資料によると、First REITは以下の4つ成長戦略を描いています。
特筆すべきは、従来のFirst REITの地理的、またテナント的に偏った投資ポートフォリオを是正するため、先進国の物件への投資を志向する点です。
報告書では3〜5年以内に先進国のポートフォリオ比率を50%超に引き上げることを目標とし、まずは2022年3月に日本の介護施設12件を取得しています。この物件はリース契約ではなく、自社保有となっています。
また、途中で中止となった開発計画の支出金が、2022年6月30日に30百万SGDが返金されます。当該資金も新たな物件取得に投資できると考えられます。
さらに、5年償還のアジア開発銀行系保証付き債券で100百万SGDを調達し、新規投資に利用すると公表しています。
さいごに
First REITは、2020、2021年にDPUの急落があり、リスクが織り込まれて割安なバリュエーションとなっています。
とはいえ、First Reitのコアマーケットであるインドネシア、及び日本の介護施設をはじめ先進国ヘルスケア物件に将来性があるという方は長期視野で投資するという手もありそうです。
シンガポールに上場している不動産投資信託(REIT)で、インドネシアや日本、シンガポールのヘルスケア施設に投資するFirst REIT(SGX:AW9U)が、2022年第3四半期の決算(1月〜9月の9ヶ月)を公表しました。 概ね順当[…]
なお当記事は、投資を推奨するものではなく、あくまでも参考情報として提供するものです。投資は自己責任となりますので、何卒よろしくお願い致します。