高い配当利回りや比較的堅調な値動きが期待できるシンガポールREIT(不動産投資信託)は、検討に値する投資対象ではないでしょうか。
特にシンガポール在住者は、売却益や配当金が非課税のため、高い投資リターンを期待できます。
シンガポールリートの種類、メリットやリスク、リートの選び方については以下の記事にて解説しています。
シンガポールで投資を始める際に、有力な候補となるのがシンガポールの不動産投資信託、シンガポール・リート(Singapre REIT)ではないでしょうか。 現在の世界的な株式や債券の下落相場の中、私も投資をするにあたって色々検討したい[…]
当記事では、データセンターに特化したリートであるKeppel DC REIT (SGX:AJBU)について紹介したいと思います。
Keppel DC Reit (SGX:AJBU)は、アジア及びヨーロッパのデータセンターへ投資する不動産投資信託で、2014年にデータセンター特化型としては初めてシンガポール証券取引所に上場したリートです。
Keppel DC REITの株価推移は以下のとおりとなります。
このKeppel DC Reit について、以前の記事で紹介した「シンガポール・リートを選ぶ際のポイント」8項目に沿ってそれぞれ分析していきたいと思います。
1. 物件のポートフォリオ
リートがどのような不動産を保有するか、Keppel DC Reitの物件ポートフォリオについて確認してみましょう。
Keppel DC Reitは、2022年1Q時点でアジア及びヨーロッパの9カ国に、計21のデータセンターを保有します。

その内訳は、以下のとおりです。
マレーシア:1
オーストラリア:2
中国:2
英国:3
アイルランド: 2
オランダ:3
イタリア:1
ドイツ:2
2. スポンサー
スポンサーとは、リートの資産を運用する会社(資産運用会社)の大株主です。
Keppel DC REITは、その名の冠するとおり、Keppelがスポンサーです。
ケッペルの事業は建設、造船、インフラ、不動産開発、エネルギー、通信等多岐に渡り、シンガポールを代表するコングロマリット企業です。
もともと1848年に初めてシンガポールに到着した英国船長のヘンリー・ケッペルから名付けられたシンガポールで由緒ある企業です。
3. 一口当たり分配金(DPU)と配当利回り
執筆時現在のKeppel DC Reitの年間一口あたり分配金(DPU)は0.0983、株価は1.98となっていますので、直近の年間配当利回りは4.96%程度となっています。
最近1年の推移では3.68% 〜4.56%程度となっており、シンガポールリートとしては順当な配当利回りではないでしょうか。

高い配当利回りや比較的堅調な値動きが期待できるシンガポールREIT(不動産投資信託)は、検討に値する投資対象ではないでしょうか。
4. テナントの状況
Keppel DC Reitの直近のテナント状況は以下のとおりです。

入居率 (Occupancy rate)
公表されている2022年1Qのデータによると、入居率は98.7%です。
21のデータセンター中、入居率が100%となっている施設は15箇所、そのほかに5箇所で90%を超えています。入居率が冴えないのはマレーシアの施設のみ(63%)です。
加重平均リース満了期間 (Weighted Average Lease Expiry)
Keppel DC REIT の2022年度1Qにおける加重平均リース満了期間は7.7年です。通常、事業の賃貸契約は3年〜で、3年を下回ると現状のテナント契約を更新できていないと考えられ、リートの将来の収益性の低下につながります。
加重平均リース期間は5年超が望ましいので、Keppel DC REITのリース期間に問題はないといえそうです。
https://mypassiveinvesting.com/weighted-average-lease-expirywale-and-lease-occupational-profile/
ただし、収入ベースで67.8%が「Colocation」での利用となっています。コロケーションとは、データセンターのサーバーを置く共有スペースを貸し出すサービスで短期契約となります。
コロケーション契約のテナントは、加重平均リース満了期間が2.5年と短いため、コロケーション利用のクライアントが契約期間満了後、継続的に利用するかがポイントになりそうです。
5. ギアリング比率
リートのギアリング比率とは、「リートの負債/ リート資産」の比率であり、リート資産の取得に対する外部負債の割合を表すものです。Average leverage (平均レバレッジ)とも呼ばれます。
2022年1Q におけるKeppel DC Reitのギアリング比率は36.1%です。シンガポール金融庁(MAS)によるギアリグ比率規制の50%を大きく下回り、健全な水準と言えます。
また、Keppel DC Reitは、負債コスト(支払利息等)を1.8%と報告しており、76%が3.4年のヘッジとなっています。向こう数年は比較的低いコストで資金を調達しています。
6. 財務コスト
リートの財務コストは主に物件取得の借入金に対する支払利息です。財務コストについてはインテレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)で確認することができます。ICRとは、「収益/支払利息」で算定することができ、数値が高いほど財務コストが低く安全性が高いことを示します。
Keppel DC REIT の2022年度1QにおけるICRは10倍と報告されています。
シンガポールのメガバンクDBS銀行の2022年3月の記事によると、シンガポール・リートの平均ICRは4.9倍程度と報告されており、平均より健全な財務コスト水準といえます。
https://www.dbs.com.sg/corporate/aics/templatedata/article/generic/data/en/GR032022/220304insightssingaporereits.xml#::text=3.5%25%20(1%25%20hike%20in,MAS)%20and%20possibly%20loan%20covenants.
7. 株価純資産倍率 (PBR)
株価純資産倍率(Price Book-value Ratio: PBR)は、REIT株価(一口当たり投資額)を一口当たりの純資産価値(Net Asset Value: NAV)で割った値です。
PBRが1より大きい場合は、REITが純資産額に比べて大きく評価されている一方、1を下回る場合は評価が低いことを示します。

執筆時現在のKeppel DC REITのPBRは1.48で、Industry平均1.03より若干高い数値ですが、適正水準です。
Keppel DC REITの実績への信頼から、株価の評価が高いのではないでしょうか。
8.成長戦略
最後に、Keppel DC REITのDPUが今後も増加していく可能性があるか、Keppel DC REITの成長戦略について確認したいと思います。
詳細な情報は見当たりませんでしたが、2022年1Qの成長戦略として、次の3つが挙げられています。

ポートフォリオの多様化
アジアを中心に資産ポートフォリオを多様化し、運用の専門性を高めています。また、大規模で安定的なクライアントベースを有します。
最近では、中国広東で2つのデータセンターを買収したことを発表しています。この買収でDPUは2.7%上昇する効果があると報じられています。
デジタル・エコノミーに特化した投資戦略
引き続き位2020年代も発展が確実なデータセンター及びデジタルエコノミー関連の資産へ投資することを使命としており、2020年1Q時点で20億ドルの開発中の施設があります。
サステナビリティへのコミットメント
脱炭素を目指し再生可能エネルギーの利用に積極的であり、コーポレート・ガバナンスへの強い意識があります。
さいごに
クラウドビジネス、IoT社会への移行のなか、データセンターの需要はますます高まっていくのではないでしょうか。
実際、2022年から2025年の間に、データ量は毎年40%ずつ成長していくと報告されています。
また、ビジネスにおいてデータは最も重要な資産のひとつとなっており、その物理的、バーチャル的なセキュリティを高めることが必須であり、データ管理に特化したデータセンターを利用する企業はますます増えると想定されます。
Keppel DC REITは、シンガポールで信頼あるスポンサーの下、運営されたデータセンター特化のリートであり、利回りも魅力的な水準に見えますので、引き続き注視していきたいと思います。
なお当記事は、投資を推奨するものではなく、あくまでも参考情報として提供するものです。投資は自己責任となりますので、何卒よろしくお願い致します。