日本においては社会のデジタル化が遅々として進まず、日本は世界の「デジタル後進国」だという論調も力を増してきています。
このような状況の中、今まで後進として下に見ていた新興国において、破竹の勢いでデジタル実装が進み、生活の便利さや社会インフラの効率性が日本を凌駕する国が多く出てきています。
いったい、「新興国では何が起こっているのか?」そして、このような「新興国が先を行く時代において日本が果たすべき役割はどんなものか?」についてわかりやすく解説してくれるのが「デジタル化する新興国」です。
本書の著者は東京大学社会科学研究所准教授の伊藤亜聖氏。社会経済学者による作品ということで、マクロ的な視点からの学問的分析と、現地で今、実際に起きている事象の両面から分析された密度の濃い内容となっています。
本記事では、「デジタル化する新興国」より、デジタル化する新興国の可能性と問題、及び日本が取るべきアプローチについて紹介したいと思います。
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デジタル化する新興国の問題と可能性
著者はまず、デジタル化の直接的な効果として以下の3つを挙げています。
2. 自動化技術の普及
3. プラットフォーム企業の台頭
そして、この3つの事象が同時に進行することで、新興国において、
長年直面してきた「信頼と透明性」の問題を劇的に解消しつつある
一方で、
元来あった「可能性」だけでなく、「脆弱性」までもがデジタル化で増幅される
という状況が進んでいます。
業務自動化やフリーランス経済も拡大する中で、新興国での「デジタル化社会」は新興国よりも急速に進む可能性があります。
「タイムマシン経営」、これはテクノロジーで先をいっている米国、特にシリコンバレーの未来的なサービスを日本に持ち込んで実装するという経営手法ですが、今後は、時の流れが早い新興国の先進都市においてデジタル化に関するより多くの試行錯誤と新陳代謝が繰り返されることで、新興国のテクノロジーを日本で逆輸入するという状況がやってくるかもしれません。
その一方で、急速に進むデジタル化社会の弊害も見逃せません。
工業化時代のポジティブな面として、工業化が「平等化を伴う経済成長」であった点が挙げられます。新興国が工業化をすすめる中で、大多数の国民が豊かになっていくという構図です。
一方、デジタル化は、「自動化が進展することで雇用総出力が限定的であり、経済的な格差を急速に拡大させる可能性」があります。
また、個人情報保護や人権の概念が成熟していない新興国ではデジタル技術が、監視社会を加速してしまうリスクもはらみます。
デジタル化する新興国で日本が取るべきアプローチ
それでは、日本を飛び越えて「デジタル化」する新興国に対して、日本が果たすことのできる役割はどのようなものでしょうか。
著者は、「共創パートナーとしての日本」という立場を提案します。
これは、新興国はデジタル化により可能性と脆弱性の両面を増幅させてしまうため、日本が新興国のデジタル化によって得られる可能性を拡大し、ともに実現し、そして同時に脆弱性を補うようなアプローチをいいます。
具体的には、以下の取り組みを例示します。
・新興国に学び、日本国内に還流させる
・デジタル化をめぐるルール作りには積極的に参画する
新興国とデジタル化を進めていく中で、日本のデジタル化にも取り込んでいこうとする戦略です。
著者によると、日本では海外のソリューションを黒船として持ち込む「輸入」アプローチに成功例が少なく、そのため、新興国を巨大な実験場として海外で未知のサービスを実証していく「海外実証」アプローチが有効であると提案します。この場合は、自国内では経験のないサービスをいきなり海外で実行することが求められます。
そのためには、以下の姿勢が必要となります。
・特に、有力なイノベーションの拠点となるような新興国の社会実装先進都市への注目
さいごに
レガシーなインフラのためにデジタル化の実装では遅れを取っている日本ですが、デジタル化を支える基礎技術や精密機器、ビジネスに関する蓄積では依然、最先端をいっているのは間違いないです。
このような資源を新興国のデジタル化において提供し、両者ともにしていくことが効果的な戦略だと思います。
個人レベルでも新興国のデジタル技術、サービスにアンテナを張り、積極的にコミュニケーションをとっていかなければと感じました。
本書は、新興国デジタル化の現在を理解するのに非常に有益な内容となっています。興味のある方はぜひ一読されることをおすすめします。
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