今回から、海外子会社管理における不正防止策について、具体的に解説したいと思います。
初回は、棚卸資産の不正を発見する代表的な手法の1つである「回転期間分析」。
棚卸資産とは、企業が販売する目的で保有する商品、製品、仕掛品及び原材料をいいます。
製造業や小売業など、モノを扱う企業の場合は、企業の収益の源泉である棚卸資産が最も重要といえるため、適切な管理が必要です。
棚卸資産の回転期間分析とは?
棚卸資産の回転期間分析とは、ある一時点において、在庫が何ヶ月(または日数)分の仕入量から構成されているかを分析する方法です。
たとえば、以下の場合を考えてみましょう。
・期末日に100万円の在庫がある。
この場合、在庫の回転期間は2.5ヶ月(100÷(480/12))となります。
つまり、この会社は、1ヶ月平均40万円(480万円÷12ヶ月)の在庫を仕入れており、計算時点において2.5ヶ月分に相当する在庫があるということになります。
在庫回転期間は短いほうがいい?
在庫回転期間を算出することで、一時点における在庫水準を算定することができます。
在庫回転期間が短い場合、在庫量は仕入量にたいして比較的少ない水準といえます。
在庫回転期間が長い場合、在庫量は仕入量にたいして比較的多い水準といえます。
どちらがいいかは一概にはいえませんが、通常、在庫回転期間が長い場合は、現金が棚卸資産というかたちで拘束されてしまっていること、長期間在庫が売れていない可能性があることなどから、望ましくない場合が多いです。
とはいえ在庫回転期間が短すぎる場合は、在庫保有量が手元に置いておくべき適正数量を下回っている可能性があります。
保有在庫量が適正在庫水準を下回っている場合、「売れたのに売れなかった」という販売ロスが生じるので、正確な市場需要を予測して適正在庫量を保つ必要があります。
在庫回転期間分析による不正の発見手法
在庫回転期間について、不正の発見という観点から以下のような情報と比較すると有益です。
・過年度水準との比較
業界水準や自社の過年度水準と比較した結果、在庫回転期間が異常に長期間となっている、または継続して上昇傾向にある場合は、単に在庫が売れ残っているか、不正が行なわれていることを疑います。
在庫が売れ残っているケース
在庫が売れ残ってしまっていることによる回転期間の長期化は、不正ではありません。
ただし、この在庫を売り切るために販売単価をディスカウントする必要がある場合が、在庫の価値は目減りしていると考えられるため在庫金額を評価減する必要があります。
不正が存在するケース
不正が行なわれているために回転期間が長くなっているというケースも考えられます。
たとえば、実際に仕入れた実績はないにもかかわらず、会計帳簿上の棚卸資産の金額のみを膨らませた場合、棚卸資産÷1ヶ月の平均仕入額で算定する在庫回転期間は長期となります。
テクニカルな説明をすると、以下の会計仕訳を記帳する手法などです。
棚卸資産と売上が同時に増える取引はありえません。そのため、この会計処理は会社の資産と売上高を同時にふくらませる典型的な不正会計です。
(ただし、上記会計処理はあまりにも単純なため、すぐ露見してしまうでしょう。実際の粉飾会計は、間に様々な処理を介在させて簡単にはわからないようにされます。)
さいごに
棚卸資産の回転期間は手軽に算定できる分析手法ですが、棚卸資産の状況について雄弁に語ってくれます。
異常な棚卸資産回転期間は不正の兆候となりえますので、詳細に調査する必要があります。