【海外子会社管理・異文化コミュニケーション】異文化理解のヒント、方法論。

海外での事業成功には、その国の文化を理解することが重要です。

相手の文化的な背景、習慣を理解しないでビジネスをしても相手を怒らせるだけだし、逆に外国人が自国文化を尊重していることを感じれば、好意をもって接してくれることには間違いありません。

今回は、異文化理解のためのヒントになるようなポイントを、元文化庁長官、大阪大学名誉教授といった文化人類学の大家である青木保氏の著書「異文化理解」第4章を参考に紹介したいと思います。

 

言語とコミュニケーション

外国で仕事をするというと、まずは言語を学ぶという方は多いと思います。

もちろん、異文化を異文化たらしめる要素に、異言語がありますが、「言語と文化は必ずしも全部が一致するわけではない」と筆者はいいます。

異文化はあくまで、言語を含む大きな意味で「コミュニケーション」として異文化との関係をとらえなければなりません。

コミュニケーションを取る際には、常に言語的なコミュニケーションと同時に、非言語的コミュニケーションを行っています。例えばゼスチュアや顔の表情、身体的な動きが該当します。

たとえば、英語があまりうまくない人でも外国人とやたら意気投合できる人がいます。この人達は異文化理解力が高いため、言語以外の非言語コミュニケーションの習得を自然と行っていると言えそうです。

外国でうまくコミュニケーションが取れないのは、言葉ができないというだけではなく、こうしたコミュニケーションのもつ社会とその文化全体になじみがないからです。

テレワークにより外国とも容易にビジネスすることができ、また頻度も多くなりましたが、非言語コミュニケーション情報の収集が困難なテレワークにおいて、異文化コミュニケーションの難易度は上がっており、ミス・コミュニケーションによる問題も多くなっているのではないでしょうか。

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異文化理解の段階

イギリスの社会人類学者エドマンド・リーチは、文化コミュニケーションを3つの段階に区分しました。

文化は複雑かつ深淵なものですが、この3つのレベルを一つずつ辿って理解することが必要だといいます。

第一:自然のレベル

第一の自然レベルは、人間の動物としての本能的なレベルといえます。

人間はものが飛んでくれば本能的に避けるし、寒くなれば衣服を着る、お腹が空けばご飯を食べる。そういうごく自然と呼べる状態は、どんな文化を通しても変わらないだろう。私達が世界のどこへ言ってもなんとなく生活できるのは、絶対的な人間の条件はどこへ言っても似ているから。

文化は変わっても人間としての共通の属性を有しており、「自然」に対して本能的に理解できるコミュニケーションがあります。このことを理解し、区分することが異文化理解の最初のステージです。

第二:社会レベル

第二のレベルは「社会レベル」。各文化に特有の社会的慣習やルールです。

たとえば、交通信号、自動車運転のルール、冠婚葬祭の服装や食事のマナーなど。

リーチは「記号的なレベル」と名付け、知識として得ることができます。インターネットなど巷にあふれる情報は、ほとんどがこの「社会レベル」の文化的差異の情報ではないでしょうか。

第三:象徴のレベル

そして、第三のレベルが「象徴のレベル」。

まさに文化のコアのことで、著者によれば、「外部の者にとって極めて理解するのが困難な世界」ということになります。

この「象徴のレベル」は、信仰や行動様式、習慣など、長年の歴史と文化が土台になって、その国固有の価値や理想と結びついている部分であり、背景にある価値や意味を共有している人間しかわかりません。

異文化理解のコツは、第2の「社会レベルの文化」については基本的な外国のルールや慣習情報を収集すること、そして第3の「象徴レベルの文化」については、その国の歴史や宗教を深く勉強、理解し、現地でその国の人やあり方を注意深く観察することが有用ではないでしょうか。

文化の「速い情報」と「遅い情報」

「速い情報」と「遅い情報」という観点からも異文化を見ることができます。

情報には、即断的に理解できる情報と、その情報の意味を理解するのに非常に時間がかかる情報が存在するため、どちらに該当するか注意深く考慮する必要があります。

速い情報とは、マスメディアで流れる文化の情報であり、典型的ステレオタイプな文化情報です。筆者は、「日常で受け取っているのはほとんどが速い情報」といいます。

一方で、遅い情報とは、象徴的なレベルの現象と絡み合って、一見したところではその情報の意味を理解するのが難しいものをいいます。

情報技術の発達で、情報は大量に素早く入手することができるようになりましたが、「本当の意味で文化を理解するには、依然として長く時間がかかる」と筆者はいいます。

個人的には、言語を学ぶことは「遅い情報」に該当すると思います。たとえば、英語の文法は非常にロジックが重視され、それゆえか、英語圏のビジネス文化ではロジカルに物事をすすめることが必要です。

「英語はロジック大事」という情報は「速い情報」としてすぐに手に入れることができます。

しかし、本当にこの文化が腹落ちできるのは、英語の文法をある程度マスターして、自分で喋ってみたときでしょう。日本語ではある程度用語が曖昧でも発言を進められるものが、英語に変換した途端に、抜け落ちている用語を補って行かないと文章にならないからです。

アジアに流れる「4つの文化時間」

本書では、現代のアジアは4つの文化時間による「混成文化」であるといいます。

現代の社会において、「純粋な文化」など存在せず、外来文化を取り入れながら自分の文化を混成して形成していっているためです。

では、4つの文化時間とはどのようなものでしょうか。

まず1つ目は「土着的な時間」。これはそれぞれの地域や土地固有の文化的な時間です。

そして2つ目は、「アジア的文化の時間」。大陸から興った仏教や儒教、感じなど南アジア、東アジアの古代文明に発する普遍的な文化時間です。

3つ目は「西欧的、近代的文化の時間」、つまり近代化や工業化を促す時間です。

洋服など生活様式の面でも大きな変化を与えています。

この3つの文化時間の総和の上に4つ目の「現代的な時間」があります。

4つ目の文化時間は少しわかりにくいですが、現在進行系で形作られている「今この瞬間の文化」といえそうです。

筆者は、「混成の各要素はアジアのどこでも見つけられるが、文化的な時間の流れ方は各文化によって随分違う」といいます。

たとえばシンガポールは強烈な「未来志向」を持つ社会といいます。

1965年に独立するまで、そのほとんどの歴史が植地地としての歴史であるため、未来に目を向けるしかなかった。ただ、そのことが東南アジアにおける発展で群を抜く原動力になったと分析します。

これはつまり、4つの文化時間のうち、1つ目、2つ目の厚みがうすいため、3及び4つ目に集中できた、と考えられそうです。

異文化を理解するにあっては、「様々な文化時間が混ざった混成されたもので、その混ざり具合に注目することが有用である」ということを考慮することが有用ではないでしょうか。

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さいごに

本記事では文化人類学者である青木保氏の著書を元に、「異文化理解」について様々な視点から考えてみました。

異文化の深い理解は、インターネットで手軽に得られるものではなく、現地での慣習や生活を注意深く観察し、その国の歴史的背景や信仰、言語を学ぶことによってしか成し遂げられない。時間をかけて行う必要がある。そんなことが必要なのではないでしょうか。

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