シンガポールは中華系、マレー系そしてインド系など多くの民族により成り立つ多民族国家であり、外国人を多く受け入れる移民大国でもあります。
今回はそんな多民族・移民国家であるシンガポールの、人口問題について検討してみたいと思います。
シンガポールは、奇跡的な経済発展を成し遂げた国として世界に名高いです。「世界競争力報告」(世界経済フォーラム公表)や競争力ランキング(IMDビジネススクール)などで世界1位の評価を得ており、多くの国がシンガポールの成功要因を分析し、自国の[…]
シンガポールの高齢化問題
人口動態と経済、社会問題は密接に関わっています。
少子高齢化が現代日本における問題の大部分の引き金、たとえば年金問題、社会保障の負担、企業や社会におけるイノベーションの停滞などの原因となっていることに異論はないと思います。
シンガポールも、日本をしのぐ勢いで高齢化社会が進行しています。
JETROが2017年に行った調査によると、2016年の時点での高齢化率(国民のうち65歳以上の人口が占める割合)は12.4%であり、30年には24%に上昇すると予測されています。
日本の高齢化率は2020年時点で28.7%ですが、1990年の12%から2012年の24%まで30年かかっていすが、シンガポールは15年の短期間で進行します。
今後、シンガポールにおいても高齢者の支援が問題になることは間違いありません。
両親扶養法
この点、シンガポールでは「両親扶養法(The maintenance of Parents Act)」 という法律の規定により、子供が両親を法的に扶養することが義務付けられています。
「両親扶養法」では、「自助(individual responsibility)」、「 地域互助(community support)」そして、「政府による間接援助( Government subsideies)」という考え方から成り立っており、政府の援助はあくまで「間接」的とされています。
日本のように、国家が年金や医療保険、介護保険で支えることが原則になっているのとは対照的です。
CPF(中央積立基金)
また、年金は「中央積立基金(Central Provident Fund: CPF)」という制度で運用されています。このCPF年金制度は、日本のような賦課方式ではなく、積立方式をとっています。
賦課方式とは現役世代が支払った年金がその時点における退職世代へと支払われる制度です。
一方、積立方式とは自分が現役中に支払った年金は、将来自分で受け取ることができる制度です。
このため、現役世代の負担は日本に比べて軽く、シンガポールは高齢化が進むものの、社会保障という観点から見れば、社会システムに与える深刻度は日本に比べて低いといえそうです。
シンガポールの移民政策とその問題
1819年に大英帝国のトーマス・ラッフルズが発見した時点では150人しか住んでいなかったシンガポールは2020年には560万人まで増加しています。これは積極的に移民を受け入れてきたことが大きいです。
シンガポールは多民族国家であり、現在では概ね中華系70%、マレー系20%、インド系10%という割合になっています。
シンガポールの人口変動について精緻に調査された論文「都市国家シンガポールにおける人口変動の民族格差(2020, 菅桂太)」において、この比率は「出生率の相対的に低い中国系やインド系で入国超過が多いことが民族構成を維持している」と分析しています。
シンガポールの社会・政治システムは、この民族構成比率を前提に構築されていますので、比率の変動は社会的なバランスを不安定にする可能性があり、民族構成比率を維持することが望ましいと考えられます。
ここでいうところの「移民」は、シンガポール国籍及び永住権の取得を意味しますが、たしかに現状ではマレーシアの中華系はシンガポール永住権を簡単に得ることができるといわれています。
ところが、移民政策は今後不透明な面もあります。
シンガポールでは、2000年代後半に積極的な移民政策を展開するものの、長期的に継続することはできませんでした。
これは、急激な移民により交通渋滞や住宅価格、雇用環境悪化が引き起こされ、有権者の強い反対にあったためです。
そのため、今後移民を増やすことで人口構造を維持することは難しいと考えられます。
前出の論文でも、
置き換え移民によって人口構造を長期的に安定させるのは困難であり、出生率を回復させシンガポール出身者を増やすことが人口構造と社会経済の安定に重要
と結論づけます。
日本人を含む、シンガポール在住者の外国人でシンガポール永住権の取得を目指す方は多いですが、今後シンガポールの人口動態を踏まえた上で判断すべきかもしれません。
さいごに
経済の発展、国の繁栄のためには、多様性を取り入れてイノベーションを起こすことなしには不可能でしょう。
その点、外部から移民を受け入れる多民族国家であるシンガポールは繁栄の条件が揃っていたと言えます。
高齢化、移民制限が進むシンガポールが如何に現在の繁栄を維持するか、今後注目したいと思います。