2020年度のASEANにおけるフィンテック事情を総括したレポート「Fintech in ASEAN」が公表されました。
「Fintech in ASEAN」は、シンガポールのメガバンクUOB銀行、コンサルティング会社PWCとシンガポールフィンテック協会(SFA)の協力のもと、まとめられたものです。
UOB銀行
ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(United Overseas Bank Limited)。1935年にシンガポールで設立され、現在、ASEAN及び中国を中心に19カ国で事業を展開している。DBS銀行、OCBC銀行に並びシンガポール3大メガバンクの一角である。
ASEANのフィンテック事情については、Googleのデータを元にまとめられた報告書を紹介しましたが、今回は銀行の保有する情報から分析されているため、より資金的なデータのに裏付けられたものとなっており、ベンチャー投資や成長領域の観点で深堀りされています。
東南アジアにおけるデジタル経済を分析したレポートe-Conomy SEA 2020 Reportが公表されました。 このレポートは、戦略コンサルティング会社のベイン&カンパニー、シンガポールの政府系ファンドであるテマセク、そしてGoogl[…]
本記事では、本レポートのエグゼクティブ・サマリーを参考に、2020年度のフィンテック事情を紹介します。(以下、エグゼクティブ・サマリーの翻訳)
資金調達は低調であったものの、全体的には上昇基調
コロナの流行は、フィンテック企業の事業成長と顧客獲得を促したものの、キャッシュ・フローや利益の点では苦戦を強いている。
ASEANにおけるフィンテック投資は、2020年度において前年比で大きく落ち込んでいる。ただし、2018年度の水準は超えることができた。
シリーズ・C以降のレイトステージ(スタートアップ投資における、企業がある程度成長した段階における投資)での資金調達が大きくダメージを受けており、2019年は全資金調達における65%を占めていたものが45%まで落ち込んでいる。
生き残っているフィンテック企業が示唆するところは、アーリー・ステージ(スタートアップ投資における、初期的段階における投資)において点は、コロナはプラスに影響を与えているといえる。
起業を検討している者は、資金調達の見込みがあったとしても、現状のチャレンジングなマクロ環境においては状況を見極めるべく、様子見となっている。
シンガポールがリードする
ASEAN地域では、依然シンガポールがフィンテックにおける資金調達や投資のリーダ―であり、インドネシアが2番手に続いている。
シンガポールは、規制当局、B2B(企業間)ビジネス、資金調達機会の観点から有利であり、インドネシアは、多くの国民が銀行口座を有していないことから、フィンテック企業の事業拡大に有利に働くことが考えられる。
決済サービスが入り口
パンデミックが追い風となった事業領域は、決済、AI、データ分析、サイバーセキュリティである。
コロナがデジタル経済を促進し、ASEAN地域におけるフィンテック企業に、多くの機会を提供した。
ASEAN地域では、50%の人が銀行口座を有しておらず、24%が銀行口座を有していても、十分なサービスを受けていないため、潜在的な需要は大きい。
決済サービスが、フィンテック業界での最初の主要な事業領域である。保険テック(InsureTech)及びオルタナティブ貸出(alternative lending)もまた、コロナにより恩恵を受けた事業領域である。
オルタナティブ貸出(alternative lending)
既存の金融機関による融資に代替する融資方法。オンライン上で資金を調達するマーケットプレイス貸出(Market place lending)などが代表的。
コロナからの回復はK字型
ASEANにおけるフィンテック企業は、「K字型」の回復をとっている。
優良なフィンテック企業はベンチャーキャピタルから追加的な資金や支援を得ることができる一方、そうでない企業は低い評価を受けてしまう。
コロナからの回復局面において、今後18ヶ月以内にM&Aのトレンドが起きることが想定され生き残るフィンテック企業は、良いポジションをとることができるだろう。なお、現状では5社のうち4社の計画では、今後さらなる拡大を見込んでいる。
生き残りのためには
フィンテック企業が生き残るためには、多くのステップを踏む必要がある。
特に、内部プロセスのデジタル化、コア事業への集中、人財の確保、売上の成長、投資家への期待に応えることなどが重要である。
各国で提供される、コロナの影響への支援パッケージの利用も検討すべきである。
さいごに
コロナからの回復がK字型をとるというのは、フィンテック業界に限らず、多くの業種で該当しそうです。
資金力などの体力のある企業、コロナが追い風となるIT関係の起業においては、今後M&Aを通じて弱っている企業を救済合併していくことが考えられます。また、アフターコロナに有望と見られる業界には、今後資金が大量に流入することでしょう。
このことから、業績が急速に上昇していく企業がある一方、時代に合わない企業は苦戦を強いられるのではないでしょうか。
どの事業に注力するか、コア事業の見極めが非常に重要なタイミングにありそうです。
参考資料:Tech in ASEAN, UOB