シンガポールにおける日系企業の事業戦略の考察。

本記事では、シンガポールの強さの秘密と日系企業の事業戦略について、書籍「イノベーション大国―次世代への布石」から紹介したいと思います。

イノベーション大国―次世代への布石」は2017年に日系BP総合研究所から出版されたビジネス書で、

シンガポールで事業展開する大企業16社へのインビューより、シンガポールの事業環境や戦略について考察するという形式

となっています。

日本を代表する一流企業のシンガポールにおける最先端ビジネスについて取りあげられており、非常に興味深いものとなっています。具体的には以下のとおりです。


三菱重工業 最先端の都市交通インフラを世界に発信
NEC 世界最高レベルの整体認証技術でシンガポールの安全・安心を守る
パナソニック 最先端のFAMILY技術を導入して農業ビジネスに挑戦
日立製作所 社会イノベーションの実験場でビジネスを鍛える
三菱電機 水問題を得意技術でサポート
中外製薬 バイオポリスに創薬の研究拠点
富士ゼロックス 世界3極の研究所が連携し、革新技術をスピーディに事業化
デンカ ライフサイエンスの研究開発で今一番ホットなシンガポール
コニカミノルタ 外からイノベーションを取り込み「新たな価値を創造」する
ポッカ 多様なASEANに応じたビジネスモデルを展開
コーエーテクモ 周到な準備を重ねて現地へ進出
キッコーマン 「日本の伝統の味」にこだわり成長し続ける世界ブランド
シマノ 「和して厳しく」で世界に飛翔
昭和電工 磁気ディスク外板トップを遺児、高品質な生産技術に磨きをかける
牧野フライス製作所 IOTに対応した無人化向上で将来の人手不足に備える
セイコー SII初の海外研究開発拠点で高付加価値技術の確率目指す

本記事では、本書で上げられているシンガポールの強さの秘密について見ていきたいと思います。

シンガポールの強さの秘密

前回の「<シンガポールの驚異的発展>競争力ランク世界一位の秘訣について考察」においては、シンガポールの強さの秘訣は

1.能力主義

2. 優れた国内政策

3.イノベーション

4.人材活用

5.外交戦略

にあることを紹介しました。これはシンガポールの「国家として」の強さの秘訣でしたが、今回は、「ビジネス環境」の観点からの強さの秘訣です。ビジネス環境としてのシンガポールの優位性を考えた場合、

1. イノベーション

2.外資企業の誘致

3.実験場

4.アジア市場の足がかり

の4つの観点から説明することができます。

1.イノベーション

シンガポールの強さの秘密、まずはイノベーション大国であることです。

人口の小さな都市国家であるシンガポールは、

「国そのものがスマ―トシティの実験場」

となっており、政府主導でイノベーションを推進しています。

実際、2014年にシンガポール政府より

スマート国家戦略」

が公表され、この青写真によれば、IoTやビックデータなどの最新ICT技術の導入で、シンガポールが抱える高齢化などの社会問題を解決しながらさらなる発展を目指すことを打ち出しています。

外国企業も、半導体、エレクトロニクス、バイオ、化学など先端産業のトップ企業が拠点を構えてビジネスを展開しており、シンガポール政府も様々な観点から支援しています。

実際に、コーネル大学、INSEAD、世界知的所有権機関が発表する「グローバル・イノベーション・インデックス」2016年度では、

R&D投資や人的投資を意味するイノベーション・インプットがシンガポールは世界1位

となっています。(2019年度版では総合8位。1位はスイス、2位スウェーデン、3位アメリカ。日本は15位。)

2.外資企業誘致

シンガポールの強さの秘密、2点目は積極的な外資企業、外国人材の誘致にあります。

シンガポールの戦略は、

先端企業を持つ企業と優秀な人材を世界中から集め、イノベーションを起こさせること

です。このことを建国から50年間やり続けたことがシンガポールの今の成功につながっています。

現在では、起業家と大企業がマッチングする仕組みも成熟し、イノベーションが起こりやすくなっており、シリコンバレーのようなエコシステムが出来上がりつつあるということ。

シンガポールが外資系起業にとっても魅力であるため、自国企業と外資系企業を公平に扱うことや、外国人が住みやすい環境を整備するなど、政府による多大な努力の上に成り立っています。

外資系企業が事業活動をしやすい条件となっていることも、外国企業がシンガポールに進出後押しとなります。具体的には以下のようなものがあります。


・遵法精神が高い

・税制や会計制度がいち早くグローバル・スタンダード

・マーケティングやコンサルティングなど周辺サービス業が豊富に揃っている

・手厚い優遇税制が利用できる

・カントリーリスクが小さく、外国企業が不利とならない


 

3.実験場

シンガポールの強さの秘密、3つ目は「実験場」としての役割です。

シンガポールの最大の強みは、

イノベーションの「実証」から「事業化」に至るスピード。

そして、それを可能にしているのは政府の手厚い支援にあると本書は説明します。

天然資源も土地も人も少ないシンガポールでは、「情報」と「人」と「サービス」を売りにするしかなく、

アイデアや要素技術を「実証」し、スピーディに「事業化」するためのエコシステム

をつくり上げていきました。

「実験場」としての機能を最大限に高めたことから外国企業を誘致でき、イノベーションを起こすことにつながるという好循環が生まれていることが理解できます。

4.アジア市場の足がかり

シンガポールは、天然資源もない極小の国土ですが、唯一のメリットはその地理的位置にあります。

ASEANの真ん中に位置しており、インドネシアやフィリピン、インド、中国も取り込める世界市場の真ん中にあるという地理的優位性を生かして、シンガポールは

アジア市場の足がかり

としての役割を担うことができます。

日系企業がアジア市場に打って出るとき、まずはアジアの中心にあるシンガポールで経験を積むことは有力な選択肢になります。

世界のショールーム」を目指すことで、自国の価値を高めていく戦略を取り続けてきた。本書ではシンガポールの戦略をそう説明します。

シンガポールで事業を行う企業にとっては、世界向けて技術やシステムを売り込む絶好のビジネスチャンスになります。

また、シンガポールは、中華系はもちろん、マレー系、インド系、欧米系など世界中の多様な民族が居り、多様性に富んでいます。そのため、シンガポールで多様性に配慮したプロダクトやサービスを洗練させることで、多様性に満ちたASEANで成功する鍵となります。

シンガポールで事業展開する日系企業の戦略

それでは、日系企業はどのような戦略においてシンガポールで事業展開をすべきでしょうか。

本書では主に4つの方法があると説明します。

1.ASEANのインフラ需要を取り込むために活用

発展途上にあるASEAN各国ではインフラ需要が高止まりしているが、一足先に先進国となったシンガポールにおいてサステナブルな技術を実験し、ASEAN各国に売り込む。

2.先端テクノロジーのR&D(研究開発)拠点

最先端テクノロジーの研究開発(R&D)拠点をシンガポールに起き、ここで生まれたイノベーションをASEANそして世界に横展開する。

3.ASEANマーケットを取り込むためのマーケティング市場

ファッション、食、家電、美容、ゲームなど中産階級の増加によりASEANの消費市場は急拡大している。そのニーズをいち早くキャッチし、ブランドを浸透させる。

4.製造業高付加価値化

化学、機械や加工業など従来型製造業の高付加価値化の実験場とする。

今後のシンガポールの国家戦略

最後に、経済開発庁(EDB)のべー・スワンジン長官(出版当時)のインタビューを紹介します。

このインタビューでは、「シンガポールが成功した理由」と「今後のシンガポール政府の国家戦略」について語られてます。

政府の責任者からの国家戦略の提示は、今後のシンガポールの方向性を考える上で、非常に有益なものでしょう。以下に紹介します。

シンガポールが成功した理由

・法の統治が非常に強化されていること

テクノロジーを基盤にビジネスをおこなう企業にとってはとても重要なことであると考えている。

・シンガポール政府による支援

ASEANを中心とした地域のHQとして魅力的な国になるべく、多大な努力を払ってきた。住みやすく、魅力的な都市を作り上げる事に、シンガポール政府は尽力してきた。

今後のシンガポール政府の戦略

・アジア市場の開発に注力する企業を支援

「アジアの伸びゆく中間消費層」。そのニーズを取り込むことこそ、最も重要な成長機会である。

・アジアにおける「ツイン・ロケーション」戦略の最適地とする

ASEAN地域のハブとなり、情報、製品、資金を統括する拠点となる。域内に2箇所以上の拠点を設けることがリスクを分散する上でも重要な戦略。R&D、研究開発拠点についても、アジア地域を視野に入れた場合、シンガポールは国際的かつ優秀な人材にアクセスできる最適な立地である。

さいごに

本書「イノベーション大国―次世代への布石」から、シンガポールの強さの秘密と日系企業がとるべき事業戦略について概要を紹介しました。

本書は、日本を代表する企業16社の実例も細に入っており、シンガポールでどのような事業を展開すべきか、どのようなメリットを享受することができるかを検討する上で非常に参考になる内容となっています。

シンガポール進出を検討している企業は、本書を分析することで自社の進出戦略の一助としてみてはいかがでしょうか。

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