<シンガポールの驚異的発展>競争力ランク世界一位の秘訣について考察

シンガポール発展の理由

シンガポールは世界で最も経済的に成功している国の一つと言えます。たとえば、以下のランキングに見て取ることができます。


世界競争力報告(世界経済フォーラムWEF)

ランキング世界1位(2019年度、前年は2位)。「金融システム」、「マクロ経済の安定性」などで高評価。他、「革新性」や「労働市場」などが評価項目となっています。なお、日本は第6位。

世界競争力報告、日本6位に後退 シンガポール1位に

競争力ランキング(IMDビジネススクール)

ランキング世界1位(2020年度、2年連続1位)

政府の効率性、ビジネスの効率性、インフラなどに項目に対する統計データと経営者アンケートにより評価。シンガポールは、「技術的インフラの先進性」、「スキルの高い労働力の採用」、「ビジネスのための入国管理法」、「新規事業設立のプロセスの効率性」が高評価。なお、日本は36位。

IMD世界競争力ランキング


 

1965年創立された新興国であるシンガポールの国土面積は東京23区程度であり、いわずもがな天然資源に乏しい上、中国を筆頭に、インド、インドネシアなど大国に囲まれた極小国であるのにもかかわらず、なぜ世界一となるまで国際競争力を高めることができたのか、非常に興味深いところであります。

本記事では「シンガポール 賢い国家・賢い都市」を参考文献に、シンガポールの強さの秘密について考察したいと思います。

能力主義国家

シンガポールの強さの秘密について考える上でまず欠かせないのは、建国の父である「リー・クアンユー」の思想でしょう。

以下、本書より抜粋。

ファビアン社会主義とトインビーの思想「挑戦と応戦」に深く影響されたリーは、世界は常に変化しており、シンガポールは生き残るために絶え間なく革新的でなければならないし、イノベーションは幅広い社会福祉への関心と、自助の美徳への冷徹な評価を結びつけるものでなければならないと信じていた。そして全体的な視点と細かな専門知識とを両方持つことが重要だと強く信じていたが、これは建国当初よりシンガポールが賢い国家となるための実用的政策やダイナミックな意思決定プロセスに大きな足跡を残した

リー・クアンユーは、新興の極小国家が国際社会で生き残るためには、「賢くなければならない」ことを誰よりも痛切に理解していました。

実際、リー・クアンユー超・能力主義を掲げ、建国当初よりとてつもなく有能なブレーンに囲まれていたようです。

以下本書からの抜粋

いかなる議論であろうと、能力主義的でない反対は一切認めないということを基本とする、危険とも言えるほどのオーラを放つ有能で高潔なグループから構成されていた。特別なチームスピリット、各人が全体としてリーダーシップの効率を高めるような、補完し合う特質を持っていた。

このような徹底した実力主義の下でシンガポールは歴史を積み重ねてきており、現代においても国家のDNAに組み込まれた「超・能力主義」がシンガポールを世界最高の国としていると言えそうです。

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具体的に、シンガポールの強さの秘訣は「国内政策」、「イノベーション」、「人材活用」、「外交戦略」の4点から説明できます。

優れた国内政策

シンガポールが都市国家としてこれほどの成功を収めている理由として、優れた「国内政策」の立案と実行が挙げられています。

シンガポールは政府の強大な指導力とクリーンなイメージ、及びそのリッチなイメージから、「大きな政府」を志向する高福祉国家なイメージもありますが、実際は福祉予算や行政費用は驚くほど小さく、その代わりに教育と国防に大幅な予算を割り当てているとのことです。

このようなシンガポール政府の特徴として、「最小限」、「機能的」という2つのキーワードで説明することができます。

最小限 

政府に「最小限」の機能を付与することで、国家として賢く、革新的な技術を用いて、国家の問題に対処しています。

シンガポールでは、日本を含む欧米型先進国のように、年金や失業保険のような福祉の給付金制度を手厚くするよりもむしろ、教育や減税整備などを整備して国民が自分で解決できるようなツールを与えることに重きを置くシステムとなっているとのこと。

例えば国民年金である中央積立基金(CPF)、と失業保険の例で説明されます。

中央積立基金

中央積立基金(CPF)とは、シンガポール国民に納付が義務付けられる強制的な貯蓄制度です。CPFには住宅購入・投資、医療費用の口座があり、国民がヘルスケア、持ち家や老後資金を積み立てることで、財政の健全さを保ちつつ、国民の生活を守ることに成功しています。

失業保険

欧米型福祉国家では、セーフティネットのために失業保険や雇用保険制度を整えていますがシンガポールでは政府予算野政府の規模が大きくなるのを回避するため、、失業保険という概念を否定します。

その代わりに、雇用の創出、職業訓練、生産性向上、情報提供などのプログラム提供をし、労働者の自助努力を支援します。

機能的

シンガポールのもうひとつの特徴は「機能的」であるという点です。

シンガポールの公共機関は常に最新のテクノロジーを用いて、柔軟かつ創造的に国内外の問題に対処します。

特にシンガポールの公共機関は、「統合的なアプローチ」、「透明性の確保」、「能力主義」を採用することで、ガバナンス不全を効果的に防止しています。

1.統合的なアプローチ

ある課題にたいして、統合的に検討、組織横断的に協力し、考えて行動するということ。

2.透明性の確保

公共機関を政治と切り離すことで、透明性を確保。

3.能力主義

恩顧主義を排除し、実力本位で人材を採用。また、上位機関が連続的、体系的にレビューすることで非効率なアプローチは回避。

2.イノベーション

シンガポールが「賢い国家」となることができた2つ目の理由は、最新デジタル革命を積極的かつ効率的に活用する「イノベーション」にあります。

デジタル革命のイノベーションとして具体的には以下の取り組みが挙げられます。


・電子政府の徹底的な利用。運転免許証、輸出入許、起業書類の発行など、今日ではほぼすべての政府サービスがオンラインで利用可能。

・「Singpass」に代表される電子政府システムにより、国民はたった1つのパスワードを持つだけで60を超える政府機関にアクセスできる。国会図書館での本のレンタル、税申告、パスポートの申請などが可能。


世界の実験室

シンガポールは実質的に「世界の実験室」であると本書は解説します。

たとえば、シンガポールの食料自給売付はたった7%に過ぎませんが、それゆえに、官民協力による革新的な実験、都市における食料生産のための新しいテクノロジーの活用によって、食料安全保障を高めてきました。

 このような「世界の実験室」としての取り組みは、将来、発展途上国や先進国すらも、都市部における食料供給問題に対する解決策を提示することになるかもしれません。

このように、シンガポールはサイズは小さいものの、人類の問題に対し、政策設計ラボとして機能します。

人材活用

能力主義

前述のとおり、シンガポールは徹底的な能力主義を採っています。具体的には、以下のような方策をとることで優秀な人材の確保と能力開発に成功しているとのこと。


・優秀な若者を雇用し、省庁、法定機関、その他公共組織を活性化する

・縦及び世代間に渡るネットワークを育て、組織内コミュニケーションを改善する

・インセンティブの体系により、モチベーションを高めている

・年功序列ではない

・新しい視点を持つフレッシュな人材に注目を浴びるようなチャンスを与えたる

・より大きな責任を与えるために彼らを教育するリスクをいとわない


生産性の向上に乏しく、国力を減退させている日本とは真逆のシステムといえます。

移民政策

日本と同様、人口や出生率が低く、高齢化が進むシンガポールも深刻な労働力不足に直面しています。

この点、多民族国家のシンガポールは日本とは異なり、外国人労働者の受け入れで解決しています。実際、外国人労働者比率は1970年の3.2%から2010年には34.7%に上昇しているとのこと。

現国家元首のリー・シェンロンも、

国内における人材を育成することを経営者に奨励する一方、海外からの優秀な人材を歓迎し続ける

と明確にアナウンスしており、今後も外国から外国人を取り入れる事で国を成長させることが国家戦略となっています。

外交戦略

シンガポールは中国、インド、インドネシアといった巨大な軍事力を持つ超大国に取り囲まれているため、かなり厳しい地理的経済的な環境に置かれているといえます。

ところが見方を変えれば、このような隣国たちは莫大な人口と成長ポテンシャルを有しているため、将来の市場として有望であり、上手く関係を築いているシンガポールはかなり有望なポジションにいると言えます。

他国に敵対されたり、取り込まれることなく協力関係を築いている理由として、以下が挙げられています。


1.控えめな態度

2.強力な防衛能力

3.慎重なネットワーク構築

4.国際舞台における多大な貢献


このような外交における「シンガポールモデル」は世界のどこでも適用できるものであり、今後様々な国国が参考にしていくのではないでしょうか。

また、シンガポールは近年超大国としてのプレゼンスを高めている中国とも良い関係を築いていますが、その理由を以下としています。


・シンガポールは小さいために、他の大国ほど中国に地政学的な脅威を与えない

・文化的センスが近いこと

・組織的な強さが地政学的な制約なく柔軟に発揮されている

・中国の巨大な都市化問題に対応し、スムーズに解決する鍵を握っている


シンガポールは、地政学的にもアジアという世界で最も人口が多く、急速に発展している地域の中心に位置しており、国家としてクリーンなことからも世界の「ハブ」に最も適していると考えられます。

まとめ

建国から数十年で世界一の先進国に登りつめたシンガポール。

その成長の秘密は、建国の父「リー・クアンユー」の建国時の思想をDNAにもち、徹底した合理化と能力主義、イノベーションの推進、国内・外交政策に裏打ちされたもの。

低生産性問題、巨額の国家債務問題や高齢化など、機能不全に陥っている日本にとっても、解決策を提示してくれるまさしく「先端実験国家」といえそうです。

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