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アジア新興国の事業経営にはこれを読むべし。「アジア新興国マーケティング」。

自社の製品・サービスが本当に受け入れられるか?

海外進出にあたりまずはじめに考えることは、こんなことではないでしょうか。

海外進出の前に必ず行うべきことは、進出候補国のマーケティング・リサーチです。

進出に向けて、そもそもその国に製品・サービスの需要があるのかどのような戦略で進出すべきか、その情報を集めることが、進出の成否を左右する最も大事なファーストステップです。

特にASEAN新興国へのマーケティング・リサーチにあたり参考になる参考書籍が、

アジア新興国マーケティングーなぜ日本企業はアジアで苦戦するのか?

本書の著者は、マーケットリサーチ会社を経営する成川哲次氏。中国や東南アジアで豊富な実地調査の経験があるとのこと。実際本書では、ご自身の経験に裏打ちされたアジア新興国マーケティングの成功例をもとに、それぞれの国の最新事情と調査、分析のノウハウが数多く紹介されています。

本記事では、アジア新興国マーケティングの実情について、本書で紹介されている内容を中心に解説したいと思います。

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アジア新興国市場の多様性

アジアは文化や発展の度合いにおいて多様性に富んでおり、「アジア新興国」と一口にいっても、各国独特の商習慣や顧客嗜好をもっています。

そのため日本企業が各国の特徴を理解せずに日本と同じやり方で事業を行っても、成功することは難しいです。

具体的な事例として家電市場においては、ベトナムでは「機能面より低価格」タイでは「機能の信頼性」が重視される傾向があるようです。

アジアではすでに3万社を超える日本企業が進出を果たしているとのことですが、近年は諸外国との厳しい競争にさらされており、地域ごとのリアルな情報を掴み、その情報に基づいた適切なマーケティングを行うことが重要だと筆者は強調します。

アジア新興国における進出各国の戦略

著者は、アジア新興国では、欧米・日本・中国・韓国・ローカル企業の間で棲み分けが進んでいると分析します。

わたしの解釈ではおおまかに以下のような戦略かと理解しました。

欧米企業:ブランド戦略

1960年代に日本企業に主役の地位を追われ、富裕層ターゲットへと戦略転換。新技術、デザイン、環境配慮などを強みとする。

中国企業:低価格戦略

2020年代から急速に事業を拡大。「大量生産」「安価」という力技で勝負。

韓国企業:若者・貧困層マーケティング戦略

母集団の多い若年層や貧困層マーケットをターゲットに捉える。

ローカル企業:中国・日本の模倣戦略

徹底した安価と、地元の強固な販路で勝負。ただし、ローカル市場のシェアは伸び悩む。

欧米企業から主役の地位を奪った日本は、今度は中国・韓国他、アジアの新興国企業に追われる立場となっているのは周知のとおりです。

個人的には、日本企業が今後進むべき戦略は、「高品質とリーズナブルな価格」をかけあわせた、ただし虚飾のブランドイメージに頼らない、「高信頼」製品戦略なのかな、と考えました。

マーケティング展開に必要な基本的要素

著者によると、マーケティング戦略においてなによりも重要な要素は、「事実 =正確な情報」であるといいます。

そして、その情報を収集する順序は以下とのこと。

①進出先の市場規模の把握

②市場のコンペティター・競合他社の調査

③販路の確保

市場のマクロ環境を理解し、競合を理解し、いけると判断したら販路を確保する。

ある意味当然な流れですが、多くの企業はこの3点の調査が不十分であったため海外進出で思ったような成果が出せないということになっているのではないでしょうか。

実際、海外での業務に長く携わるわたしの個人的な体験としても、企業にとって、海外進出は新しい航海に出発するような高揚感があり、冷静な市場の調査・分析がおろそかになっているケースを数多く見てきました。

海外に進出してマーケットを拡大し、利益を獲得するのが本来の目的であるのに、海外に出ることが目的となってしまっているような企業です。

著者は調査会社を経営しており、データ収集の専門家ですが、特に魔法のようなものを使うわけではなく、公開情報を地道に重ねていくという方法を取ると紹介されています。

新興国マーケティングは、このような地道な努力と、鋭い洞察が求められるのかと思います。

さいごに

本書では、新興国マーケティングにおける「情報」の重要性について度々強調されていました。

著者は以下のように強調します。

いまや伸び盛り、国民一人ひとりの生活や経済状態から始まり、社会環境や国ごとの国際関係までが急変しつつある東南アジア新興国各国では、以前にも増して情報の価値は格段に高くなっています。適切な情報を確実に集め、正しく利用することが ASEAN地域でのビジネスの成否にダイレクトにつながるのです。

アジア新興国は人口が若く、また人口増加に伴い経済成長も急速です。このような状況のなか、現地のリアルは刻一刻と変化しており、最新のリアルな情報に基づいて経営判断することが重要になります。

本書では、アジア新興国マーケティングの実際が、多くの日本企業やアジア企業の実例をもとに解説されています。また、アジア各国の状況についても丁寧に解説されており、すでに進出を果たしている日本企業にとっても、これから進出しようとする企業にとっても参考になる内容となっています。

アジア新興国でのマーケティング戦略立案に当たり、ぜひ事前に一読すべき内容だと思います。

アジア新興国マーケティングーなぜ日本企業はアジアで苦戦するのか?

目次

第1章 アジア新興国へ進出するも撤退を余儀なくされる日本企業の現状

第2章 なぜ日本企業は後れを取るのか?

第3章 アジア新興国で事業展開するために日本企業がすべきこと

第4章 アジア新興国進出に成功している企業に学ぶマーケティング戦略

第5章 調査外車の活用で緻密な市場調査を実現

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