シンガポールは他の先進国に比べて、ユニークな金融政策を採用しています。
先進国の金融規制当局、例えば米国のFRBや日本銀行の役割は、通常、①政策金利の調整、②市場への資金供給量調整(QE、QTなど)です。
一方、シンガポール金融庁(MAS)の金融政策の中心は為替政策となります。
シンガポールの経済ニュースを理解する上で、シンガポールの金融政策を理解しておくことは非常に重要です。
当記事では、シンガポールの金融政策の概要について解説したいと思います。
当記事では、四半期ごとにシンガポール金融庁(MAS)から公表されるシンガポールの金融政策についてアップデートしています。 シンガポールの金融政策について シンガポールの主な金融政策は、為替レートの調整です。通常[…]
シンガポールの金融政策の概要
シンガポールの金融政策は、主に為替レートを操作することです。
シンガポールは自由経済である一方、その経済規模が小さいため、通貨投機などで為替が乱高下してしまうリスクが大きい。その一方で、グロスの輸出及び輸入金額は、国内総生産(GDP)の300%を超え、貿易が重要な経済活動となっています。
そこで、政策金利のコントロールよりも直接為替をコントロールするほうが為替の安定化を図ることができ効率的なことから、シンガポール金融庁はその金融政策の中心を名目為替実効レートの操作に置いています。
シンガポールの政策為替レート「S$NEER」とは?
シンガポール金融政策の目標となる名目為替実効レートは「S$NEER」と呼ばれます。S$NEERは、毎年4月と10月の半期ごとに調整されます。
「S$NEER」は、主要な貿易国の通貨を貿易量で加重平均する通貨バスケット制度を採用していますが、その構成通貨、構成比率については公表されていません。これは、主に内訳を不明としておくことで他国からの通貨投機を防ぐためです。
「S$NEER」は①政策バンド、②スロープ、③レベル、の3つの要素から構成されています。
政策バンド
「S$NEER」において、政策バンド(policy band) が決定され、為替レートはこの政策バンド内を変動することになります。
政策バンドの幅が広い場合は、短期における為替レートの変動を許容することを意味し、より厳密な為替レートのコントロールが必要な場合は、政策バンドを狭めることとなります。
スロープ
「S$NEER」を決定する2つ目の要素がスロープ(傾き、Slope)です。
傾きが右肩上がりの急なスロープは、シンガポール高への誘導、金利は低下傾向となり、逆に右肩下がでは、シンガポール安、金利の上昇傾向となります。
下図のように、2022年〜2023年にかけては強いシンガポール高誘導でとなっていることが見てとれます。
レベル(中央値)
S$NEERの最後の要素が、政策バンドのレベル(中央値)。中央値を調整することでスロープの上の変動を待つことなく、即座に為替を変動させることができます。
さいごに
シンガポールにおける事業運営や投資において、シンガポールの金融政策を理解することが非常に重要です。
シンガポールの名目為替実効レートは「S$NEER」を理解することで、シンガポール経済の動向を理解することができます。
また、為替は相手国の状況もあるものの、今後のシンガポールドルの動向を推測することが可能となるかもしれません。
今後、S$NEERを意識してシンガポール経済のニュースを見てみてはいかがでしょうか。
参考資料:
https://www.jetro.go.jp/world/asia/sg/trade_04.html
https://www.mas.gov.sg/monetary-policy/past-monetary-policy-decisions