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【書評・レビュー】ジャパニーズ・ディスカウントからの回復 日本企業再生の処方箋。

日本の地盤沈下が止まりません。

外資ファンドの草刈場となってしまった東芝、シンガポールの合弁企業に軒を貸したら母屋を取られた日本ペイント、液晶パネルの未来を読み損ね台湾企業に買収されたシャープ

日本を代表する企業の凋落の例は、枚挙のいとまがありません。

どうしてこのような自体に陥ってしまったのか。日本企業がかつてのように世界で輝くためにはどうすればよいか。

この問題について、一つのアイデアを提言してくれるのが、2022年10月に発表された「ジャパニーズ・ディスカウントからの回復 日本企業再生の処方箋」。

著者である野澤英貴氏はデロイトコンサルティングの執行役員パートナーであり、コンサルタントとしてかかわったグローバル企業への豊富な経営支援を通じて培った知見・経験を下に本書をまとめています。

本記事では「ジャパニーズ・ディスカウントからの回復 日本企業再生の処方箋」において主張されている、日本企業がディスカウントされている最も重要な考え方、及びその対処法について紹介したいと思います。

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日本企業がグローバル市場で苦戦する理由

本書において、著者は「緩やかな日本企業の衰退、地盤沈下は日本企業の独特の要因がある」と述べます。

これこそが「ジャパニーズ・ディスカウント」の状態。

ディスカウントといえば、経営学上有名な概念として「コングロマリット・ディスカウント」があります。

コングロマリット・ディスカウント」とは、

多くの事業を抱える複合企業の企業価値が、事業ごとの企業価値の合計よりも小さい状態。企業規模が肥大化するに従い、規模の経済が徐々に働くなり、経営効率が著しく悪化すること

をいいます。

日本企業はコングロマリット・ディスカウント以上に「ジャパニーズディスカウント」とも言えるべき日本特有の経営上の問題があり、このことが近年の日本企業のグローバル市場での急激なプレゼンス低下や競争力の低減の原因ではないか。

これこそが筆者の強い問題意識になっています。

ジャパニーズ・ディスカウントをもたらす原因

大半の日本企業が、いまだに高度成長期と同じ成功体験が通じると考え、従来のアプローチでビジネス拡大や新規事業開拓を進めています。

このことが経営不効率を引き起こし、「ジャパン・ディスカウント」の状況を生み出していると説明されています。

そして筆者は、「ディスカウント」状態の克服に具体的にすべきことは「」に注目することだといいます。

」とは、各事業や地域、様々な戦略さらには企業分化やビジョンなどひとつの企業体が内に内包するあらゆる要素間で生じる、ギャップ、課題をいいます。

コングロマリット化によって指数関数的に拡大する「溝」にディスカウントの真因が潜んでおり、この「溝」に対処することでジャパニーズ・ディスカウントを解消することが急務であるとを提言します。

ジャパニーズ・ディスカウントへの対処法

このジャパニーズ・ディスカウントへの対処法として、筆者は3つの原則を提案します。

 

・「体型を絞る」
・「頭から足指の先まで神経をつなぐ」
・「とにかく動き続ける」

 

「体型を絞る」とは、事業ポートフォリオをスリム化することで「溝」を解消すること。

「頭から足指の先まで神経をつなぐ」とは、社内外へのパーパスやビジョンの浸透を通じて、意思疎通・連携をシームレスにすること。

そして「とにかく動き続ける」とは、辛抱強く変革を継続すること。

上記の3原則を達成するためには、「サステナビリティ」と「デジタル」が不可欠で、投資のスケール(Scale)、実行のスピード(Speed)、失敗(Sippai)を恐れないマインドセットの「3つのS」を意識することが重要であると説きます。

さいごに

本書は、最近のグローバル日本企業の問題点を「溝」という視点からあぶり出した非常に骨太なビジネス書でした。

当記事では概要しか紹介出来ていませんが、より具体的な「ジャパニーズ・ディスカウント」の解消手順や、日本企業(日立製作所、ソニーグループ)や外資ベストプラクティス企業(シーメンス、シュナイダー)の企業分析、日本企業復活へのシナリオなどが解説されています。

内容はテクニカルかつ専門的ですので、本当に理解するには何度か繰り返し読むと良いのではないでしょうか。

グローバルで苦戦している日本企業が「ジャパニーズ・ディスカウント」の状況から脱し、日本人として世界に誇れる日本企業が数多く復活してくれることを見守りたいと思います。


ジャパニーズ・ディスカウントからの回復 日本企業再生の処方箋

序章 日本のコングロマリット企業の未来に向けて

第1章 ジャパニーズ・ディスカウントへの懸念

第2章 いま、グローバル市場で日本企業がどう見られているか

第3章 ジャパニーズ・ディスカウントを生み出す負のメカニズム

第4章 コングロマリット成功企業に学ぶ

第5章 ディスカウント課題解決のポイント

第6章 日本企業復活のシナリオ

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