シンガポールでは日本の消費税制度に該当するGST(Goods and Service Tax)が適用されており、原則7%の税率となっています。
GSTは課税の対象となる物品やサービスが詳細に決められており、取引時には注意が必要な税金となります。
特に、目に見えない取引対象である「サービス」について、デジタル経済の進展により、取扱が複雑になっています。
今回は、シンガポール国外からシンガポール内の会社や個人に提供される「輸入サービス(Imported Services)」について概要を解説したいと思います。
日本において、消費税率の引き上げは何かと話題になりますが、シンガポールにおいても同様の税制があります。その名もGST(Goods and Service Tax)です。 日本の消費税と同様、シンガポールのGSTも、物品・サービスの付加価値[…]
GST税率の引き上げ(2022年税制改正)
2022年2月18日に公表の税制改正により、GST料率について、従来の7%から2023年1月1日より8%、2024年1月1日より9%に引き上げられることがアナウンスされました。詳細はリンクをご参照ください。
2022年2月18月にシンガポールの国家予算及び税制改正の2022年度版が公表されました。 当記事では、2022年税制改正の主な内容について解説したいと思います。 (2021年度の税制改正はこちら参照) [sitecard[…]
輸入サービスに係るGST課税の概要
原則としてGSTは、シンガポール国内で消費される物品、サービス(のうち課税対象取引)について課税されます。
そのため、2020年1月1日以前は、シンガポール国内のサービス提供者によるサービスがGST課税の対象となる一方、シンガポール国外のサービス提供者によるサービスは非課税という取扱いでした。
この点、国内サービス事業者と国外サービス事業者の公平性を保つ観点から、2020年1月1日から輸入サービスについても一定のGST課税がなされるよう、以下の取扱いが施行されました。
・輸入デジタルサービスのB2C事業者については、海外事業者登録制度(Overseas vendor registration regime)を適用する
B2B事業者とは、シンガポール国内のGST登録事業者に対してサービス提供する者をいいます。GST登録事業者には、会社やパートナーシップ、個人事業主などが該当します。
B2C事業者とは、GST登録をしていない者に対してサービス提供をする者をいいます。GST登録をしていない者には、GST非登録会社のほか、個人も該当します。
さらに、2021年度の税制改正案では、2023年1月1日以降、B2C事業者のデジタル以外の輸入サービスについても、海外事業者登録制度(Overseas vendor registration regime)を適用し、GST課税の対象に入ってくることが公表されています。以下具体的に見ていきたいと思います。
2021年2月16日に2021年度シンガポール国家予算案が公開されました。当法案の中で税制改正についてアナウンスされています。 当記事では、2021年税制改正について日系企業に影響のある主な項目について紹介したいと思います。 […]
B2B事業者の輸入サービス:リバースチャージ制度
国外のB2B事業者がシンガポール国内の会社等へサービスの提供を行う場合は、サービスを受ける者がGST登録事業者である場合と、そうでない場合で取扱が異なります。
サービスを受ける者がGST登録事業者である場合
以下に該当するGST登録事業者にはリバースチャージ制度(Reverse Charge)が適用されます。
2.GST登録事業者である非営利のチャリティやボランティア福祉団体
「部分免税のGST登録事業者」には、IRASのガイドラインに”Reguation 34 businesses”として例示規定されていますが、金融機関やリース会社、保険会社などが該当します。
リバース・チャージ制度では、海外事業者から提供を受けたサービス(輸入サービス)に係るGSTについて、サービス提供者としてのOutput GST(仮受消費税)を計上し、一方でサービス受領者としてのInput GST(仮払消費税)を計上します。(一部サービスについてはリバース・チャージの対象外となります。)
要は、仕入者として支払ったGSTと、販売者として受け取った(と想定する)GSTを両方会計計上し、納税する必要があるということです。
これは、シンガポール国外の事業者は原則としてシンガポールでGSTを納税する義務がないため、サービス提供を受けるシンガポール国内の事業者等が代わりに納税するというようなイメージです。
サービスを受ける者が、上記に該当しないGST登録事業者である場合は、リバースチャージ制度は適用されないため、輸入サービスのGSTに関して特に処理は不要です。
サービスを受ける者がGST登録事業者ではない場合
輸入サービスの12ヶ月間合計が1百万シンガポールドルを超える場合は、GST事業者としての登録が必要になります。
この場合、上記の1及び2に該当する事業者である場合はリバースチャージ制度が適用されますが、そうでなければ特に処理は不要です。
B2C事業者の輸入デジタルサービス
次に、国外のB2C事業者シンガポール国内の会社や個人等にサービス提供を行う場合は、2020年1月1日以降、以下の条件に該当する場合に海外事業者登録制度(Overseas vendor registration regime)に従い、国外B2C事業者がシンガポールにおいてGST事業者登録することが求められます。
2.シンガポール国内の顧客に対して、10万シンガポールドルを超えるデジタルサービスを提供している
GST登録事業者となった場合、シンガポール国内の顧客に対するデジタルサービスの提供について、GSTの課税及び納付が必要となります。
B2C事業者のデジタル以外の輸入サービス
2021年度の税制改正案により、2023 年1月1日以降、B2C事業者のGSTに関する海外事業者登録制度(Overseas vendor registration regime)は、デジタルサービス以外の輸入サービスにも拡大する予定です。
デジタルサービスと非デジタルサービスは、遠隔サービス(remote services)として整理されます。
・ダウンロードできるデジタルコンテンツ
・メディアのサブスクリプション
・ソフトウェアプログラミング
・クラウドストレージなどの電子データ・マネジメントサービス
非デジタルサービスの例
・投資アドバイスやコンサルティングなど専門家サービス
・オンラインカウンセリング、遠隔医療などのパーソナル・サービス
・教育試験サービス専門家機関のメンバーシップ
シンガポール国外からの遠隔サービス(remote services)の提供事業者で以下の基準に該当するものは、海外事業者登録制度(Overseas vendor registration regime)に従い、シンガポールでGST事業者登録をする必要があります。
2.シンガポール国内の顧客に対して、10万シンガポールドルを超える遠隔サービスを提供している
電子マーケットプレイス運営者
2020年1月1日以降、特定の状況において、電子マーケットプレイス運営者(electronic marketplace operator)は、シンガポール事業者または海外事業者に関わらず自社のマーケットプレイスを通じた海外事業者のデジタルサービスの供給者とみなされる場合があります。
GST事業者登録義務を判定するにあたり、マーケットプレイスを通じたデジタルサービス提供金額を含める必要があります。
GST登録事業者に該当する場合は、自社のマーケットプレイスを通して行われたB2Cのデジタルサービスについては、自社がシンガポールの顧客に対して直接供給したデジタルサービスに加えて、海外供給者が提供したサービスについても代表してGSTを課税し、納付する必要があります。
2023年1月以降は、デジタルサービス以外の遠隔サービス(remote services)についても、上記の規定が適用される予定です。
詳細な論点ですので、該当しそうな事業者はGST納税の義務について慎重に検討する必要があります。