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海外で結果を出すのに必要な駐在員の能力・スキルは?

毎年、多くの会社が社員を海外に駐在させ、海外市場の攻略に挑みます。

海外に赴任した社員の中では、目覚ましい成果を出す人もいれば、めぼしい成果もなく帰任となってしまう人もいます。

このような、「海外で結果を出せる人とそうでない人の違い」は何に原因があるのか?

これはすべての駐在員に興味深い論点ではないでしょうか。

この問いにヒントを与えてくれるのが、「海外で結果を出す人は「異文化」を言い訳にしない」。

著者の高橋亨氏は、イランとベルギーでの合計11年に及ぶ駐在を経験し、その後グロービズのビジネススクールで戦略立案、講師等を努めています。

本書では、自身の海外での経験が、ビジネススクール流に体系化されており、これから海外に駐在する人、既に駐在している人にとって有益な内容となっています。

著者は、「海外で結果を出す人と、出せない人がいるが、その違いはなにか?」という問いにたいして、

海外で結果を出す人は「異文化」を言い訳にしない

という結論に至っています。

著者は、最初の赴任地であるイランで、その国の文化や慣習をどれほど勉強し、研究しても、結果に結びつかないように感じていました。

しかし、試行錯誤を経て、「結果が出ないのはイランだから特別に起こっているわけではなく、どの国でもこりうる、普通のビジネス上の課題と捉えるべきではないか?」との考えに至ります。

つまり、海外で成果が出ない人は、「異文化にとらわれすぎて、問題の本質を見失っている可能性が高い」ということです。

筆者は、駐在員が海外で直面する困難は「4つの壁」によると主張します。

当記事では、本書の中で紹介される「海外で直面する4つの壁」と「その壁の乗り越え方」について紹介したいと思います。

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海外で直面する4つの壁

海外駐在員が海外で直面する壁には、次の4つがあります。

1.経済やビジネスの「発展段階」の違いによる壁

特に新興国、アジア諸国で直面するのが「発展段階」の違いによる壁です。

日本のような成熟したビジネスシーンと、発展途上国では、営業やマーケティング、組織運営などが異なります。

海外に駐在に来る日本のビジネスパーソンは日本での業務しか経験しておらず、新興国における事業遂行を誤る可能性があります。

本書の例では、ベトナムにおいて取引企業の予測や計画がいい加減であり、計画通りに進めないという例が紹介されています。

この場合、成長著しい途上国においては事前の予測はあまり役に立たず、そのときの状況におうじて臨機応変に対応する能力が求められます。

ところが、これを「異文化による違い」と捉えてしまうと、発展途上国の人はルーズであるから、ということで片付けられてしまい、本質的な問題の解決に繋がりません。

2.自身がカバーする「ビジネス領域の違い」による壁

2つ目の壁は、「ビジネス領域の違い」による壁です。

日本の大企業では、社員は仕事の機能や役割が細分化されているのが通常です。営業担当は営業を、製造なら製造を、という具合です。

ところが海外駐在では、日本にいたときよりも広い役割を求められ、責任の範囲も広くなります。

異国の地で不慣れな仕事を任される結果、うまくいかないとそれが異国の文化に起因していると感じてしまうおそれがあります。

3.「組織での役割」の違いによる壁

3つ目が「組織での役割」の違いによる壁であり、これは日本人駐在員が海外では役職が1〜2段階上がり、部下を持ったことがない人がマネージャーを任されたりすることに起因するものです。

外国人部下を動かすのはただでさえ外国語で指示が伝わりにくいのだから日本よりも丁寧に説明する必要があります。

本書では、お互い外国語でコミュニケーションする場合は、36%程度しか伝わっていないというアイデアが紹介されています。

聞く方も話す方も60%程度でしか伝わらないため、60%×60%の36%程度ということです。そのため、外国人とのコミュニケーションは「3倍努力する必要」があります。

4.持っている「文化」の違いによる壁

これが一般的に言われている国や民族の違いによる文化的な違いの壁です。

他国の文化的背景を理解して、自国との違いに注意してコミュニケーショが円滑に進むように務めなければなりません。

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上記のように、海外で事業を行うにあたっては、「文化の違い」以外でも3つの壁が存在しており、その4つの壁が複合的に絡み合っている場合もあります。

そのため、海外事業で起こっている問題を適切に理解するためには、「そのトラブルは本当に文化の違いから来ているのか」と常に自問自答しながら冷静に解決策を見出す必要があると著者は主張しています。

4つの壁を乗り越えるには

本書では、この4つの壁の乗り越え方についても示唆を与えてくれています。

この4つの壁を乗り越えるためには、以下の能力を身につけることが重要です。

1.自己理解
2.特定のビジネススキル
3.リーダーシップ

1.自己理解

海外でのビジネスは、「会社」としてではなく、「個人」として取引相手とパートナーシップを深めなければ事業を円滑にすすめることができません。

そのためには「個」としての自分自身を理解し、相手に伝える必要があります。

海外駐在員は、相手の研究を深く行う人は多いものの、自国や自社について理解していないケースが多いです。ところが、外国人で相手は、日本人担当者のユニークさや会社の強みの情報が欲しいものです。

そのためには、深い自己理解が必要となります。

2.ビジネススキル

海外駐在員が成功するためには、そのための特別なスキルを高める必要があります。本書では、以下の能力が重要であると指摘されています。

本質を見抜く力

海外拠点は、本社に比べて十分なリソースが少ないため、目の前の問題をすべて対処することは不可能です。そのため、海外駐在員にとって「どの問題を取り上げるか?」を判断する力が現場で求められます。

クリティカル・シンキング

クリティカル・シンキングスキルについては海外事業に限った話ではありません。

ただし、海外は不確実性が高いため、「わからないけど、おそらくは、こういうことではないか?」との仮説思考が大事です。クリティカル・シンキングについては本書で詳述されていますが、おおまかに言うと、次の手順で進めます。

1.イシューを特定し、
2.枠組みを定め、
3.主張を明確にする。

マクロ・トレンドを読む力

海外市場を理解するためには、「マクロ・トレンドを読む力」が求められます。

担当市場の動向について現地の情報から先読みし、本社に伝えることが求めれます。

著者は「鳥の目」と「虫の目」による情報収集を勧めています。

鳥の目」では、経済指標や生活指標、各産業の景気動向などの計数的な変化など、
高い視座から全体感を掴みます。

一方、「虫の目」では、日々の生活などミクロの活動から情報を得ます。どこか特定の場所などで「定点観測」することが有効です。

事業全体を捉える力

CEO目線で事業を捉え、ビジネスモデルを理解する能力が有効です。特に、会計、財務、税務などのカネ系の知識を身につけることが有効です。

3.リーダーシップ

3つ目はリーダーシップです。

本書では、「グローバルで活躍するリーダーについて、どう考えるか?」という問いに対する著名なジャーナリストで元NHKワシントン市局長である日高義樹氏の言葉が引用されています。

いかに個人としての関係が作れるかだ。つまり、世界のどこへ行っても、個人としての人間関係が作れるかが問われている。会社対会社、組織対組織の関係なんて、たかがしれている。個人対個人の関係を現地の人達と作ることができる能力があるか?それが重要だ。

この際、リーダーとして、個人としての関係を築くためには、「ギブ&ギブ」で徹底的に相手に貢献することが重要とのこと。いいヤツとの評判が得られないと、ネットワークが築けないためです。信頼は一朝一夕にはならず、地道に積み上げていく必要があります。

また、最後は「主観的な判断力」が必要であり、「最後の主観的判断を行う立場であることが、リーダーがリーダーたるゆえんである」といいます。

海外という不確実性の高い状況で、「リスクを負うことができるという勇気」がリーダーたらしめます。

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さいごに

海外駐在では、日本では考えられないような様々な困難に直面します。

本書は、その原因が何かを分析するのに有益なフレームワークを教えてくれます。また、駐在員が身につける能力についても、海外駐在員の具体例を交えて詳細に説明してくれています。

海外駐在員、また今後海外に出ていく社員の教科書として本書を読むことをおすすめします。

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