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【海外進出戦略】進出国を選ぶ際に有用なフレームワーク『CAGE理論』。

海外進出に成功している企業は多いとは言えないのではないでしょうか。

企業が海外に進出する際に、その国の潜在的な市場規模に目が行ってしまい、前のめりになってしまうケースも見受けられます。

このような失敗を防ぎ、客観的に海外進出の成功を目指すフレームワークに『CAGE理論』があります。

CAGE理論は、ハーバードビジネススクールのパンガジュ・ゲマワット教授が構築した海外市場のポートフォリオ分析理論です。

今回は、この「CAGE理論」を参考に海外進出戦略について考えてみたいと思います。

CAGE理論で考慮すべき4つの項目

CAGE理論とは、2カ国間の固有性やへだたりを理解するためのフレームワークです。以下の4項目の頭文字をとっています。

Cultural :文化

Administrative:政治

Geographic:地理

Economic:経済

この4項目において、自国と対象となる国の間にどれだけの「距離」があるかを分析します。

それぞれ簡単にみていきましょう。

1.文化の距離

文化の距離は、言語や民族性、宗教などの違いによる影響を受けます。マスメディア・エンタテイメント、食品業界などは、「文化の距離」が重要となってきます。

たとえば食品における宗教上のタブーはわかりやすい例ですが、他にも国によって異なる「色」のイメージなども重要になってきます。

2.政治の距離

政治の距離は、国家間の政治的関係、社会制度、通貨などの違いによる影響を受けます。安全保障に関する産業、天然資源や建設など国家インフラに関する業界では「政治の距離」が重要となってきます。

最近の米国によるHuawei製品の輸出規制はこの「政治の距離」による隔たりの例といえそうです。Huaweiの製品は5Gに関する米国の戦略物品である上に2020年代の重要な国家インフラ、さらには米中の政治的な緊張間もあいまって、この「政治の距離」により事実上HUAWEIの米国ビジネスは成り立たなくなっています。

3.地理の距離

地理の距離は、2国間の物理的な距離や対象国の交通、通信インフラ、海や川、山などの移動に影響を与える自然環境の影響を受けます。輸送コストの高い鉄鋼・資源業界、貴金属業界やサプライチェーンの整備が必要な小売業界などでは「地理の距離」が重要になってきます。

まずは物理的に相手国が遠い場合は、比例して輸送費が増大することから、地理の距離は大きくなります。また、発展途上国では国内のインフラも整備されていないため、どんなに潜在的な市場規模が大きくても海外進出はためらわれます。

4.経済の距離

経済の距離は、その国の所得レベルや原材料の調達コスト、事業運営コストなどの違いによる影響を受けます。所得水準により需要が変わる自動車や家電・エレクトロニクス業界などは「経済の距離」が重要になってきます。

「CAGE理論」をシンガポールに当てはめると?

私見になりますが、シンガポールが建国から60年で世界で最も成功している経済国家の一つとなった理由も、このCAGE理論で説明できるのではないでしょうか。

シンガポールは人口530万人程度とマーケットとしては非常に小さいです。また国土が小さいため人的資源、物的リソースが限られていることから、事業運営コストが非常に高くなっています。

そのため、進出企業としては魅力的ではないように思われます。

ところが、CAGE理論における「4つの距離」を見ていくと、海外進出先としてのシンガポールの魅力が浮かび上がってきます。

シンガポールの「文化の距離」

シンガポールは華僑(中国)、マレー(イスラム)、インド(ヒンドゥー等)の3つの宗教・文化に加えて英国植民地からの欧米文化も加わっており、ほぼすべての主要文化圏の色を持っています。

また、多国籍企業を誘致することで、欧米文化や日本文化も入ってきており、特定の文化の色合いはかなり薄くなっています。

進出企業にとって、文化的な個性に対するハードルが他の国に比べて低いといえるでしょう。

シンガポールの「政治の距離」

また、「政治の距離」については、事実上の一党独裁ではあるものの、外国に開かれた政治であり、あらゆる国と友好的な関係にあるように思えます。

米国、中国の二大国どちらともうまくビジネスをしているのは、絶妙な政治バランスといえます。

シンガポールの「地理の距離」

「地理の距離」はどうでしょうか。シンガポールは建国時にすでに海に囲まれていた上に、中東・アフリカと太平洋をつなぐ位置という絶妙な地理的ポジションにあるという幸福に恵まれています。

更には国内の交通インフラや事務的手続のスピード感を最大限高める努力をしています。

渋滞を防ぐために車の総量規制をするなど、他国では見られないような政策をみても、「地理の距離」の重要性を深く理解していることがわかります。

シンガポールの「経済の距離」

「経済の距離」については、上述のとおり、シンガポール国民の所得水準は高いものの、人口規模が小さく、また事業運営コストが高いため、かなり不利となります。

ところが、シンガポールはアセアン市場を自国の「経済の距離」に取り込んでいるように思えます。

つまり、税制や航空インフラを整えることで、膨大な人口をかかえるASEAN諸国に対するアクセスを容易にするという戦略です。

アセアン子会社からの資金還流を無税(または低い税率)にすることでアセアン統括会社設立をシンガポールに誘致するなどが例としてあげられます。

また他の3つの「距離」が低いことを利用して、アセアン進出の玄関、または実験場として自らを定義して外国企業を呼び込んでいます。

このように、シンガポールはCAGE理論でいうところの「4つの距離」をすべて兼ね揃えており、今後も魅力的な海外進出国のひとつであり続けるのではないでしょうか。

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さいごに

海外進出国の選定にあたっては、第一に、潜在的な市場の規模と投資コストという「経済の距離」を、第二に、輸送やサプライチェーンコストなどの要因となる「地理の距離」を重要な考慮事項としがちではないでしょうか。

ところが、「文化の距離」「政治の距離」についても海外進出の成功においては同じレベルで重要です。

進出にあたっては、初期的な分析としてこの「CAGE理論」に従って整理すると良いかもしれません。

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