<シンガポール法人税> 為替差損益の税務上の取扱い。

税務会計における少し複雑な論点として、為替換算差額の取扱があります。当記事では、

IRAS Income Tax Treatment of Foreign Exchange Gains or Losses for Businessesを参考に、シンガポールにおける為替差損益の取扱について解説したいと思います。

資本取引か損益取引か

シンガポールでは、事業による収益の稼得に関連した取引(Revenue in nature)のみを課税の対象としています。そのため、資本金回りの取引や機械設備購入など、資本取引(Capital in nature)から生じる損益については、課税の対象外としています。

この考え方は、為替差損益の課税の考え方にも適用され、収益取引(Revenue in nature)から生じた為替差益は課税対象、為替差損は損金算入可能となり、一方で資本取引(Capital in nature)から生じた為替差益は課税対象外、為替差損は損益算入不可となっています。

そのため、会計記帳の際には取引が収益取引(Revenue in nature)なのか、資本取引(Capital in nature)なのかを区別しておくことが必要です。

実現損益か、非実現損益か

為替換算が実現したものか、否かで為替差損益を区分することもできます。

実際に外貨建ての債権債務が決済されて為替差損益が確定するケース(実現損益)

決算時点で外貨建債権債務の価値を算定するために評価額を算定するケース(未実現損益)

上述のとおり、税務上為替差損益を考慮しなければならないのは収益取引(Revenue in nature)においてですが、この場合、実現損益及び未実現損益どちらのケースにおいても課税計算上益金算入、または損金算入することとなります。

表示目的の為替換算

シンガポールでは、国際会計基準(IFRS)に従い、以下を別々に利用することがあります。

・会計の記帳通貨

・財務諸表の表示通貨

記帳に利用する通貨を機能通貨(Functional Currency)、財務諸表の表示に使う通貨を表示通貨(Presentation Currency)と呼びます。

例えば、取引時の通貨が日本円(JPY)であっても、会社の主要な取引が米ドル(USD)で行われている場合は、USDが機能通貨となるため、記帳時にJPYからUSDに換算することとなります。

財務諸表の表示通貨は任意の通貨を採用することができますが、たとえばシンガポールドル(SGD)を表示通貨とした場合には、決算期末日に財務諸表を作成する際には、機能通貨であるUSDからSGDに換算することになります。

この換算によって生じる為替差損益は、収益取引から生じたものではなく、単純な表示目的の換算差額であるため、税務上益金・損金算入しないこととなります。

為替差損益の性質 換算差益 為替差損 実現 / 未実現

資本取引

(Capital foreign exchange)

課税なし 損金算入不可

収益取引

(Revenue foreign exchange)

課税あり 損金算入できる 実現・未実現どちらも対象

表示目的の換算

(Translation foreign exchange)
課税なし 損金算入不可

外貨預金の評価替換算

一般的な考え方

企業によっては、外貨通貨建ての銀行口座を保有しています。例えばシンガポールの企業が、シンガポールの取引銀行において、円建口座を保持する場合などです。このような場合、決算期末に期末日レートにて表示通貨(Presentation Currency)へ換算する必要があります。

当該換算によって生じる為替差損益については、通常資本取引(Capital in nature)とみなされ、課税対象外(損金不算入)となります。その理由は、

1. 一般的に銀行口座資金は事業上の資本資産とみなされる。

2. たとえ銀行口座資金が、売上代金及び事業用支出の支払を目的とする場合でも、売上代金の回収時、または費用支出時の決済時点において為替換算されるため、銀行預金の換算から生じる評価差損益については、為替差損益を認識すべきではない。

外貨預金の評価替換算が収益取引となる場合

ところが、会社によっては外貨建の口座を、海外との事業取引における決済資金用として保持する場合があります。

たとえば、外国企業との取引から生じる売掛金や外国企業への事業費用等の支払などですが、このような外貨決済用の口座は事業決済という特定の目的以外では利用されないことが多いです。

そのため、事業用の外貨決済口座を利用した取引は、収益取引(Revenue in nature)と考えることができ、その期末評価換算から生じる為替差損益は課税対象/損金算入するべきと言えます。

この取扱について、2020年賦課年度(YA2020)までは実務上、ある特定の外貨(例えば円)について事業用の外貨決済口座とその他の取引(例えば資本取引)用の口座の2種類を保持していなければ、収益取引(Revenue in nature)と認められませんでした。

この点2020賦課年度(YA2020)以降より、以下の取引基準額(de-minimis limit)を超えない場合には、例え収益取引用とそれ以外の取引用の2口座を保持していない場合でも、為替差損益の評価換算差額を収益取引(Revenue in nature)として取り扱うことが認められることとなりました。

外貨口座取引を収益取引とみなすための取引基準額(De-minimis limit)
  1. 資本取引の年間取引数が12を超えない

  2. 資本取引の年間取引金額が500,000シンガポールドルを超えない

この基準の算定にあたっては、支出側、収入側の合計数(額)を考慮する必要があります。

また、当該基準に従って評価換算差額を収益取引(Revenue in nature)として取り扱うためには、取引の性質を一つずつ把握する必要があります。この作業が煩雑である場合は、原則に立ち戻って、外貨口座の期末換算差額は、資本取引(Capital in nature)として、益金不算入/損金負算入の取り扱いとすることになります。

まとめると以下のとおりとなります。

外貨口座の性質 YA2020 前 YA2020 後
収益取引のみを目的とした口座

収益取引

(益金課税/損金算入)

収益取引

(益金課税/損金算入)
収益取引のみを目的としない口座

資本取引

(税務非課税)

De-minimis limitを満たせば、収益取引

(益金課税/損金算入)

それ以外は、資本取引

(税務非課税)
複数の目的の口座であり、de-minimis limitを適用しない

本取引

(税務非課税)

資本取引

(税務非課税)

上記に従い外貨口座の換算差額を収益取引(Revenue in nature)として取扱うためには、次の点に留意する必要があります。

1.事業取引の収入及び事業費用の支出のみを目的とするよう管理すること

2.根拠資料(supporting documents)を保持すること。資金の動きがわかる銀行明細などが該当する

3.対象となる外貨口座の詳細を税務計算資料に明記する。例えば、口座番号や外貨の種類

さいごに

さていかがでしょうか。為替換算の原則的な考え方及び外貨預金の換算差額の取扱について解説しました。少し複雑で間違いやすいところでもあるので、丁寧に会計処理する必要があります。


当該情報は執筆時現在に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。

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