投資持株会社(Investment Holding Company)とは?所得計算方法を解説。

本記事ではシンガポール特有の税制である、投資持株会社(Investment Holding Company)の課税所得計算について解説したいと思います。

投資持株会社(Investment Holding Company)とは

投資持株会社(Investment Holding Company)とは、

不動産や株式等への長期保有を通じて投資所得を得ることを主たる目的として設立された会社

をいいます。ここで投資所得(Investment income)とは、以下のような所得をいいます。

・配当(dividend)

・利息(interest)

・賃貸収入(rental income)

・ロイヤルティ(loyalty)

金融インフラの整っているシンガポールでは、その税制メリットも相俟って、不動産投資や子会社への出資のみを事業として行う会社が多いです。このような投資会社については、通常の会社とは異なった税制上の取り扱いがなされます。

投資持株会社の課税所得の計算方法

シンガポール税法において、課税所得はその源泉の別に、益金(収益)から損金(費用)を控除して算出されます。そのため、投資持株会社(Investment Holding Company)においては、配当・利息・賃貸収入・ロイヤルティの種類ごとに対応する損金を控除して課税所得を算出します。

費用は、関連する投資所得からのみ控除することができます。例えば、賃貸収入から控除できる不動産税は、対応する不動産に関するもののみ控除可能となります。

費用が関連する投資所得を超える場合に、他の投資所得から控除することはできません。

投資持株会社(Investment Holding Company)の税額計算の手順はこちらが参考になります。

通常の会社と同様に、税率は17%であり、会計年度を基準として申告することとされています。

一般敵な会社における損金についてはこちらを参照→シンガポール法人税の損金について詳しく解説。

投資持株会社で損金算入可能な費用

通常の会社であれば、所得の獲得に係る費用については原則として損金算入することが認められます。一方、投資持株会社(Investment Holding Company)は、その特別な性質のため、益金から控除できる費用項目について以下の3つに区分され別途規定がされています。

・直接費用(Direct Expenses)

・法定費用(Statutory and Regulatory Expenses)

・その他費用(Other Expenses)

直接費用(Direct Expenses)

直接費用(Direct Expenses)とは、投資所得(Investment income)の稼得に直接関連するものであり、各投資所得から控除することができます。例として以下の様な項目が挙げられます。

直接費用(Direct Expenses)の例
・投資のためのローンに関する利息費用(Interest expenses on loan taken to acquire investment)

・投資資産に対する保険(Insurance)

・投資不動産のマネジメント費用(MCST management fees)

・不動産税(Property tax)

・修繕費(Repair and maintenance)

該当する投資資産に関する支出であっても、投資所得(Investment income)を稼得する前に発生した費用については、直接費用(Direct expenses)とは認められません。IRASのHPでは以下の様な状況が例示されています。

投資のためのローンに関する利息費用であっても、当該投資から配当や賃貸収入が発生していない場合。

(Interest incurred on loan taken to acquire shares or properties that have not commenced to derived any dividend or rental income)

法定費用(Statutory and regulatory expenses)

法定費用(Statutory and regulatory expenses)とは、会社法の規定などに従い支出が求められる費用のことです。例えば以下のような項目が挙げられます。

法定費用(Statutory and regulatory expenses)の例

・会計関連費用(Accounting fees)

・年次開示費用(Annual listing fees)

・監査費用(Audit fees)

・銀行手数料(Bank charge)

・税務関連費用(Income tax service fees)

・印刷文具費用(Printing and stationery)

・秘書役関連費用(Secretarial fees)

上記のほか、法定費用(Statutory and regulatory expenses)に該当するかの判断基準として、以下が提示されています。

法定費用(Statutory and regulatory expenses)の判断基準
  1. シンガポールまたは他国における明文法(written law)に従ったものか
  2. 政府、公的機関または証券取引所によって公開されたコード(code)、基準(standard)、ルール(rule)、要求(requirement)、文書(document)に従ったものか
  3. 公開草案(any proposed law /document)の影響度調査に関連するものか
  4. 法律等(law /document)へのコンプライアンスに関するものか
  5. 法律等(law document)への自発的な準拠(voluntarily complying)に関するものか

IRAS HP

その他費用(Other Expenses)

その他費用(Other Expenses)は、直接費用(Direct expenses)または法定費用(Statutory and regulatory expenses)に該当しない費用であり、以下が例示されています。

その他費用(Other expenses)の例

・アドミ管理費用(Administrative and management fee)

・役員報酬(Directors’ fees)

・一般費用(General expenses)

・オフィス賃借料(Office rental)

・電話代(Office telephone charges)

・水道光熱費(Office water and light charges)

・従業員給料等(Staff salaries, allowances, bonus and approved provident fund contributions)

・旅費交通費(Transport expenses)

その他費用については、投資所得(Investment income)の年間総合計額の5%を限度に控除が認められます。なお、各投資所得における損金算入額の算定は、その他費用の合計額を各投資所得の全体に占める割合で按分します。

例)

賃貸収入:100、配当:200

その他費用:30

この場合、損金算入可能費用額は300*5%=15

賃貸収入から控除できる「その他費用」:5 (15*100/300)

配当から控除できる「その他費用」:10(15*200/300)

損金算入がみとめられない費用

上記の規定にかかわらず、「資本取引に関連する費用」及び「所得が生じない投資に関する費用」については、損金として所得から控除することは認められません。

資本取引に関連する費用(Capital Expenses)

シンガポールでは、事業による所得の稼得に関連した取引(income in nature)のみを課税の対象とする考え方に基づいているため、資本取引(capital in nature)については、そもそも課税対象外となります。そのため増資や設備機械の購入など、資本取引から生じる費用や損失ついては、損金算入が認められません。この考え方は、投資持株会社(Investment Holding Company)についても適用されます。

なお、投資持株会社(Investment Holding Company)については、投資所得が生じる前の資本的支出、たとえば冷蔵庫やエアコンの購入費用は、資本取引(capital in nature)となり損金算入することはできませんが、投資所得が生じたあとに当該資産を取り替える支出については、投資所得の稼得のための支出となるため、損金算入することができます。

所得が生じない投資に関する費用(Expenses on Non-Income Producing Investments)

損金算入が認められるのは、関連する資産から投資所得が生じる場合に限られます。そのため、所得が生じていない段階での関連費用についても損金算入は認められません。例えば、以下のような費用が該当します。

所得が生じない投資に関する費用の例

・投資資産の購入に際して支払った印紙税(stamp duty)その法務費用

・配当がない株式の取得のための借入から生じる利息費用(interest expense)

・最初の借主(tenant)を獲得するために支払った手数料(Commission)、広告費(Advertising)、法務費用

キャピタル・アロワンス(Capital Allowance)

事業活動を行わない投資持株会社(Investment Holding Company)では、日本の減価償却費に類似するキャピタルアロワンスは認められません。固定資産関連支出については、上述のように、既存の固定資産の取替費用のみが損金算入できます。

繰越欠損金(Unutilised Losses)

通常の会社では、所得から控除しきれなかった損失については翌年度以降に繰り越して、将来年度の所得から控除することができますが、投資持株会社(Investment Holding Company)では認められません。

グループリリーフ(Group Relief)

グループリリーフ(Group Relief)とは、シンガポール国内で複数の関連企業を運営している場合に、ある法人で生じた欠損金を他の関連会社の所得と通算できる制度をいいます。通常の会社では使うことができないグループリリーフ制度(Group Relief)についても、投資持株会社(Investment Holding Company)は利用することができません。


当該情報は執筆時現在に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。


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