シンガポール金融庁(MAS)は、2024年11月28日にREIT(不動産投資信託)市場の健全性向上を目的とした新たなレバレッジ要件と開示強化策を発表しました。
これにより、投資家保護を強化しつつ、REITが運用上の柔軟性を維持しながら慎重に借入を行うことが期待されています。
改正の概要は以下の図のとおりです。詳しくは本文をご参照ください。
シンガポールで投資を始める際に、有力な候補となるのがシンガポールの不動産投資信託、シンガポール・リート(Singapre REIT)ではないでしょうか。 現在の世界的な株式や債券の下落相場の中、私も投資をするにあたって色々検討したい[…]
シンガポールリートのレバレッジ要件の合理化
新たな要件では、すべてのREITに対して以下の2つの規制が適用されます。
最低1.5倍の利息カバレッジ比率(ICR)
インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)は、企業が借入利息を支払う能力を示す指標です。
ICRは「純利益÷支払利息」(倍)で算定することができ、純利益が支払利息の何倍を稼いでいるかを示します。
例えばICR=2倍ということは、純利益が支払利息の2倍稼得できていることを意味し、数値が高いほど財務コストが低く安全性が高いことを示します。
今回の要件変更により、全シンガポールREITが最低1.5倍のICRを維持する必要があります。
これにより、REITが過度な借入によるリスクにさらされることを防ぎます。
50%のレバレッジ制限
総合レバレッジとは、「リートの負債÷ リート資産」の比率であり、リート資産の取得に対する外部負債の割合を表すものです。です。
レバレッジ比率が50%ということは、リート資産のうち50%が外部からの調達負債で運用されているということです。
外部負債は返済義務があり、また支払利息が発生するので過度な借り入れはリスクがあり一定水準に制限する必要があります。
従来よりシンガポールREITのレバレッジ制限は45%で、50%に引き上げる場合にのみ最低2.5倍のICRが要求されていました。
今後は全REITに対して単一の50%制限、及び前述の1.5倍のICRが適用されます。
これらの変更により、REITは借入の柔軟性を保ちながらも、過度なリスクを回避し、より健全な財務運営が促されることになります。
追加の開示要件
さらに、REITマネージャーには、財務の透明性を高めるために以下の開示が義務付けられます。これらの開示要件は、2025年3月31日以降に終了する会計期間から適用されます。
レバレッジとICRの管理方針の開示
REITマネージャーは、レバレッジ比率とICRレベルをどのように管理するか、その方針や戦略を一般的に開示する必要があります。
感度分析の実施と開示
REITは、税前利益(EBITDA)の変化や金利上昇がICRに与える影響について感度分析を実施し、結果を公表しなければなりません。具体的には、以下2つのシナリオを含める必要があります。
万が一、REITのICRが1.8倍を下回った場合、REITマネージャーはICRを改善するための措置や計画を立て、それを開示しなければなりません。
さいごに
昨今の金利上昇と不動産賃貸収入の伸び悩みにより、REITのICRが低下しており、財務リスクが高まっていますが、今回のMASの新たな要件はREITの財務リスクを抑制し、投資家保護になると考えられます。
MASの今回の改正は、健全な借入規律を保つと同時に、REITマネージャーの財務管理責任を明確にするもので、より安全にシンガポールREITへの投資を続けることができるのではないでしょうか。
引き続き、シンガポールリートの動向をウォッチして行きたいと思います。
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