コロナ下にあって、シンガポールでは「在宅勤務(Work From Home: WFH)」が標準の働き方として政府より強く推奨されています。
在宅勤務を行うにあたり、従業員に対して仕事に関連する備品(デスクやIT機器)の購入を指示している会社も多いのではないでしょうか。
当記事では、シンガポール税務当局より公表されたシンガポール法人所得税における「在宅勤務(WFH)に関連してた支出の税務上の取り扱い」について紹介したいと思います。
シンガポールの会社法人税計算は、非常にシンプルです。日本ですと事業税や住民税などの影響があったり、複雑な調整項目があったりしますが、シンガポールは原則として税率17%の法人税一本であり、税務当局としてもなるべく税務申告の負荷を減らして事業[…]
基本的な考え方
シンガポールの税制では、本業による所得の稼得に関連した取引(Revenue in nature)のみを課税対象とし、本業に直接関連しない資本取引(Capital in nature)については課税対象外となります。
そのため、資産の譲渡益などキャピタル・ゲインについては非課税とする一方で、資本取引から生じる費用や損失は税務上損金として取り扱うことはできません。
ただし、設備投資を促進するため、資本的支出に関連する減価償却費についてはキャピタルアロワンス(Capital Allowance)として損金算入を認める税制となっています。
そのため、在宅勤務(WFH)に関連して従業員が購入した資産について、会社(Employer)が所有権を有する場合は、支出額について減価償却費(キャピタル・アロワンス)として損金算入することができます。
また、その後、WFHの終了により当該資産の所有権を従業員に譲渡するケースでは、資産価値をその時点の市場価額(Open market price)とし、譲渡益が出る場合は通常のキャピタルゲイン非課税の例外として、売却益のうちキャピタルアロワンスとして損金算入された金額について、課税対象の所得と取り扱うことになります(リバース・チャージ)。
市場価額(Open market price)の基礎となった根拠資料については、IRASの求めに応じて提出できるように保管する必要があります。
簡便的な取り扱い
原則的な取り扱いでは、従業員への所有権の譲渡時に資産の市場価額を調べるなど、実務上手間がかかってしまいます。
そこで、2021、2022賦課年度については、適格資産(Qualifying Asset)において以下の簡便的な取り扱いが認められます。
適格資産(Qualifying Asset)の対象
・以下のどちらかを満たす
ー1.Income Tax Rule 2004に列挙された「自動化のための機器(Automation Equipment)」に該当する
ー2.SGD5,000を超えない少額資産(low-value asset)である
資産の取得原価がSGD2,500以下の場合
資産の取得原価がSGD2,500を超える場合
・3年目の市場価額は取得時の25%とみなす
・それ以降はゼロとみなす
減価償却(キャピタル・アロワンス)制度の特例
なお、現状の減価償却(キャピタルアロワンス)制度における以下のような例外的な取り扱いについても同様に適用されます。
・IT及び自動化機器の100%償却
詳細については、以下のHPをご参照ください。
当該情報は執筆時現在に公表されている法令・ガイドライン等を参照しています。本記事に記載された制度は、法令・条例・通達・税制の変更・改正等により、改廃が行われている可能性があります。従いまして、特定の目的利用及び専門的な判断にあたっては、会計・監査・法務・税務・労務等の専門家にご相談頂くようお願いいたします。本資料に基づいた行為(不行為)につき、一切の責任を負いません。